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◆七神創話【携帯版かも】  作者: あゆみかん熟もも


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第49話(最後の七神)・2


「ひいやああ〜」


 情けない悲鳴が飛んだ。


 カイトやヒナタが目を真ん丸にして見ている。


 蛍は嫌そうに。


 私が滑りながら近づくと「来ないで!」と邪険にして手で振り払った。


 ドンと押されて紫の方にアワアワしながら体が当たると。


「大丈夫ですか。落ち着いて……」


と、しっかり受け止めてくれていた。


 うう、優しい。


「お姉ちゃん、見て見て! こうすればいいんだよ!」


と、メノウちゃんの陽気な声がした。


 見ると、メノウちゃんは行く先々にスイ〜スイ〜っと。


 片足ずつを前に前にと出して。


 逆八の字を描きながら滑っていった。


 これはこれは……。


 アイススケートの要領だった。


「なるほど……ようし」


 私も、見よう見真似というやつで格好つけてみる。


 スイ〜スイ〜っと。


 カイトの横を通りすぎるまで一気に行ってみた。


 おお。


 上手くなっている。


 どうにかコツを呑み込んだみたいだった。


 いや、若いからと言ってほしい。


「面白〜い。楽しみだからか、楽チンね」


 私は大喜びで先頭を走っていった。


「おいおい。先に行くな! 魔物が現れたらどうすんだ」


と、後ろからカイトが早歩きで追いかけてきたり。


「は〜い」


「皆早くう〜」


と、私とメノウちゃんは張りきっていた。


 そうして魔法の効果がきれた頃。


 私とメノウちゃんは足がクタクタになって。


 背中合わせになって地面にズルズルと沈んだ。


「ま、休憩しましょうね〜」


 優しさをたーっぷり込めて。


 マフィアが私達の頭上から声をふりかけていた。




 日が沈んでいく。


 晴れ渡っていて雲のある青かった空は赤く。


 遠くから太陽の光の筋や色を運んでくる。


 手前は樹の密集した森のおかげで暗さしかわからないけれど。


 空を見上げて遠くを意識したらそれは、大自然だった。


 筆で絵に描けたらどんなにいいのだろう。


 その中で。


 私達は焚き火と鍋を囲んで夕食を食べていた。


 作ったのは意表もつかず当然マフィアで。


 山菜やキノコを煮込んだ雑炊だった。


 熱くてフウフウ言いながら。


 取り分けられた具の入ったお茶碗を持ってゆっくりと食べる。


 箸とレンゲを進めていると。


 マフィアが話を持ってきた。


「ねえ勇気。後でもいいんだけど、ちょっと見てくれない」


「え? 何を?」


 急に話題をふられて。


 すくった雑炊をこぼしそうになる。


「ミルカの村でね。書庫から頂戴してきちゃった本があるの。何と“七神創話伝”の一節!」


 そう言われて。


 私は雑炊から目を逸らしマフィアに聞き返した。


「ど、ど、どんな!?」


 びっくりしたので、声が上ずっている。


 マフィアは「うーんと……」と。


 人指し指を立てて考えていた。


「えーっと……ちょっと待って……」


 マフィアが荷物の中から本をとって来た。


 ブ厚くも薄くもない、少し古びた本だった。


 パラパラとページをめくり、やがて見つける。


 マフィアがスラスラと読み始めた。


「『七神が誕生した後のこと。生命は進化を遂げたり。

 或る所では魚が生まれ、川を泳ぎて。

 或る所では鳥が生まれ、空を飛びて。

 或る所では人間が生まれ、世界を支配す。

 人間は精霊とともに、この世で生きる道を選びたり。

 しかし、人間と成ることのできなかった者、存在す。

 これが獣なり。

 世界の北を司る獣、玄武。

 世界の南を司る獣、朱雀。

 世界の東を司る獣、青龍。

 世界の西を司る獣、白虎。

 この者たちは、四神獣と呼ばれたり。

 四神獣、万物を惑わし必ずや破壊を導く。

 恐るべき獣なり――』


 この部分だけみたい」


 私はメモ帳とシャーペンを持ってきて。


 書き込んでいった。


 書き終わってから改めて内容を見てみる。


 どうやら。


 ミルカ村で。


