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◆七神創話【携帯版かも】  作者: あゆみかん熟もも


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第50話(火城へ)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/50.html

(『七神創話』第50話 PC版へ)




 こんな地震は体験した事がなかった。


 立っているのが困難だ。


 身を屈めて。


 縮こまって治まるのを祈るしかない。


「もう……大丈夫みたいだな」


 ゲインが言った。


 私の固まって恐怖で縛られた体は、ほどかれる。


「どうやら……青龍が寝返りでもうったんじゃないか。ははは」


 なんてゲインは笑ってみせるけれど。


 私はとてもそのノリにはのれなかった。


 ごめん、ゲイン。


(四神鏡が2枚……揃い始めたからなんじゃ)


 不安が消えない。


 いつまでも。





 ゲインの家へ帰ってきて。


 私は床につく。


 夜も深い。


 ちゃんと寝ておかなくちゃと少々焦り。


 難なく眠りの淵へ。


 夢の中へ、スルスルと。


 疲れは忘れて別世界への境を越えて。


 誘われるがままに……。


 いらっしゃいませどうぞだった。


「ん……?」


 寝言のようにも思えたけれど、違った。


 意識は夢の中にあった。


 白っぽい視界には水面がある。


 とても透明感のある水質だった。


 下に揺らぐ水草が見えている。


 ……が、ただの私が描いたイメージなんだろうか。


 ハッキリしない。


 ちょっと曖昧なんだけれど、夢なんだから。


 ……ま、いっか! と思い込む事にした。


 そんな美しい水面の上に私は立っている。


 ……のだろうか。


 重力を感じなければ、実感もないし。


 残念ながら私自身の姿は私の目には見えないのでわからない。


 しかし下には自分の足元だけが見える。


 やっぱり立っているんだな。


 微かだが、水面に私の姿が映っている。


 足を少しでも動かせば。


 波紋が一点から揺り描き出されて広がる。


 何処までも広がっていく……。


「あ……?」


 目で追っていったら。


 正面に誰かが居るのがわかった。


 水面から水が蒸発して雲か。


 それともガスでも発生しているのかどうだか。


 白い湯気が大きくたって。


 誰か、を覆い隠してしまっている。


「誰なの?」


 私の呼びかけに答えてくれるのだろうか。


 答えてくれなかったらどうしようと。


 一抹の不安があった。


 でも払拭される。


「俺だ」


 なじみのある男の声だった。


 私は。


「セ……」


 後が続かない。


「よお」


 全てを知っているかのような笑みを浮かべていた。


 霧が晴れて、正体は明らかになる。



「セナ!」


 走った。


 バシャバシャと。


 ……鳴ってよいはずの水を撥ねる音はない。


 全くない。


 していない。


 響くのは声だけだった。


 夢という名の異次元。


「やっと落ち着いて会えたな。すげー懐かしい感じがする……」


と、セナ……目を細めていた。


 セナのそばで私は。


「セ……」興奮を抑えにかかる。


 セナ。


 細身の体。


 薄紫色の、肩の後ろに伸びた細く長めの真っ直ぐな髪。


 長いまつ毛、女みたいな顔。


 言うと怒る……。


「ぷ」


 怒る、と想像して少し吹き出してしまった。


「何がおかしい」


 セナは肩を竦めた。


「ごめんごめん……あはははは」


 私はおかしくなって笑った。


 セナがますます変な顔をする。


 それも何だかおかしかった。


 どうやら私の頭のネジが。


 どっかに飛んで行っちゃったんじゃないだろうかな。


「は……」


 発作的な笑いが下火に落ち着いてきた後。


 代わって静けさがやってきた。


「……」


 沈黙が降りる。


 時間を忘れて。


「……」


 セナも沈んでいて黙っていて。


 私達の間に。


 不思議が訪れて居座っている空気が流れた。


 少し……遠慮しがちに。


 セナがこそりと口に出す。


「チリンの鈴……」


と、片方の手を出して。


 私の前に手の平を広げて見せてくれた。


 握っていたのは、小さな何の変哲もないただの鈴。


 でも私は知っていた。


