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第43話(禁断の光[ちから])・2


 セナ達もヒナタも、私が言い出したので注目していた。


「本当は行きたいのよ。抜け出したいのよ。でも つまんない事でグチグチ悩んで、そんな本当の自分を覆い隠しているんだわ。ええ、人間ってワガママよ。皆、そうよ。でもねえ。ワガママな方がマシよ! 自分に正直なんだから!」


 ヒナタは私をジッと見つめた。


 私も逸らさずに、見た。


 しばらく黙ったままだったけれど……。



「その通り。いい事 言うねえ。救世主」



 場をブチ壊す抜けた声が割って入ってきた。


(ひたき)!」


 蛍が叫んだ。


 皆の視線は全て そちらへ。


 私とヒナタが向かい合っている左方向、数メートルに。


 腕を組み、こっちを面白そうに見て、ニヤニヤ笑っている。


 全身 黒ずくめのタイツを着こなし奇術師みたいな格好の、業師の鶲だ!


 いつも何もない所から現れて私達の気持ちをかき乱し。


 後味 悪く去る。


 いつも失礼で とおーっても嫌な奴!


「何の用だ!? 勇気を殺しに来たのか!」


 セナがサッと私の前に立ちはだかる。


 マフィアもムチを手に取った。


 皆が戦闘 体勢に入り。


 私も腰のナイフに手をかけた。


「おっと。まあ待ってよ。どう見ても僕の方が不利だろ?」


と、鶲は空を仰いだ。


「それじゃ、何しに来たんだ?」


 セナが再び聞く。


「んんー……また、今度に しよっかなあ、やっぱり」


 考えるポーズをしらじらしく とり。


 そしてニーッコリ! と笑った。


「いやあ、しばらく様子 見てたらさあ。何となくチョッカイ出したくなっちゃってねー。んー、どうしよう?」


と……ブリブリブリっとブリッ子に振る舞うもんだから。


「お前と戦ってるヒマなんてない! 消えろ!」


と、当然の如く(しゃく)に障ってセナは。


 おなじみの技“鎌鼬(かまいたち)”で風の刃を起こし鶲に攻撃。


 しかし それを軽く大きく空中ジャンプして避けてしまった。


 私達の方へ。


 避けながら。


 鶲は不敵の笑みを浮かべていた。


 そして。


「ああ!」


 ヒナタが悲鳴を上げる。


 鶲はジャンプした後。


 崩れて屋根のない壁の上に着地したのだけれど。


 そして さらに そこからジャンプして横っ跳びしたら……。


 跳んだ時、着地した壁をガラガラと崩してしまった。


 そう、着地した その『壁』には。


 ヒナタの母が残した『影』が あった。


 崩されたせいで壁は なくなり。


 ガレキの山に なる。


「母さん!」


 ヒナタが すぐに山に駆ける。


 一つ一つの崩れた残骸で ある土壁の破片や石を手に とって探し始めた。


 母の影を。


「母さんっ……!」


「鶲! あなた、わざと!」


 私がセナの横から飛び出して詰め寄ろうとするのを。


 マフィアが腕を引っ張って止めた。


 鶲は少し離れた所でチッチッチッと得意そうに指を振る。


「これ、性分なんだよね。あんた言ったじゃない? ワガママなのは、正直なんだってね。要するに本心。素直。やりたいからやる。これも そう。僕のワ・ガ・マ・マ!」


 なんつー事を!


 頭にカーッ! っと血が のぼった。


 悔しい!


「消えろ!」


「ハイハイ。バーイ!」


 フッと消えた。跡形もなく。


 ムキーッ!


 ……なんとも腹の立つ奴なのよおおおっ!


