第44話(誘[いざな]われた風神)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
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(『七神創話』第44話 PC版へ)
「13歳っ!?」
「私と同年!?」
と、しょっぱなから驚いているのはマフィアと私だ。
いやいや、大げさに声を上げてしまったのはマフィアと私だけだが。
セナやカイト達も顔は驚いている。
「そうだけど。何か変?」
ヒナタがムッとして こっちを見る。
私とマフィアは慌てて手を振った。
「もっと年下だと思って」
「もっと年上だと思ったの」
と、マフィアと私は同時に逆の事を言った。
「下」
「上」
あれ、もう一回とも。
マフィアはヒナタが もっと年が下だと。
私は上だと思ったみたいね。
「俺は上かと思ったぜ」
「いや俺は下だな」
セナとカイトが加わって来る。
「メノウは上ー!」
「フン、下よ」
と、メノウちゃんや蛍まで便乗した。
紫はノーコメントだった。
「上でも下でも どっちでも ええっつうの! とにかく俺は13歳! 何なら証拠 見せたろかオラぁ!」
と、フンがああ〜! っと怒鳴るヒナタ。
(どんな証拠だ……)
皆の顔は そう言っている。
コホン、と咳払いを一つして。
改めて自己紹介を始めた。
「ヒナタ=ノーベン。年は13歳。ワマとイルサの混血で、感情が理性で制御できなくなる限界に達すると性別が変わってしまう……ちょっと不便な体質。女バージョンではソピアと名のっているけど……ヒナタの方が、本名だから。ま、ややこしいなら女の時はソピアで」
「ヒナタ、な。よろしく、仲間!」
と、ヒナタの肩後ろをバンバン! っとブッ叩くカイト。
強すぎたのか、少しヒナタは むせた。
「これで6人目。ついに……ついに、あと、一人なのね!」
私は意気込んだ。
顔を上げると皆コックリ頷いた。
……そう。
光神で あるヒナタさんが見つかった事で。
七神は残り一人と なった訳であるからして。
あと一人見つかれば、そうしたら、ついに……。
「青龍、ね」
マフィアが、言う。
「そうだね」
緊張気味に私は言った。
「それじゃそろそろ出発するとするか! 準備は いいよなぁ?」
荷物を確認し、セナは辺りを見渡した。
「ぬかりなし!」と元気よく皆が答えると。
「よし! 行くぞ! 北へ!」
「おうっ!」
セナの かけ声で、皆は立ち上がった。
村長とは、アッサリとした別れを告げ村を後に した。
ヒナタには「気をつけてな」の ひと声だけをかけた村長。
でも。
遠く小さくなっていくヒナタの背をずっと ずっと。
真剣に見守っていてくれたようだった。
ヒナタも、それには感謝しているみたいだった。
目指すは北のルマ山脈。
ココを越えないと、北の村へは行けない。
この山脈は とっても険しいらしく。
厳しいらしいので それ相応の用意が必要。
なので。
ルマ山脈に突撃する前に少し買い物をしようという事に なった。
ちょうど街道が あったので。
そこで各自買う物を買いに行く事に。
私はマフィアと一緒に雑貨屋に行った。
特に買う物なんてないけれど。
こういうのって見るだけでも楽しいしね。
「ココ押すと水が出るんだって。変な玩具」
とマフィアが手に持っているのは木彫りで作ってある猫。
右の耳を押すと猫の口から水が出てきた。
反対の耳を押すと今度は ぬるめのお湯が出てきた。
携帯ポットみたいね。
「あ、髪どめだ。可愛い」
私が陳列された所から手に とったのは。
小さな赤い花が一つずつ付いた髪どめが2つ入っている袋。
「ぷ……セナに着けてみる? セナも そろそろ髪が伸びてきたもんねえ。後ろ縛っとくと楽かもよ」
マフィアが意地悪そうに笑いながら勧めている。
セナに髪どめ……ヘアーゴム……化粧……女装……?
「いかん いかん!」
慌てて首を振った。
危なかった。
変な所に さ迷い突っ走る所だった。
「そこまで拒否しなくても……いいじゃない。似合うと思うけどな」
だなんて。
マフィアは他のヘアーアクセサリーをつまみながらブツクサ言っている。
「あ……」
ヒョイと目先を変えるとピアスコーナーが あった。
色も種類も割と豊富に。
シンプルな球型から、星とかハートとか。
やけに凝った装飾の施された物とか。
どれもこれも可愛いしカッコいい。
「ピアスならセナ、着けてくれるかも」
と、並ぶ商品を大雑把に目を通していく。
あんまり凝った物はセンスわからないし。
シンプルな方が いいかな、と思ったらだ。
一つ、目を引いた色でシンプルに、真珠みたいで光沢のあるピアスが あった。
薄紫。
セナの髪の色。
セナの あの整った顔立ちに。
一本一本が細く強く柔らかく肩より伸びた薄紫色の綺麗な髪。
そして済んだブルーアイ。
薄くキリッと引き締まっている口元。
セナは綺麗で、見る者を圧倒させる気品が備わっている。
本人は女顔扱いされたりすると激怒しちゃうけれど。
耳に さりげなく着けたピアスとかが、いっそう気品を際立たせているんだ。
改めて見ると思わず ため息をついてしまう。
きっと。
髪の毛と同じ、この色のピアスなら。
すごく似合うような気がしてきた!