 おじいさんが教えてくれたものの続きのような気がするんだけれど。


「獣……」


 何度でも目につき頭の中で復活するフレーズだった。


 恐るべき獣なり――


「獣、か……」


 あの、私やカイトを襲ってきたおじいさんの姿は。


 獣という言葉にしがみつき連動して。


 私の心の隙間に木枯らし風を与えていた。


「人に成れなかったら、どうなってしまうんだろうか……」


 呟かずにはいられない。


 彼らだってなりたくてなった訳じゃない。


 人ではないと、自分を認めなくてはならない時。


 ――悔しさか葛藤をし。


 ついには自分の身を死にたくなるほど呪うんじゃないだろうかと。


 そんな気がした。


 悲しかった。


「全てが終わったら……南ラシーヌに行こうね。勇気」


 マフィアが言うと、私はメモ帳から顔を上げた。


 マフィアは温かい目で私を見ていた。


 国に戻るべきじゃない、と。


 自分が言ってしまった事をずっと気にしていたのかなと。


 だとしたら私のせいで申し訳なかった。


「うん! ……」


 何とか笑ってみたけれど。


 心中頼りなく。


 でも無理矢理にでも元気よく声を上げていた。


 ナニワの森の出口は、きっともうすぐ。


 暗くなりかけている遠くの空を……見つめていた。





 遠く空を挟み、違う所では。


 セナは少しやつれていた。


 特段何も変わっていない境遇。


 ガラスケースの箱の中にいれられた、窮屈な空間。


 食事の用意は運ばれて。


 術か何かで壁を通り抜け床に置かれるけれど。


 セナは手をつけなかった。


「食欲ないのか。食べないと身が持たないぞ。安心しろ、毒なんて入っていない」


 ハルカは来た時にそう告げている。


 しかしセナは無視して黙ったままだった。


「言っとくけど、もし逃げようと思っているのだったら無駄だぞ、それは……まあいい。監獄暮らしを知っているお前には、これぐらい平気なはずだな」


 言い捨てて去ったハルカ。


 セナは思う。


(逃げたりしねえよ……)


 チラ、と横目でガラスケースの外を見た。


 一本足の小さなテーブルの上に。


 布に包まれ丁寧に扱われて一つ一つと並べられている物。


 それは。


 四神鏡である。


「……」


 2枚。


 カケラ……が2つ、にも見えた。


 鈍く、光っている。


 セナはこれが四神鏡であると言われずとも。


 扱かわれ方や状態などから確信はしていた。


(いつまでもココに居座るつもりはないが……約束したしな、勇気と……)


 ダランと首をだらしなく楽にしながら。


 無言の時間は過ぎていくばかり。


 思考する時間は永遠に続きセナを時に苦しめる事がある。


 ……リン。


(ん……?)


 深い沈黙の中から。


 音が波紋のように広がってセナの耳にまで届く。


 ほんの僅かな響きだったはずなのだが。


 残響がいつまでも自分の耳に残っている感覚に襲われた。


 辺りを探してみるセナは。


 やがて見つける。


 小さい鈴が一つ、身近にコロンと。


 しかも今自分があぐらをかいて座っているケースの空間内で。


 可愛らしく、幻ではなく。


 ちゃんとそこに、ある。


「……? これは」


 ヒョイと摘み上げた。


 よく調べてみても、ただの鈴。


 しかしセナには見覚えがあった。


 そう、これは。この物は。


 チリンの、通信鈴である。





 数日か、数十日か。


 やっと、やっとだ。


 私達はナニワの森を無事に抜け出した。


 本当にご苦労様って感じで。


 肩の荷でも下りたみたいだった。


 森を抜けると、そこは海! 海! 海!


 へばっていた私はともかく。


 メノウちゃんだけが大はしゃぎで砂浜を駆け回っていた。


 何その元気。


「わああーい! やっと出れたねえ」


 なんて、喜び! を体で前面に出しながら。


 手を上げたり、飛び跳ねている。


 う、うらやましいその清々しさ、だった。


 ババくさい私はもうどうでもいいとして。


 森を抜けると、海。


 そして地平線へと目を向けたらだ。



 島が見えた。



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