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第46話(自暴自棄)・2


 現実から退散していた勇気は。


 心の奥で静かに目を開けた。


(静かだなあ……ココ、何処だっけ……)


 水に浮かんでいた。


 水力で水面に浮かんでいる。


 力を感じてそれが気持ちいいと思っていた。


 揺りかごに揺れていた昔を想像させている。


(何処でもいいけどね……)


 勇気は起き上がる。


 すると不思議な事に水面は なくなり。


 ただの地面になった。


 しかし最初から自分の所在している空間自体は。


 真っ暗闇だった。


 温度はない。


「はは……」


 何度か来たような覚えがあった。


 それを思うと乾いた笑いが自然と出てしまう。


(ん?)


 ふと、横の。


 数メートル行った先に人を見つけた。


 白い服を着ているおかげで、目立っていた。


「お兄ちゃん!」


 白い服とは、そう。


 ラーメン屋でいつも着ている作業着とエプロン姿。


 よく知っている顔。


 勇気のたった一人の兄だった。


「ど、ど、どうして!?」


 驚いた顔で、立ち上がって走る。


 兄の近くへと。


 兄は笑って挨拶した。


「勇気。久しぶりだな」


「!」


 久しぶり。


 その言葉に反応して少し考えた。


(お兄ちゃんの事、最近は考えてなかったな……)


 前はよく兄を呼んで頼っていた勇気。


 いつからだろう、呼ばなくなったのは……と。


 急に訪れた疑問に戸惑って俯いてしまった。


 兄は そんな勇気を責める事はなく。


 肩に優しく手を置いた。


「何故だと思う?」


「それは……」


 わからなかった。


「勇気には、俺より大事な人が居たからさ」


 勇気が顔を上げると。


 兄の背後より もっと後ろの遠方から。


 大きな声が幾つも重なって聞こえてきた。


「勇気ー!」


「勇気、おおーい!」


「お姉ちゃあ〜ん!」


 マフィア、カイト、セナ、メノウ、蛍に紫。


 それから……今までに会った事がある村や街の皆が。


 勇気に手を振ったりして呼んでいた。


 その中でセナを見つけた時だけ。


 勇気の心は大きく揺れ動く。


「セナ……!」


 温かく見守っていた。


 常時、あんな顔をしている いつも通りの顔だった。


 何故か今は胸が痛かった。


「どうした? ……行けよ。何を怖がってるんだ勇気」


 兄は たきつける。


 勇気を応援しているつもりが、意地悪に見えた。


「だって……」


 忘れていない。


 セナは今は居ないのだ。


 忘れる事ができない。


「セナはハルカさんの所へ行っちゃったもの……きっと今頃は……」


 嫌な想像しか浮かばない頭を。


 両手でガンガンと叩いた。


 その痛みのせいではない、涙がジンワリと溢れてくる。


「私はもう、いらないの!」


 勇気は自分を追いつめていく。




 信じたものは何だっけ?


 私は何で、何のためにココにいるの?



 もはやセナという後ろ楯を失くした反動からくるものなのか。


 勇気は混乱する。


 セナの裏切りは、小さな勇気の心臓には。


 よほど応えて耐えられなかった。


 関係のない悩みまで巻き込んで。


 勇気は頭を抱え込む。


 その先には――



(セナッ……!)



 夢の最後の叫びは。


 ……小さすぎた。





 光頭刃は、眠る勇気のそばに落ちていた。


 そう。


 勇気の、手元に。


「――死ね!」


 さくらの振るった邪尾刀は、勇気へと。


 一直線に落とされた。


 しかしだ。


 ガシィィインッ!


 金属と金属の ぶつかり合う音が響く。


 刃と刃が対立していた。


 邪尾刀と、光頭刃。


「何!?」


 驚いている さくらの瞳には光頭刃を握る人間の姿が。


 それは、その人物は。


 無論――。



 救世主……勇気。


「……」


 顔は、下の地面を見て眉をハの字にさせている。


 泣きそうで、泣けない表情をしていた。


 手元に触れた光頭刃という最強の武器で。


 迫り来る邪尾刀を瞬間的に受け止めた。


 鞘も蛍のおかげで外されていたので。


 刃身と刃身が真っ向から かち合う結果となった。


(わからない……)


