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第41話(血戦の終結とその後・弐)・2


「信じられないいいいいいぃぃぃいいーーーッ!」


「これなら すぐに地上に帰れるだろおーーー!」


 お互いの声が途切れ途切れに聞こえてくる。


 凄い強風に見舞われて。


 下から、下から、下からぁ!


 おかげで、顔も髪も服も。


 全てがグチャグチャだ!


 スカートが めくれるなんて生易しいもんでない!


 皮が むけるううう〜!


「俺を信じろお〜!」


 無理!


 あまりの怖さで、涙も飛び出していた。


 すると。


( ……!)


 下から豪風をかましてくれていた風が。


 段々と弱まり穏やかに なってきていた。


(ほえ……?)


 セナが、ゆっくり……と。


 私の体を自分の目線に合わせ。


 両腕だけは しっかりと握ってくれていて。


 まるで、スカイダイバーにでも なった気分に なった。


 落ちているのに速度を感じなくなり。


 見えない空気の層の揺りかごに のっているみたいに なった。


 私達って、もしかして鳥に なった?


 嘘、嘘でしょ?


 雲の中を通り抜けて。


 私達、落ちてるんだよ……ね?


「き、も、ち、い、い〜〜〜!」


 感嘆の声を上げた。


 さっきまでの恐怖は何処へ!?


「だよなー!」


 耳に届きにくいけれど。


 セナの声は ちゃんと聞こえた。


「ね! で、これ、どうやって着地するの!?」


 私は笑いながら。


 目前で同じように笑顔のセナに聞いてみた。


 あんなに余裕だったセナの事だし、きっと何か考えがあるんだろうと。


 信じて疑わなかった。


「さあ?」


 軽く言ってのけたセナ。


 笑顔と答えが一致していない。


 私は視界が真っ白に なったが、断じて雲のせいでは なかった。


「はあぁああ!?」


 恐怖が再びやって来る。


 普通なら。


 背中にパラシュートが あってスカイダイバーは地上に落ちる前に広げたりするんだろう。


 しかし私達には もちろん。


 パラシュートや忍者の風呂敷みたいな そんな物なんて全く用意していないわけで。


 無防備だ。


 ……どうすんですかっ!?


「イチかバチか」


 セナが真顔に なる。


 それも あってか急に、さらに怖さ倍増だ。


「どういう事よお!?」


 半狂乱で泣き叫ぶ私……の体を。


 引き寄せてきたセナだった。


 んん!?


 立った格好に なって、落ちながらも。


 しっかりと手は握ってくれたまま。


「何を……?」


と心配そうにセナの顔を見上げた私に耽々と言った。


 目が真剣に。


「地上……下から風を起こす。で、ブレーキをかける。凄い風が襲うだろうから、しばらく息止めて歯ぁ食いしばって、目ェつぶってな」


 アレコレと一気に注文づけた。


 な、な、な、何て!?


 下から風を起こしてブレーキ!?


 ひええ!?


「行くぞ!」


 ……


 慌てて私は混乱しがちな頭で言われた通り。


 固く身を縛って目をつぶった。


 祈るように手を合わせ組み。


 セナに引き寄せられたままで――我、運命や如何に、と。


 念じていた。


 ビュ。


 ひっ!?


 ビュオオオオオオオウッ!


 風が下から吹き荒れた。


「――! ――!」


 息なんて できないぃ!


 台風でも直接 攻撃で訪れたんじゃないだろうか。


 重力さえ理解が できなくなった。


 どっちが下!?


 飛んでいくうううううっ――!


 ビュオオ……!


 オオ……


 ……


 ……


 時間 感覚も狂い、自分の存在すら危うく忘れそうになった途端だ。


 ぼすっ。


 全身に、柔らかい感触と衝撃が伝わった。


 柔らかいとは言ったけれど。


 突然の衝撃で硬いんだか柔らかいんだか、わからなかった。


 はへえ……?


 私、どうなったの……?