ますます思い込みは加速していきそう。
なので。
「これ、下さい!」
ルマ山脈は噂通りで。
長く険しい道のりが続いている。
土砂の道なんだけれど。
それが坂道で緩やかに延々と先まで のびているんだ。
両横に草木や樹木を挟んで道が ある。
私なんて へろい奴は、皆より すぐ息が上がってしまって。
足元が おぼつかなくなってきた。
「大丈夫? 勇気……」
と、後ろのマフィアが心配そうに言った。
「へ、平気 平気。まだまだイケるよ!」
私は口をへの字に曲げて歩を進めた。
少し つまずきそうになりながら。
でも。
始め たいした事の なかった疲労も。
段々と大きくなってくる……。
「なあ、勇気」
ふと。
私の前を歩いていたセナが振り返った。
「何?」
呼ばれて、返事をする。
「何か、歌え」
「は?」
突然の言葉に。
私はチンプンカンプンと いった顔でセナを見た。
「何か、元気の出るようなやつ。前に月夜祭で歌ったやつみたいにさ、明るい楽しいのを頼むわ」
「は、はああ!?」
確かに以前、『○ーンライト伝説』とか調子こいて歌ったりしたけれどさ。
いきなり、今ココで、なんて!
「恥ずかしいよお!」
私は叫んだ。
セナをふくれっ面で睨みながら。
「いいから歌え。何でもいいから。でないと……」
少し考える。
「でないと?」
私はゴク、と息を飲んだ。
「……俺の おしおきフルコースが待っている」
おしおき……。
様々な『おしおき』が脳裏に浮かんだ。
嫌だ、それは。
またスカイダイビングされたりするのは恐ろしい。
「仕方ないなあ。んーっと……」
と、歌う歌を考えてみる。
実は歌唱力には自信は あったりして!
よし、と決めて。
前奏を想像で流し始めて指先でリズムをとった。
「『○ン○ンマン』、行きます!」
張り切って歌い始めた私だった。
私は愉快に熱唱する。
歌詞が頼りなかったけれど、気持ちを込めまして。
愛と勇気オンリーな歌を。
腕を振りながらノリノリで歌った。
一番しか知らないから、すぐに終わったけれどね。
「いい歌だな。愛と勇気だけが友達なのかとツッコみたくなるが」
と、セナが笑いながら。
照れと歌いきった! という満足感で顔の蒸気が上がったままの私は。
それを見て嬉しくなって はしゃいだ。
「うん! 素朴だけど温かいよね! もひとつ、勇気の鈴がリンリン鳴る歌が あったりするんだけどね!」
頭を掻きながら。
二ヒ! と白い歯を見せると蛍が茶々を入れた。
「変なの! “勇気”の鈴、ですってよ! 騒がしそ!」
クスクスとマフィアの笑い声も聞こえた。
「何よお、いいじゃん!」
私がぺロっと舌を出しながら文句を言うと。
「確かに。やかましそうだよな」だなんて歌わせたセナまで言い出すし。
何それ。
私一人だけが騒がし娘みたいじゃないかあ!
「こうなったら、もう1曲歌ってやるう!」
勢い任せで次なる歌へ。
バイクに乗っていないライダーの歌を力強く歌い始めた。
夜も更けた。
もちろん……野宿だった。
さっきの私のショウの後。
ルマ山脈も半分近く歩いてきたらしく日も暮れてきたので。
とりあえず道の隅に落ち着いた。
交代で火の番をする事とし、セナが まず役に当たった。
皆がスヤスヤと眠りに着いた頃。
私は ふと目を開ける。
火の光に照らされている、セナの横顔が見えた。
表情は なく、炎を一心に見ているようだった。
(綺麗……ほんっと何て美しい人なんだろなあ……)
何度でも、落ち着いて見るたびに。
ほれぼれしてしまうんだ。
(私……こーんな素敵な人の そばに居るんだな……一緒に笑ったり冗談 言ったりしてるんだ……)
今日なんて。
また調子こいて歌ってしまった。
その恥ずかしさを今に なって やっと感じた。
(しかも私、この人に恋してるし……)
恥ずかしさとは違うドキドキ感が。
心臓を伝ってやって来る。
すると。
まだセナに渡していない買ったピアスの事を思い出した。
(喜んで受け取って……く、れ、る、よね?)
昼間のセナの微笑みが まぶたの裏で蘇る。
「お前は しょーがねえな!」とか。
「やれやれ」とか言いながらだった、とても優しい笑み。
(笑って……セナ)
閉じた まぶたの奥で。
このままだと いい夢が見られそうだな、なんて思い描いていく。
セナと2人で海か草原か。
花畑か何処かでクルクルと踊って回って歌って明るく楽しそうに……。
笑いあっている、幸せな、夢が。
あと どのくらいの距離なんだろう。
そこへ行けるのは……。
セナ、と……。
セナが、そばに……。
そばに……。
……。
……しかし、突然セナが立ち上がった。
(……?)
薄っぺらい意識の中で目を開けたら。
セナは立ち上がって。
(あれ……?)
そして。
一人……音も なく静かに立ち去って行った。
茂みをかき分け、道では ない離れた場所へと。
私は夢か現実か。
わからない まどろみの中で必死に どっちかを考えていたけれど。
「セナッ!?」
現実の私の声のはずだった。