第41話(血戦の終結とその後・弐)・3
国王の通行手形の おかげで。
難なく関所を越えられた私達。
この大陸って、砂漠が本当に多い。
南の方は緑が多かったのに。
北へ来れば来るほど砂漠を歩いてばっかりな気がする。
『国境の壁』に来るまで、ユリ砂漠を横断するのに3日かかって来た。
そして今日も砂漠で野宿だった。
テントを張って、マフィアが作った冷たいシチューみたいなのをキレイに平らげて。
後は寝た。
これでキャンプ4日目。
関所の近くに店は あったから、買い足して水には困らないけれど。
……それにしても、お風呂に入りたいなあと思う。
砂漠や容赦なく照りつける日光の せいで肌は荒れ放題だし。
髪も だいぶ痛んでる。
濡れたタオルで体を拭くだけじゃ、体中に ついた砂は あんまり取れた気が しないし。
はあ〜あ。
この問題って、どうにもなんないわよね。
トイレとかも そうだし……本当、困る!
「……あれじゃないのか? 真黒村」
考え落ち込んでいた顔を上げて。
カイトの声の した方を見る。
ひたすら昨日から、『国境の壁』寄りに真っ直ぐ右方向に歩いてきた私達。
最初、関所を越えた時に3本の分かれ道が あって道しるべが立っていたのだけれど。
『真黒村行き』というのは なかった。
それで仕方なく。
セナと私が見て覚えていた位置を信じて。
右だ、とにかく右へ行ってみようという事に なった。
最悪、村へ辿り着けなくても。
突き進めば海へ出るだろうとカイトが言っていた事も踏まえて。
真っ直ぐ、真っ直ぐ……と歩いてきたんだけれど……。
「蜃気楼……じゃないみたいだな。上空に鳥が居る」
セナが眩しそうに手で顔を隠しながら目を凝らしていた。
サンサンと容赦なく照りつける太陽の せいで。
見える物が実際に本当に存在するのかどうかをまず疑ってしまうからねー。
砂漠だし。
「本当だ。鳥が居るね」
「白っぽい建物が見えるんだけど、あれも本物かな?」
マフィアが言っているように。
突き進んできた道の先より少し左へと逸れて。
前方の地平線に建物らしき頭が幾つか連なり見えてきていた。
しかし疑問が浮かぶ。
白っぽい……?
黒い点に見えたのに、と。
「休憩してもいいし。せっかく見えたんだから行ってみようか。他には何も見えないしさ」
私が言うと、皆はウンと頷いて また歩き出す。
お風呂が あればいいなあなんて淡い夢を抱きながら。
私も流れてくる汗と戦って足を運んで行った。
「げ……」
「何だ、ココの空間は」
先に着いたセナとカイトが唸りを上げた。
残りの私達も有り様を見て同じように声を出す羽目に なる。
蝋石に見える礎石から積み重ねられて できた家や建物。
独特の、恐らくは植物や家畜といった自然的なものを描いた模様の かすれた壁塗りや。
ボロと化して物干しに掛けられたままの布。
木で できた粗末な玩具が地面に散らばり転がっている。
植物は生えていない。
枯れた草の残骸が見れた所も あるが。
ココで育ったものでは なく。
何処からか風で飛ばされてきたんだろうと思う。
日に照らされて熱い土の地面。
風で たつ砂埃。
石で できた小さな段差の階段が あって。
まだ先に道が続いているけれど。
例え先に行ったとしても人も生物すらも気配は感じない。
そんな気が した。
廃墟。
至る所に模様を描いた壁などが見えるので。
文化を持った遺跡、と言った方が それらしいかも。
……それだけで驚いたわけじゃない私達。
「影、が……」
影。
そんな表現がピッタリだった。
まさに黒い『影』だ。
石造りの壁、屋根、階段、道、干された布。
キャンバスと なりうる全てのものに。
印でも付けられたみたいに『影』が付いている。
形は様々だけれど、人、木、鳥、犬、植物……そう、生物だ。
ココでは生物では なくて代わりに生物の『影』が存在する。
その数は多い。
これを上の遠くから見たら、絶対 黒く塗りつぶされる。
ココに来るまでに頭に あった疑問は、そうやって解けたんだ。
「何だか寒くなってくるわ……おかしいと思わない?」
マフィアが腕をさすりながら皆に向けて訴えた。
「うん……変だね。暑いはずなのに、見てると寒い……」
私達が寒い寒いと言っている横で、カイトが指摘した。