「勇気ぃいッ!」


 私の名前でハッとした。


 そうだ、私は勇気。


 ……そんな事は どうでもよくって。


 恐る恐る目を開けてみた……。


 飼い葉や木の葉の集まった、固まりの上。


 相当 大きめな。


 私とセナは、そこで転がっていた。


 兵士や、おじさんやら おばさんやら……。


 マフィア達が私達を取り囲むようにして集まって来ていた。


 半身を起き上がらせた私は、呆然としている。


 するしかない。


 というより、腰が抜けていた。


 恥ずかしいと思う気持ちなんて湧き上がって来ないくらい思考力は飛んでしまっていて。


 マフィア達が言っている言葉の意味が全然 理解できなかった。


「勇気! セナ! ……もおぉ! どうなるかと思ったわよ!」


 言葉の内容は わからなかったけれど……。


 ああー……マフィアの声は。


 何だか とっても懐かしく響いていた。





「全く……こっちじゃ、大騒ぎだったんだから!」


と、プンスカと、マフィアは ずっと怒っていた。


 面白がって手を叩いているのはカイトとメノウちゃんだけだった。


 並んでいた列でテントを張り。


 腰を落ち着けた後。


 やっと現実感を取り戻した私とセナに、マフィアの説教が降りかかる。


「ほんっと、あいつら遅ぇなあーって思ってたらさ。前列に並んでいた人達が上の方を見上げたり指さしたりして『おい、あれは何だ!?』『鳥か!?』『魔物か!?』『いや違う、人だ! 人が落ちてくるぞおぉ!』って騒ぎ出して。まさかと思ったけど、やっぱり勇気達だったんだな」


「びっくりしちゃった。まさか落ちてくるなんて」


と、カイトとメノウちゃんはキャピキャピ喜んでいる。


「心臓 止まるかと思ったわよ! セナ、あんた無茶しすぎなの! 勇気に もし万が一 何か あったら、どうするつもり!?」


 マフィアが物凄い形相でセナに詰め寄っていた。


「おいおい、俺の心配も してくれよ」


 セナは苦笑い。


 マフィアはフン! と そっぽを向いた。


「でも ちょうど木の葉が集まってて助かった。クッション代わりに なってくれたもの」


と、私が話を逸らそうと頑張ると。


 蛍が横から口を出した。


「マフィアが慌てて そばの荷馬車の荷台から、飼い葉とかを運んだのよ。素早く魔法でね」


 私はハッと気がついて、マフィアに頭を下げる。


「そ、そうだったの。ごめん、マフィア……ありがとう……」


 ……そっか。そうだよね。


 この辺、草なんて生えていない。


 咄嗟の判断で こしらえて作ってくれたんだ、マフィア。


 すごい。

 ナイス行動力。


「それより、どうだった? 上からの展望は?」


 マフィアは気を取り直して笑顔で聞いてきた。


 私とセナは、鼻息荒げに興奮しながらマフィアに詰め寄る。


「すごかった!」


「すごかったぜ!」


 両手を握り締めブルブルと震えながら。


「そ、そう……」


と、完全に引いていたマフィアだったけれども。


「そうそ。この関所を抜けたら、ぜひ行きたい場所が見つかったんだ」


と、私が提案を持ちかけると、皆の関心が集まってきた。


「え? 何処どこ!?」


 私の代わりにセナが説明してくれた。


「あの、黒い『点』……上からじゃ遠すぎて『点』にしか見えなかったけど。たぶん あれ、『村』だと思う」


 結構、真剣な顔つきで話していた。


「黒い……村」


 皆で考え込む。


 それぞれ黙って黒の不思議を解明しようと唸っていた。


 すると、前に並んでシートを敷いて座っていた商人らしき おじさんが。


 話に割り込んできた。


「そりゃ、真黒村の事だっぺよ」


 形の いい あご髭を撫でながら。


 細い目をさらに細く。


 私が聞き返した。


「真黒村? 何故 あんなに黒いのですか?」


「行った事は ないけどよぉ。真黒村っていうのは、そう、後から呼ばれるようになったっぺな。昔はイルサ民族の住む普通の民族村だったらしいっぺが……10年ほど前を境に、ご覧のような村に なったっぺ」


 さらに偶然に横を通りがかった門兵が居て、話に参加してきた。


「ばか。あそこは村じゃない。廃村だ。人は住んでいないさ。魔物が棲んでるって噂だがな」


 廃村?


「イルサ民族の……? じゃあ、イルサ民族は何処へ?」


 私が聞くと、門兵はポツリと言っただけだった。


「滅んだんだ。村と共にな」 ……



 それ以上の情報は得られなかった。




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