第43話(禁断の光[ちから])・3
ワマの村へと戻った。
隠れるようにして村長に会いに行き。
これまでの事を全て話した。
最初から終わりまで、村長の顔(毛モジャなせいで よく見えないけど)は変わらず。
時折 頷くだけだった。
ひとしきり話し終えた後、村長は考えた。
そして、結論を出す。
「構いやしません。どうぞ連れていってやって下さい」
村長は そう言って。
ソピアさんの寝顔を見守る。
ココは村長の家で、布団に寝かされているソピアさんを囲むように私達は座っていた。
「ヒナタよ……お前はココに長く居すぎた。この地は、お前には合わんのじゃろう。ココに居ては、お前を苦しめるばかり。ワシの事は心配せんでいい。この方々と一緒に、旅に出なさい。そして自分の居るべき場所……それを、見つけるといい。きっと見つかるはずだ。見つけて……また、顔を見せに一度は村に戻って来い。ワシは それを楽しみに待つとしよう」
村長は優しく語りかけていた。
きっと、見えないけれど優しい目をしているんじゃないだろうか。
「七神の一人として旅立つのは恐らくは今以上に辛いのかもしれんな。でも大丈夫……お前には、仲間が おる。昔とは違う。きっと、上手くやっていけるじゃろうて」
そっ……と、ソピアさんの頭を撫でた。
「信じておる……」
最後に そう言った時。
ソピアの目からポロリ、と一つ。
涙が こぼれた。
でも彼女は まだ気を失ったままだ。
起きてはいない。
これはヒナタの涙なんだろうか。
ヒナタに村長の思いが通じて?
ヒナタは……目を覚ましてくれるんだろうか……?
きっと……。
素晴らしい目覚めが待っている。
待っているはずだ。
そんな気が する。
結局。
勇気達はワマ民族の村にて もう一泊する事と なった。
セナ、カイト、紫の男子グループは村長の家。
女子グループは未だ眠ったままのソピアと。
ヒナタの家へ泊まる事と なった。
昨晩は眠気の起きなかった勇気だったが。
今晩はグッスリと朝まで目を開く事も なく眠っているようだった。
ふと、ソピアは起きる。
半身を起こして辺りの様子を見回すと。
安心して ひと息をついた。
そして静かに立ち上がると、外へと足は向かった。
完全に出て行ってしまった後に続き。
もう一人……ソピアが出て行った事に気がついた『誰か』は起き上がる。
追いかけた。……
ソピアは何処へも行かなかった。
ただ、外へ出て夜空いっぱいに散りばめられた星々と。
堂々と輝く月を見上げていただけだった。
物悲しそうに……月には、魅せられて。
佇んでいた。
「綺麗ね」
ハッと我に返り。
後ろを振り返るソピア。
マフィアが温かく微笑んで、ソピアの返事を待っていた。
「ええ……とても素敵な夜……」
「違うわ。あなたの事よ」
マフィアが言うと、ソピアは顔を赤らめた。
両手で慌てて顔を隠しながら。
指と指の隙間からチラと覗いてマフィアを見た。
「そんな風に言ってくれるなんて……初めて」
照れながら、まだ顔を隠している。
「あなたの中の彼は まだ出てこない?」
マフィアは視線を空の月に移し、聞いた。
手を下げて俯き加減に、すまなさそうに首をタテに振るソピアを見て。
マフィアは軽く ため息をつく。
「そっか。どうして、そんな悩んでしまうのかしらね。人間って」
「……」
少し間が空く。
ソピアは思った事を口に した。
「人間だから……悩むんじゃないかな……」
マフィアは月とソピアとを交互に見ながら……。
月にも、温かい まなざしをおくった。
「そうね……魔物や動物達は人間みたく悩んだりしない。人間だけよね。考えたり、言葉を使ったりするのって」
ソピアも。
黒い空に浮かぶ月を愛おしいくらいに優しく見守っていた。
月は、そこに あるだけだけれども。
だが しかし。
次にソピアから放たれていく言葉は。
決して放り投げていい言葉では なかった。
重く……静かな辺りに融けていく言葉……想い。
時々に鳴る虫の音も、2人の肌に感じる涼しい風も。
夜という世界に融け込んでいくのだった。
「人間だけに与えられた特権……逆に、ハンデに なるのかもしれない、かな。人間だけ……死にたい生きていたくないと……思うのは」
2人の足元の土は、チリと なって風に さらわれる。
「私は眠りながら考えていた……勇気さんの言った事を。人は、誰でも一度は死にたいと思う時が ある。でも それは、きっと嘘。勇気さんの言う通り、本当は生きたい……行きたいって思っているのに、死にたい、なんて思うの。死にたくない、死ねないくせに……死にたい、と思ってしまうの……。人は、誰だって傲慢で、ワガママで。子供とか欲張りな人とか……その人達は自分に素直なだけ。自分の気持ちに正直に生きているだけなのよ」
輝く星の光は変わらない。
月と共に、2人を明るく照らし続ける。
「ヒナタ……?」
ソピアは、ヒナタへと。
姿を変え、落ち着いていて月の光に照らされて。
光を、心地よさそうに感じていた。
「俺……行くよ。あんた達に ついて行く。青龍とやらを拝みにね」
澄んだ瞳は一度 閉じられた。
「俺は全てが怖かっただけだった。母さんの裏切り。ソピアの罰。父親の暴力。いつか狂い果ててしまうんじゃないかと思う自分の心と……コントロールできない見えない力。全てに怯えてた。外へ出て行く事も、死ぬ事も。生きていく事さえも いずれは、きっと……」
ヒナタの目には、過去に暴走した自分の姿が映っていた。
自分を中心に上下左右斜めの空間に無数に伸びた直線の光。
やがて徐々に光の帯は広がって、村全体に行き渡り。
光は人や木、動物など全てを蝕み、消した。
影だけを残して消し去った。
「俺の罪は消えない」
ヒナタの涙は浮かび流れて。
「一生、背負ってくんだ」
声に悲しみが力と なって震えを加える。
「俺に できる償いは、青龍を何とかする事ぐらいだ」
と、無理にでも笑ってみせていた。
マフィアは、一歩を踏み出す。
ヒナタに向かって。
そして……。
「……」
ヒナタを抱き締めていた。
「……!」
マフィアの方が身長は高い。
よって、マフィアの腕の中にヒナタはスッポリと埋まってしまう。
震わせた肩と手で、ギュッと、しっかりと、強く抱き締める。
強すぎても、それが居心地いいとヒナタは……思っていた。
母親に抱かれた記憶は ないが。
こうだったのかもしれないとも思っていた。
「私達の使命よ」
マフィアの視界も揺れた。
固く、動かないものが心の中に あり。
それはヒナタにも ある……。
いや、七神 全員に あるのかもしれない。
しかし それは表には出ない。
出る事は ない。
七神に課せられた、使命という名の塊よ――
《第44話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
この後の展開を書くのが怖い……。
しかし顔は ほころんでいる。何故だ。
ふふ(キショぃ 汗)。
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