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第43話(禁断の光[ちから])・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/43.html

(『七神創話』第43話 PC版へ)




 ヒュウウウウ。


 秋風のように、寂しい風が吹き抜ける。


 何処か懐かしいような。

 物悲しく切ないような、風が。


 だが太陽は相変わらずサンサンと地上を焦がすように降り注ぎ。


 何処からか運ばれてきたチリやホコリを。


 その寂しい風が地面の上から さらっていく。


 静かに。


 イルサ民族 廃村。


 生きる者を廃された村。


 生き物が居ないというだけで。


 この空間だけ時間が止まってしまったんじゃと錯覚する。


 遠くの雲さえ止まって見える……不思議だ。


「誰に聞いた……?」


 ヒナタは立って私を見ていた。


「ソピアさんよ」


 私が返事すると、苦い顔をする。


「あの おしゃべり」


「あなたの事、すごく心配していたわ。知ってるんでしょう?」


「……」


 それからヒナタは下を向いて黙ってしまった。


 必死に何かを考えているように思えた。


 私は全て聞いたんだ……昨日。


 ソピアさんは語ってくれた。


 ……泣きながら。





 ―― お願いヒナタを救って ――


 昨夜。


 辿り着いた洞窟の奥で。


 彼女、ソピアさんは そう訴えた。


 私は突然の彼女の変わり様に びっくりしてしまった。


「光神の災いの原因は、ヒナタよ……」


 ソピアさんは言った。


 もちろん驚いたが。


 心中では“ああ やっぱりな”と。


 納得してしまった自分が居た。


 その後、彼女は坦々と語り出す……。


「……ヒナタはね、かわいそうな子なの。異種間で生まれた子だからね。イルサにもワマにも認めてもらえない。小さい頃、父親の元で育ったんだけど……ひどい暴力でね。見たでしょ、顔の傷跡。あれは父親に つけられた傷。それで……ヒナタは毎日、家から逃げるようにイルサ村へと遊びに来た。でも歓迎は されなかった――ひとりぼっちだった」


 彼女、ソピアさんの目に涙が溜まる。


 話は続いた。


「ある日、私はヒナタをつけて行った。ヒナタはイルサ村の、お母さんの家へ行ったわ。でも家の中へは入ろうとせず、ただ物陰から見てるだけ。ジッと、ただ ずっと。私、たまんなくなっちゃって……ヒナタに声をかけた。帰ろう、そんで一緒に遊ぼう、って。その日から、私達はワマの村で遊ぶようになった……でも、あの日。あの日よ」


 ソピアさんの目に憎しみの情が こもる。


 口唇を噛み締め、手を震わせた。


「珍しく黒雲が広がって、雷も鳴っていたわ。嫌な予感が した……案の上、いつもの時間にヒナタの家に行ってもヒナタは居ない。ヒナタの身に何かが起きたんだと思ったわ。私は急いでイルサの村へ向かおうとして走り出した。その時よ! あの突然の光が現れたのは!」


 ガタガタと肩を震わせるのを手で掴んだ。


「私、走った。死にそうなくらいに。そして やっとイルサの村に着いた時……村は もう、変わり果てた姿に なっていた。ただ一人、ヒナタがボーッと突っ立っててね。私、事情を飲み込んだ。ああヒナタが やったんだ……って」


 両手で顔を覆う。


「ヒナタはボンヤリしていたわ。私が駆け寄ると、倒れた。“僕は何処へ行けばいいの”……そう言い残してね」


 僕ハ 何処二 イケバ イイノ?


 あの日の少年は そう言った。


 それだけを言い残して。


 そして。


 ソピアさんはヒナタを庇った。


 あの災いは、自分が引き起こしたものだと。


 長老の前に買って出て……命じられたのは。


 一生涯をココ……洞窟の中で過ごせという。


「ひどい……! そんな!」


「長老の せめてもの優しさよ。本当なら、死刑にでも なる所だったんですもの。それは それで いいの。私は生かされた事に感謝しているんだから。それより……ヒナタよ」


「? ヒナタさんは どうなったの? その後」


「……わからない」


 ソピアさんの隠した顔から手を伝って涙が流れる。


 声はくぐもり、私は聞き取ろうと少し近寄った。


 彼女の語りは私の胸の内に浸透し。


 喉から熱いものが込み上げてくる。


「わからない……?」


 私の目も潤いで視界が滲んでくる。


「あの子から笑顔は消えた。いいえ……何にも本音を言わなくなった。私の前では普通に、お互い言いたい事を気兼ねなく言えて、やりたい事を一緒に精一杯やってた。でも、今は もう……ヒナタの事が、わからない。何を考えているのかが」