 ググ、と刀と剣はジリジリと引けをとらずにブルブルと震えている。


 動揺の広がる さくらに対して勇気の方は慌ててはおらず。


 むしろ落ち着いていた。


 少しの間だけ、両者の互いの様子見の時間が流れていたが。


 やがて立って俯いたままの勇気の体から。


 温かい風が発生した。


「……?」


 さくらは、また仰天したような顔で勇気の様子を窺う。


 一体、何が起きようとしているのかと。


 興味をそそられた。


 生ぬるい風は少しずつ大きくなり。


 勇気を取り囲んでいく。


 その中で勇気はゆっくりと……顔を上げていた。


 とても悲しい顔をして。


 涙は見られず。


「……」


 そして勇気は剣で――邪尾刀の刀身を弾いてしまった。


「……!」


 さくらは後ろに下がる。


 その刹那。


 勇気は さくらの胸中めがけて斬りつけた。


「!」


 ピシ。


 きれいな、横線がさくらに服の上から斬りこまれる。


 とても細く長いラインを。


 刀を弾かれて後ろに反り返っただけだった。


 その束の間の出来事。


 さくらは何が自分の身に起きたのかさえ。


 理解するのに時間をかなり要してしまった。


 半ば呆然とした さくらの次を待たずに。


 勇気は再び襲いかかる。


「くっ……!」


 剣が、さくらを斬りつける。


 キインッ。ガシンッ。


 金属音を繰り返している。


 繰り返し。


 繰り返す。


 勇気が攻めてくる。


 全く退かない。


 一つ一つの一撃に迷いはなく決して軽いものでもなかった。


 さくらに反撃する暇を与えなかった。


(何なの、この力……これが、まさか これが救世主の真の……)


 小さな少女。


 誰がどう見ても、普通の少女。


 圧倒的な強さなど。


 素直に信じてしまいたくはなかった。


「くうっ……!」


 カァンッ……!


 さくらの手から、邪尾刀が飛んだ。


 刀は空中で転回して遠くへと飛んでいってしまった。


 ザクリと、土の地面に突き刺さる。


「はっ……」


 さくらの油断を見過ごすわけはなかった。


 勇気は(はばか)る事もなく。


 さくらの心臓めがけて突き刺した。


 ザシュッ……



「勇気っ……!」



 マフィアか、蛍か。


 カイトなのか。


 勇気を見ていた者はその衝撃的な一連の状況に。


 叫ばずにはいられなかった。




「あれは、“捨鉢(すてばち)の舞”です」


 紫苑は言った。


 セナの閉じ込められている部屋には紫苑も影なく現れて。


 適当な空間の位置で静止し。


 映像を映し出している幾つものスクリーンを眺めていた。


 紫苑の目と好奇は、勇気に向けられている。


「何だ、それは」


 隣のハルカが聞いた。


 同じく、勇気の映るスクリーンに関心を寄せている。


「救世主の理性が取り払われ、まさに“本能”で身が“動かされ”ているのです。ハルカ殿……これで満足致しましたかな」


 特に表情を変える事はなく、驚く風でもなく。


 紫苑は静かに、見守っているだけだった。


 ハルカもだった。


「たかが小娘一匹ごときで……」


 顔は崩さず、悔しそうなセリフを吐いた。


 それを後ろで透明のケースの部屋に入っているセナにも。


 しっかりと聞こえていた。


「勇気……」


 セナは何と言えばいいのかを考えながら。


 勇気を目で追っていた。


 紫苑の説明を噛み締めながら。


 本能のままだ、と。


 紫苑の重圧がかった声は。


 誰の胸の内にでものしかかってしまって消えそうにはなかった。



「彼女は名の通り、ただ者ではない。よい機会でもある、とくとご覧になられるがいい……ハルカ殿も薄々と感じておられたのでしょう? レイ殿が救世主に興味を持たれた、その理由を」


 もうひと言。


「レイ殿が本気で殺せなかった理由を……」




 勇気の死んだような目には。


 ……薄っすらと涙が浮かんでいた。



《第47話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 コメディないなあ……と思いながら。よく考えたらシリアスだったんですよね、この小説。作者ウッカリ。そしてグッタリ@時に まったり。


※本作はブログでも一部だけですが宣伝用に公開しております(挿絵入り)↓

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-112.html

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