第49話(最後の七神)・3
距離的に、比較的にもココから近そうな一つの島。
「あれくらいなら、私達の力で行けそうじゃない?」
と、マフィアが提案した。
力とは。
七神の魔力による技……しかも私達、ときた。
マフィアの真意は読み取れる。
使うのは併用魔法だ。
恐らくは、マフィアの木神としての力と。
カイトの水神の力、かな。
前にチャレンジした時は。
4人くらいが定員で限界だったと思う。
でもあれからマフィアもカイトもだいぶ力をつけた。
私、カイト、メノウちゃん、マフィア、ヒナタ、蛍に紫。
7人かあ。
ギリギリ、イケるかも。
私は大きく頷いた。
「やってみる。たぶん行けると思うわ」
自信はあるみたいで。
マフィアは大きく深呼吸。
さっそくだったけれど。
私達は葉という葉を集めてきて。
ちゃんと人数分は乗れるようにと葉っぱでこしらえられた乗り物。
――船を造り上げた。
マフィアの“草鞋”によるもの。
見た目フカフカの木の葉のベッドにも見えたりして。
「それじゃ、行きますかあー」
全く違う性質同士の併用魔法は。
お互いのバランスが常に大事。
そのための集中力と訓練は日頃から必ず鍛錬しとかないと。
絶対にできっこないのだ。
力加減、微細な調節が物を言う。
「皆、乗ったあ?」
続けてマフィアが呼びかけるに対して。
「おっけー、行ってえええ〜」
適当な返事を。
「じゃあ行くわよ、カイト」
「おっしゃー」
息を合わせ、2人ともは まず精神統一。
目を閉じて、立てた指先一点に力の全てを注ぎ込む。
全然心配してないし。
完全に安心しきっていた私を含め他メンバー。
証明できた。
難なくスピードにのって海を渡る事ができたのだった。
いえーい、やったね!
しかし陸が見えて間もなく。
次なる衝撃は私達にやってくる。
到着した島は、確かキタ島という名前の所だった。
私達は船に乗ったままで。
波打ち際の辺りで浮いていた。
そこに立ちはだかった大男。
岩鉄! なイメージを持たせそうな。
頑丈な鎧やしっかり刈られた頭。
おじさんだった。
腰に太い剣がさしてある。
彼は何?
皆がそう思ったに違いないと。
しばらく男の出方を窺っていたらだった。
男の口からその衝撃は放たれる。
「おう! 待ってたぜ、救世主一行よう! ―― 俺が七神のうちの一人だ!」
……。
へ?
私は開いた口が塞がらなかった。
身が固まったまま。
……そして!
ばっしゃん!
船はバランスを失い。
……落ちた。
「……」
全員、水の上に落ちてびしょ濡れになる。
集まり固まっていた葉っぱは散り散りに。
原形はなくなった。
浅瀬だったのでお尻に受けたダメージは ほとんどないが。
そんな事よりもだ。
……誰だって?
唖然、愕然、衝撃というより襲撃じゃないだろうか。
私達を襲う。
「な、何で私達が救世主だと……」
目の前のおじさんは言った。
「ん? 魔法使って来たし?」
突きつけられた現実を受け入れようと。
私達は必死に立ち上がろうとしていた。
少しの時間をもらって。
私達は やっと自力で再起して立ち上がり。
おじさんとマトモに会話できるようになった。
あまりにも拍子抜けしすぎると。
こんな事態に陥るんだねと何かを学んだような気がしつつ。
私が代表して前に出た。
「こんにちは……」
とはいえ。
相手は30代くらいの大柄な男。
岩鉄とは言ったが。
よく見るとそんなに怖い顔はしていない。
眉毛は濃く太いし。
貫禄があるが。
気難しさはなく温和そうに思えた。
ちょっとずつ慣れたのか安堵しながら。
ご機嫌を窺う。
男はニッと口を吊り上げ片方の頬にえくぼを作り。
白い丈夫そうな歯を見せて突然クイズを出した。
「さて、何神でしょう?」
し、七神クイズ?
「ええと……」
一瞬面を食らったけれど。
すぐに過去チリン少年だったか……が。
言っていた事を思いだした。
『あと、光神と土神でしょ? 大丈夫、すぐ見つかるよ。近いうちに、あっちから やって来るだろうから』――そんな事を。
「土……神?」
おずおずと。
ないようである自信を込めて言ってみた。
男はいきなり。
私の背中をバンバンと叩き出したからたまらない。
「―― !」
痛かった。
「正解だ! お前やるなあ〜」
のんびりとした口調が返ってくる。
お、大当たりですか。
痛くてあんまり嬉しくない。
男は満面の笑みで私達全員を歓迎してくれた。
「今日は俺ん家へ泊まれよ! リカルも待ってる」
(!)