 ソピアさんの苦しみが私の目に涙となって一つ。


「私の存在が……ヒナタを苦しめているのかも しれない。何度も そう思った。でも私、死ぬのは嫌。死ぬのは、怖い……死ねない。それより。生きているうちにヒナタを救いたい。でも、私はココから動けないのよ……! だから、だから お願いよ勇気さん! ヒナタを……ヒナタを救って! ヒナタが七神の一人なら、連れていって! 伝説の通りに! あの子に、笑顔を 取 り 戻 さ せ て …… ! 」


 ソピアさんは私に すがりつくように うずくまった。


 肩に手で小叩きながら、私はソピアさんを抱き締めていた。


 あなたも彼も、こんなに苦しんでいる……。


 私は。


 私は……あなた達を救いたい。


 あなたが、ヒナタを救いたいように。


 今、私達に できる事は何なのだろう。





「あの日……」


 ヒナタは私達に背を向けてしまって。


 表情が見えなくなった。


「あの日、親父に全部バレたんだ。俺が母さんの所に行っている事。それで、親父はカンカンに怒って。出て行け、って言われた。だから俺、母さんの所へ行ったんだ。行ってみたけど……」


 少し戸惑いがちに ひと呼吸 置いた。


「……近所の子供達と楽しそうに笑って遊んでた……」



 思い浮かぶ あの日の記憶。


 ヒナタは全てをとっくに思い出していたのだ。


 自分は あの日、大胆な行動に出た。


 いつもは隠れて見ているだけ……でも違った。


 母親の前に姿を現し。


 それを見た近所の子供達は怖がったりして。


 いっせいに去って行ったのだった。


 そしてヒナタと母親は見つめ合い……。


 永遠のような時間、お互いが お互いを見ていた。


 しかし。


 母親の方から先に目を逸らしてしまった。


「ココは あなたの居る所じゃない。早く お帰りなさい」


 それだけを言った。


 充分だった。


 何が?


「あ……あああ……」


 ヒナタは涙声で意味の わからない奇声を上げる。


「わあ ああ あっ!」


 頭を乱暴に掻きむしり、背を向けて走り出した。


 何処かへと。


「ヒナタッ!」


 遠くになっていく母の自分の呼ぶ声。


 ヒナタの足は止まらなかった。


 叫びが言葉に成り得ないまま叫びたいように叫ばれ。


 滅茶苦茶に走りまくる。


 ――お母さん!


 ――お母さん!


 ――お母さん なんてイナイ。


 歯車が狂ったかのように。


 頭の中で高熱のものが何かを溶かしながら目まぐるしく回っている。


 そうやって熱された水が全身から汗となって飛び出している。


 熱い!


 ――――自分が、溶ける!


 いつの間にか、暗雲が立ち込めている。

 雷鳴が鳴り響く。


 やっと立ち止まったかと思うとヒナタは。


 今度は うずくまって全身を抱えた。


 苦しい……苦しい。


 何だ この鼓動は動悸は心臓は まるで何かが生まれるみたいだ――


 しかし――


「う が ああ あ あああッーーーー!」


 全身が発光し、何と体は宙に浮かんだ。


 ある程度 上昇したと思ったら。


 音が なく静かだったが凄まじい光線の爆発が村中の隅々に まで及んだ。



「あ」



 光線がヒナタから発せられ貫き浴びせられた村人達は。


 声もろとも かき消されていった。


 ……


 影だけを残し。


 ヒナタの七神としての力の発動だった。


 初めての。


 無論 祝い劇では……なかった。



 僕ハ 何処二 行ケバ イイノ?


 ……



 あの日の少年はココに居る。


 ソピアさんが追放され。


 父親は死に、村長に仕え……。


 毎日、ただ月日に流されて流されてココに来て花を添える……。


 繰り返し繰り返し。


 もう、うんざりだったに違いない。


「俺は。何処へも……行きたくないのに、何処かの遠くから誰かが言うんだ。行け、行けって。行くあてなんか ないのに。死ぬ事も できない。生きる事も できない……俺は すごくワガママなのかも しれない」


 ソピアさんも似たような事を言っていたっけ。


 死ぬ事が できない……生きる事も。


 人って、贅沢な生き物なのかな。

 死ぬのは嫌なくせに、生きる事を(こば)んでいる。


 生きる事を選ぶ事しか できないくせに、つまらない事で悩んでいる。


 つまらない……そうだよ。


「それは、自分の声よ」



 気が つくと、口が勝手に動き出していた。




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