 セナも同じ気持ちらしく。


 すっごい怖い顔をしていた。


 皆も そう。


 怒りを抑え。


 私は怖々とヒナタの方に振り向いた。


「……!」


 信じられない光景を見たのだった。


 私は……ツンツン、と。


 マフィアを突いた。


 マフィアも気が ついた。


 皆も 振り返る。


 最後にセナも気が つく。


 しばらく呆然として見守っていた。


 崩れ落ちた壁のガレキを一つ一つ。


 探して探して、確かめるように一つ、一つ……。


 泣きながら、拾っては投げ捨て、拾っては投げ捨てた。


 彼――ヒナタ……いいえ。


 彼、じゃない。


 そこに居たのは――――ソピア!


 長い髪の少女!


 服装はヒナタのままだった。


「これは……どういう事なの!?」


 私の頭の中は混乱していた。


 困惑して、頭を抱える。


 一歩 後ずさった私の体をマフィアが支えてくれた。


「しっかりして勇気。これは……」


 そういうマフィアも後の言葉が続かない。


 すると離れて、閃いたのか蛍が口を挟んだ。


「ワマ民族のアレ、なんじゃないの?」


と。


 私とマフィアが「え……?」と眉をひそめて考える。


 ワマの……。



 ―― ワマ民族は変血民族。感情が高ぶると ――



「なるほど? 男が女に、か……」


 横でカイトが納得していった。


 そ、そんな?


 それじゃ、ソピアさんが言ってた事は どうなるわけ?


「ソピアさん……?」


 私は、何とか背に話しかけた。


 ソピアさんは……。


 砂まみれの手を止めて。


 座ったまま振り向きもせず……うなだれた。


「ごめんなさい勇気さん……少し私、嘘をついた。私はソピアで あって、ソピアじゃない。ヒナタ。ヒナタ=ノーベン。ワマ民族の血をひくせいで、こんな体質を持ってしまったの。感情が制御できない ある一定の基準を超えると……男と女が入れ代わってしまう。黙っていて ごめんなさい」


 力なく、いっそう小柄に見えた。


 これ以上 問い詰めたら、壊れてしまいそうだった。


 彼女……は、ゆっくりと私を見た。


 とっても愛らしい素振りに、女の私でもドキンと きてしまう。


 細い肩……長く濡れているような潤いの麗しい髪。


 涙が幾筋も伝う頬。


 完璧なる可愛い女の子だった。


「男のヒナタと私は体は一つ。でも、心は違う。全くの別人なの。そうね……区別した方が いいわ。私の時はソピアと呼んでくれたらいい。今、ヒナタは精神の奥深くに閉じこもってる。この分だと、当分は……」


「2重人格、って解釈したら わかりやすいのかしら?」


 マフィアが言うと、ソピアさんは頷いた。


「そうね。そうかもしれない。とにかく、今はソピア。力を発動させ、イルサの村を滅ぼしてしまったのはヒナタよ。村が変わり果て、気が ついたら私に なってた。ヒナタの罪を被って追放されたのは本当。ソピアの姿で村に現れるな、なりそうに なったなら身を隠せってね。知っているのは長老だけなの。村の皆は……知らないのよ」


 涙を拭いて立ち上がった。


 でも目は まだ沈みがちだった。


「勇気さん……あの時 言った事も本当よ。ヒナタを救ってほしいの。あの子は荒っぽいけど、とても傷つきやすくてモロい子なの。誰も相手に してくれなかった幼い頃に、私達は心の中で語りあった。でも、今は あの子の気持ちが わからない。お願い……ヒナタ、彼を……」


 絞り出すような声で最後に……言った。


「この村から連れ出して……!」


 そのまま、ソピアさんはバタリと倒れた。


「おい!」と、セナが慌てて走り寄って体を受けとめた。


「まさか こんな事に なるなんて」


と蛍がハアー……と ため息をつく。


「ワマの村に戻りましょう。村長さんに全てを話して……それからよ」


 マフィアはセナと、セナに支えられているソピアさんを見た。


 セナは「ああ」と言ってソピアさんを抱え上げる。


 光神。


 念願の七神の一人が見つかったというのに。


 嬉しいはずなのに。



 気分は晴れない。




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