驚きウロたえたのは私だけだ。
すぐさま緊張が私の中で血流にのって走り流れた。
リカル、その名前に。
「話が上手すぎねーか?」
私の胸中をよそに。
背後で頭の後ろに手を組みながらカイトが言っていた。
男の名は、ゲイン。
ゲイン=ジャーニ=ワイド。
27歳(!?)。
そしてリカルというのは、奥さんの名前だった。
まさか結婚していたとは。
いや変でもないか。
まあいいや。
どうぞ呼び捨てで構わないと言っていた。
ゲインの家へと招かれる。
行く道の先々で島の人達に挨拶され。
ゲインはニコニコしながら愛想よく答えていた。
それから家に到着。
玄関のドアを開けると。
優しそうな若い女の人が出迎えてくれていた。
「いらっしゃいませ。どうぞ」
声も落ち着いていて安らぎを感じる。
どうやらこの人が奥さんのようだ。
長い柔らかな黒い髪を後ろでシンプルにまとめ垂らしていた。
口元のほくろが色っぽい。
「さあ上がれ上がれ! 荷物は部屋に運んどくぞお! わっはっはっ」
大声で笑いながらリカルさんの横を通りすぎた。
リカルさんはゲインを見てクスクス笑う。
「ゲインったら子供みたいに はしゃいじゃって……」
何とも微笑ましい風景なんだろうか。
ついつい私達もニヤけてしまった。
私達は言葉にどんどん甘えて。
リカルさんの手料理をご馳走になる事になった。
粗末ではなく。
とてもシンプルな献立。
2〜3種類の野菜とお肉を混ぜて煮込んだだけのものや。
パンプキン風の温かいスープ。
ポテトサラダ。
自家製で淹れて下さったホットティー。
じいいいんと、体が芯から温まるような食卓だった。
とても家庭的なスタイル。
お手本にしたいくらいだと思った。
これまでの旅のうち、かいつまんだ話をした。
風神、セナと出会った事から始まり。
レイという闇神と敵対している事。
ハルカという炎神も向こう側についてしまって。
セナは捕らえられているという事。
四神鏡や天神、邪尾刀と光頭刃の関係。
……それくらいかな。
あんまり詳しく話し込むと。
長すぎて夜遅くまでかかっちゃいそうだから。
ほどほどに。
「すげえ事になってんだな。んじゃ、これからその敵の……兄ちゃんとこに行くって訳か。聞いてると、一筋縄じゃいかない相手みたいだがな」
と、食事を終えてお茶を飲みながらゲインは言った。
そうなんだよね、と私は気が重く。
ため息が出てしまった。
「考えてたって仕方ねえよなあ。思いつくうちの、やれる事はやってみないとな……さっ、今日は早く寝ちまいな。おおいリカル、布団は敷いたか」
ゲインは、台所に居るだろうリカルさんに大きな声で呼びかけた。
そのうち、「はいはい。ただ今」と返事をしながらトタトタと。
リカルさんは居間を通り抜けて。
2階へと続く階段にと上っていった。
私も手伝おうかなと。
リカルさんの後を追った。
2階の客間では。
リカルさんがすでに布団を出し始めている。
「ごめんなさい。布団の数は足らないから、狭いですけど詰めて寝て下さいね」
と、私に優しく微笑みかける。
「あ、いえ。そんな。いきなり大所帯で押しかけたんですもん。こちらこそ、お気遣いすみません」
私が頭を下げると。
リカルさんは私の所にやって来て。
何故だか片肩に片手を置いた。
それから。
顔を上げた私の目をジッと見ている。
何だろう?
「……リカル、という名前が気に障るのでしたら、どうぞルイ、とお呼び下さいな。リカル=ルイ=ワイドと申しますので。好きに呼んで下さって構わないんですよ」
と、不思議な事を言った。
「……?」
私はすぐに理解ができなかった。
名前?
リカル?
「私は何となくですけど、人の考えている事が読めるのです。だから。あなたはリカル、という女の子……かしら。思い出したくない過去がおありのようでしたから。おせっかいかもしれませんでしたけども」
私は手を休めず動かし続けているリカルさんを。
……すごいを通り越して感動してしまっていた。