「チリンの……“通信鈴”……?」


 そうだ。


 思い出した。


 チリンくんが私にくれた事があるんだ。


 元の世界に帰る前だった。


 確か……。


 自分の“会いたい”と思った人と。


 交信しあう事ができる、というもの。


 だから……。


「私に会いに来てくれたの? セナ」


 セナは鈴を固く握り締める。


 自分の胸元に置いて。


 そして。


「まあな」


と真剣なまなざしで私を見据えた。


 とても真剣に。


「……」


 少し緊張して怖くなったけれど。


 セナは何かを言おうとしている。


 聞くのも何だか躊躇(ためら)われた。


「会いたかった……」


 少し擦れた。


 聞き間違えたかと思った。


「会いたかったんだ」


 もう一度。


 同じ言葉は繰り返される。


「セ……」


 まただ。


 私の言葉は何度でも続かないんだ。


 途切れてしまって。


「セナ!」


 飛んだ。


 羽が生えた訳じゃない。


 私が自分の『意志』で、飛んだのだ。


 いや。


 セナの胸に飛び込んだ。


 セナの腕が私を迎えてくれる。


 すっぽりと入っていった。


 私はいつの間にか泣き出していて。


 止まりそうにない。


 後から後からとめどなく涙が溢れてきて。


 肺は苦しいし全身が熱い。


 汗は冷たくなって。


 鼻の奥は詰まりかけていた。


 はっきりいって……みっともない。


「ひぐっ……」


 しゃっくりが止まらない。


 頭は埋めたままだったけれど。


 とてもセナの前で上げる度胸はなかった。


 ……どうしよう。


 セナはしばらく何にも言わなかった。


 ずっと私を抱き締めていてくれて。


 私がどんな情けない醜態を見せた所で。


 全部何もかもがお見通しで。


 そして……。


 全てを受け流すか受け止めてくれるような。


 力の強さを感じていた。


 私はまた自分という脆さを知った。


 今まで何回泣いてきたのだろうか、と。


 もう随分と長い間、この世界で過ごしてきたような気がする。


 でもやっぱり短い期間でもあったような。


 そんな事を考えてしまうけれど。

 別にお別れをするんじゃない。


 私が言いたいのは。


 こんな短期間なのにいっぱい泣いたなあって事。


「ごめんなさ……」


 必死に出したものの。


 謝る事しか頭になかった。


「何で謝る……勇気、何かしたか? 謝らなければならないのは俺の方だろ……」


 セナの言葉は私の耳元で囁かれる。


「セナ、こんなにやつれて……だって……私、一人じゃ全然頼りなくて……皆に心配ばかりかけまくってる……」


 切れ切れで、聞き取りにくい声を。


 セナはちゃんと拾ってくれていた。


「先に心配かけた俺が悪い。気にすんな」


「う……」


 気にするなと言われても。


 どうしても気にしてしまうんだけれどな……。


 もう少し時間が経ってくると。


 私はだいぶ冷静になってきていた。


 もう大丈夫と思って、セナから離れてみる。


 久しぶりに見たセナの顔は。


 やっぱり綺麗だった。


「セナは、ハルカさんの所に居るんだよね? 今」


 聞いてみた。


「ああ」


 セナは帰って来れた訳じゃない。


 実体は、まだ監禁されたままなんだ。


 ならばだ。


「私達、これからそっちにのり込むつもりだよ! 最後の七神も見つかったし!」


 セナはびっくりして私を見た。


「見つかったのか! 七神」


「うん! だから……」


 私は固く自分の手を握った。


 勢いづかせて叫ぶくらいに大音量で言い放つ。


「絶対あなたを助け出す……!」


 引き締まった顔は。


 決心を表していた。


「だって私はセナの事が好きだもの! セナだけじゃない、マフィアも、皆の事も。だから……帰ってきて!」


 セナは。


 少し、顔を背けて。


「ありがとう……勇気」


と悲しげに告げた。


「?」


 私はそれが受け入れ難く。


 どうしてそんな顔をするのか謎だった。


 セナが次に私を横目で見た時には。


 平常心に戻っていたみたいだけれど。


「俺、お前に告白された時。すげー嬉しかった。単純に。俺も、勇気の事が好きなんだろうと思った。でも。……でもだ」


 好きと言われ嬉しくて胸が弾みそうになった。


 でもすぐに消える……すぐに。



「俺、忘れられない人が居る」




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