第49話(最後の七神)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓
http://ncode.syosetu.com/n9922c/49.html
(『七神創話』第49話 PC版へ)
“七神創話伝”――
世界を統治し
運命を見守る神
天神といふ
始まりは孤独
そして種だった
種は精霊をつくり
生きる者全てを生んだ
しかし天神は
癒されることは無かった
―― 第六章“天神”より ――
アジャラとパパラの催眠波とやらによって。
ミルカ村の住民達は眠らされ。
その隙に荷物を取りに戻った私達一行は。
急いで村を後にした。
ミルカ村を出てすぐに。
ナニワの森という所へと入って行く。
ナニワの森は地図で確認してみても。
とても広大な森で北の地方めいっぱい。
横這いに広がっていた。
迷わずにしても通り抜けるには。
一週間かそこらはかかるんじゃないかとカイトが言っていた。
森に入りかけた時に。
私だけが立ち止まる。
もちろん、急に歩みを止めた私に皆は注目して。
気がついた順に同じく足を止めていった。
「どうしたの? 勇気」
まずはマフィアだ。
それから後ろに続いていた蛍達やヒナタ。
先頭を行くアジャラ達とメノウちゃんとカイト。
皆がいっせいにこっちを見た。
私は俯いた暗い顔のままで。
吐いたため息と一緒に言葉に出した。
「南ラシーヌ国に戻りたいの……」
皆が無言になる。
私とカイトがアジャラやマフィア達と合流した時に受けた報告は。
私に衝撃を与えた。
かつて訪れ、語り合い協力し合い。
……まだ記憶に新しい思い出。
ううん、まだ思い出なんかにするには早すぎる。
まるで昨日の事のようだった。
南ラシーヌ国。
絶対王政から民主の国へ。
きっとこれから民が国王の元へ集まり。
未来への新しい道が。
開けるだろうという兆しが見えていた矢先だった。
国は滅びた……。
まだ、見た訳ではないので わからない。
国が何処まで壊滅させられたのかが。
規模も状況も。
アジャラとパパラに話を聞いただけで。
さっぱり想像もつかなかった。
想像……これまでに通過してきたキースの街などが思い浮かぶ。
思い出すのに抵抗もあった。
でも、気になって仕方がない。
国王、サンゴ将軍。
……宴の時に肩を組んだり大騒ぎしたりして。
弾けていたノリノリの兵士達。
彼らが、死んだなんて。
もう――居ないなんて!
聞いただけでは信じられるはずがなかった。
私の体は震えている。
今まで、一刻も早くミルカ村を出なくちゃと気を張って我慢していたけれど。
もう限界だ。
ここまで来たらもういいよねと。
……私の視界は涙で歪んでいた。
「戻って……どうするの?」
姿勢のいいマフィアは。
真っ直ぐ私を見つめていた。
見上げた私の顔は少し驚く。
慰めてほしかった訳じゃない。
覚悟はしていた。
マフィアは言う。
「私達には、戻っている暇はない。一度行ってしまったらたぶん、しばらくそこから離れられなくなる。苦しんでいる人達を置いて行く事は……中途半端に手を貸すくらいなら、もう――」
マフィアの重い口調は、続かなかった。
言わなくても充分に飲み込める。
行ってはいけない。
頭では わかっていても。
……私は苦しかった。
「ごめんなさい……マフィア、皆……わかってる。わかってるの……」
涙を喉の奥へと閉じ込める。
泣く訳にはいかないと。
皆の前で気張る。
カイトがやって来た。
「?」
私が見上げようとすると。
頭の上にポンと手を置かれてしまった。
「勇気」
あまり感情のわからない声で。
カイトは私に話しかけた。
何だろう?
「言いな。そしたらスッキリする。次に俺達がどうすべきか。指針を示してくれ」
少し笑いかける。
その立ち姿はとても落ち着いていて。
安心感を私に与えてくれていた。
次の……。
もう……決まっている。
「私達は、このまま七神を捜します」
私の声も落ち着いていた。
「四神鏡はあと2枚。七神と四神鏡。揃わせるのはどちらが先なのか。それを考えて、私達は先に進みます」
と、私はカイトの向こうに居るアジャラとパパラに向かって。
言ったつもりだった。
カイトが言ってくれた通りにして。
形にならずためて渦巻いていたものが吐き出されたみたいで。
スッキリと心が軽くなったようだった。
決意が固まった、と言うべきか……。
「そうね」
と、蛍が口唇の両端をニッと吊り上げて同意する。
「いつまでもフラフラしてんじゃないわよ。でないと、私達あんたを見捨ててレイ様の所に戻るわよ? 救・世主さん」
得意げな眼差しで意地悪そうに言った。
私達というのは、蛍と……紫の事だろう。
レイ側に味方が増えるのも困るけれど。
それ以前に、蛍達が行ってしまうのを寂しく感じた。
見捨てられる、というのもね。
私には蛍の悪態が少しだけ嬉しかった。
おかげで、元気を取り戻す。
「うん。もう決めた。決めてるの!」
と、私は明るく笑ってみせた。
するとそれが広がっていくように。
皆の顔がほころんで和やかな雰囲気になっていった。
前に進み出たアジャラが安心して私に話しかける。
「ならば。私達は世界の何処かにいるはずのハルカやレイ達の居場所を捜しましょう。隠れていると思われますが……見つけ次第、連絡をとるように致します。そちらも、七神が揃い次第。空に向かって呼びかけて下さい。すぐに飛んで来ますのでね」
アジャラとパパラは、去って行った。
空の中へと消えて。
私達は、私達のする事がある。
七神を捜して揃える事だ。
まずそれだ。
七神は……残り、一人。
まだ訪れていない地の何処かに。
きっと居るに違いない。
見つけた後は……。
頭が重くなるけれど。
レイの元へ行くんだろうな。
説得しに。
もしくは……。
……。
……倒す。
見渡す限り。
樹齢何年なんだろうかと思わせる古くたくましい樹が並び。
道は何処だと言わせるくらい密集していたり。
何とか抜けて行くと。
繁みが生い茂って足元を傷だらけにしてくれる。
あまり人は立ち入らない場所なんだなと思いながらの通行だった。
道を作りながら進む感じだ。
なかなか一向に進まない。
カイトは一週間と言っていたけれど。
絶対もっと時間をかけそうだった。
私やメノウちゃんが疲れを見せ始める。
「ほら。シャンとして。もう少し行ったら休憩しよ」
と、ヒナタが呼びかけてくれた。
若いっていいわね……と思いながら。
私も若いじゃないかと自分で自分を落ち込ませる。
うう〜。
「ちょっと楽してみる? お2人さん」
と、マフィアが言い出した。
何だあ?
私が何の事やらと見守っていると。
マフィアはブツブツと何かを唱えながら目を閉じた。
「“百日紅”!」
聞いた事のない呪文を唱えた。
何が起きるかとだ。
「うおおおう!?」
私が声を上げる……と同時に。
何と。
ツルリ、と。
足が滑って危うく転びそうになって。
踏ん張りとどまったのだった!
「きゃああああ〜」
どうやら私とメノウちゃんにだけ、かけられたようだ。
足の裏がツルツルと地面の上を滑ってしまって。
上手く歩けなくなってしまった。