「おかしいはずだ。だって、見てると……生活していたまま、残されているじゃないか。見てみろよ、ホラ。あれ、洗濯物なんだろう?」
さっき私が物干しに布が掛けられたままだと思ったのを指して。
カイトは言った。
言われて気が つく。
「! そうか……! まるで、人や動物だけが……突然 消えたみたいだ……!」
地面に転がる片付けられていない玩具。
放り出されたままの農具や容器。
もしやと思って建物の中を覗くと。
包丁や鍋なんかが調理途中で置かれていたりする。
一体、これは何。
それぞれ傷んでいたり風化しているけれど。
『影』は まるで、まるで……。
「原爆……」
と、私が小さな声で漏らした。
「げんばく?」
と、聞き流さなかったのはメノウちゃんだった。
しばらく、皆は黙ったままだった。
私は以前、学校の授業で本に掲載されていた写真を見た事が ある。
第二次世界大戦の日本――そんなタイトルだった。
人の影だけが階段に残されている。
死体は ない。
残されたのは、影、だけ。
原爆の強烈な放射能を浴びたからだ。
あの写真の影とソックリなんだ。
この状況。
「人は居なさそうだけど……見回ってみる? 何か手がかりが あるかも……」
と、マフィアが一歩 前へ踏み出したのを。
私は腕に しがみついて止めた。
「やめた方がいい! ……離れよう、今すぐ!」
私が叫ぶと、皆びっくりして私に注目した。
「でも手がかりが」
セナが そう言うけれど。
私は一刻も早くココから出たかった。
何ていうか……ココの空気、ひどくゾッとする。
まるで悲しみが うごめいているような……!
「お願い。もしココが放射線で汚染されているのなら……むやみに触らない方が いい」
専門知識なんてないけれど。
恐ろしさは社会の先生が何度も何度も熱弁していた。
大人が言うんだもの。
きっとココは相当な危険地帯だ。
「放射……? ま、よく わかんないけど。そんなに言うなら……ひとまず、ココを出るかい。で、これからの事を外で話すか……」
カイトが提案してくれて。
私はホッと安心した。
その時だった。
「お前達、何者だ!?」
村の入り口の方からだった。
私達は振り返る。
一人の可愛らしい少年だった。
飾りっ気の ない薄手の白い布の服に、短く茶色のズボン。
右肩と左太ももと、右足首に違う柄の布を巻いている。
腰に皮のベルト、服の隙間から見える腰に備えつけてあるのはナイフ。
手には一本の長い槍を持って。
顔。
少し鋭いけれど形の いい目。
鼻の頭と頬に少し傷跡が見える。
少年の あどけなさが伝わってくる。
よく見ると、髪の毛先は真っ黒で、てっぺんに近い所では茶色。
ツンツンと している。
「怪しい奴だ。ココへ何しに来た!」
まだ声変わりは していないらしい。
子供らしい可愛い声が響いた。
「あ、あの。私達、旅をしてまして……」
しどろもどろの私の前に。
マフィアがスッと割って入ってきてくれた。
「ただの旅の者です。イルサ民族に ついて調べてまして。ココへ来てみただけです」
少年より、マフィアの方が背が高い。
よってマフィアの迫力に少年は圧倒されていた。
「……なら、ついて来い。ワマ民族の村長に会ってもらう。村長なら、イルサに ついて詳しい」
少年は そう言って村を出た。
私達は顔を見合わせ、後に ついて行く事に した。
後に ついて行きながら。
私は その少年に聞いた。
「私は松波 勇気。勇気で いいよ。ねえ、あの村って どうして あんな影ばかりなの?」
しばらく私の顔を見ていた彼は、ボソリと言った。
「光神様の光の せいさ」
妙な事を言い出した。
「コウジ……ン?」
私はセナ達の方を振り返った。
セナもマフィアも、「ああ。間違いない」といった顔で私を見た。
光神……。
七神の一人。
ひょっとしたら。
これから行く所に七神の一人が居るのかもしれない。
私は期待で胸が いっぱいに なった。
《第42話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
カットしても1話が長い。昔、これを書いてた時期の作者、何でこんな張り切って書いといて中途で放っといたんだろうか。この頃 何やってたんだろうかと考える。
忘れたなぁ……(遠い目)。
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