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第33話


「血塗れのフィナミア?何それ?」

「冒険者をしとるのに聞ぃたことなかったのか?いや、せやけど、もしかしたらそのフィナが二つ名のことを話さへんようにしとったのかもしれへんな」

「フィナが?」


まぁ、でもその二つ名は私も恥ずかしいかも……。そんな二つ名が広まったらもう恥ずかしくて外を出歩けなくないそう。だから何となく気持ちは分からなくもないかな。


「血塗れのフィナミアはAランクの冒険者や。しかも、Aランクに到達しとる五人の中の一人」

「え、フィナってそんなに凄かったの!?昔冒険者をしているって事しか聞いていないよ」


前からフィナって一体何者なのかと思っていたけれど。まさか、Aランクの冒険者だとは知らなかった。それならフィナの冒険者として活躍した時の話を色々聞いてみたかったのに。


「二つ名の名前の由来はオークの群れがやって来てんときに真っ先に倒し、その死体だらけの場所に返り血で真っ赤に染まったまま立っとったのを他の冒険者が見つけて名付けたそうやで」

「それは凄いね………」


私は思わず乾いた笑みをこぼした。何それ。血で真っ赤に濡れていたってショッキングな出来事だな。でも、今のフィナなら返り血も避けられるような気がする。


「うちの母はそないな大物と友人だとは聞いたことなかったな。リラ、まずはウチの母と妹を助けてくれておおきに」

「ううん。見てて放って置けないって思っただけだから」


あのままにしていたらきっと、あの女の子は一生消えない傷を負うことになっただろう。恐らく、一番酷い結果では攫われて他国に売り出される可能性がある。この国では、奴隷は禁止とされていてキツく規制が掛かっているが、他国では奴隷が認められている国もあるのだ。


「ところでどうしてシェリアさんは借金取りに目を付けられていたの?」


大商会の会頭の妻なら借金取りに目を付けられることもないだろう。

なのにどうして借金取りに襲われるまでになったのか少し疑問に思った。


「あぁ、それは……父の誕生日に魔法道具を買おうとした所為だそうや」

「?それがどうして今回の出来事に繋がったの?」


魔法道具をプレゼントにしようとするのは良くあること。私もお父様に魔法道具をプレゼントしたことがある。大喜びしてくれて頬ズリをされ、挙げ句の果てには力の強いお父様に抱きしめられた所為で圧死されかけた。

一瞬その時のことを思い出して遠い目になりかけたが、レイアの話を聞こうとレイアの顔を見つめる。



「 ………魔法道具を内緒で買ってサプライズとして渡そうとしとったらしい。魔法道具店で腕輪を見つけて買おうとしたら普通の値段の三倍の値段で買わされて、その後で更に金を払えと言って来よった。母はこれ以上は払えへんと言うたのやけど、街に来たときに金を払えと脅迫して来よったみたいやで」


溜息を吐いてレイアは続けて言った。


「母は商会におるだけあって商品の値段は大体知っとるから相手が悪かったな……」

「そっか。でも、その手口で騙されている人がいるなら気を付けた方がいいのかな」


この学園には一週間のうち、二日は休みとなる。その期間を使ってシルクと其奴らを倒した方がいいかもね。たまにはストレス発散したいもの。そう思い意気込んでいるとこの話は終わりとばかりに口調を変えた。


「……そろそろ学園に行くわ。ローゼリラ様も早く行かないと遅刻しちゃうわよ」


私はその言葉にばっと時間を確認すると青ざめた。……やばい。今すぐ寮から出ないと遅刻しちゃう。一番最初の授業だというのに遅れたら笑いものになること間違いない。


「本当だわ!急ぎましょう!!」

「やれやれ」


レイアは呆れたように肩を竦める。私は念のため持って来ていた鞄を手に持って、レイアと一緒に学園へと急いで向かった。


***


「ふぅっ。よかったわ。間に合ったみたいね」


中に入る前に呼吸を整えて、教室の扉を開けると一気に私達の方へ視線が来た。すると、数人の令嬢たちが駆け寄って来た。


「ローゼリラ様。御機嫌よう」

「あら。アンジェラ様、御機嫌よう」


真っ先に話しかけたのはウォーレン侯爵家の令嬢。アンジェラ様だ。桔梗のような瞳で私を一瞬鋭く睨み付けたが、全く笑っていない目でにこりと微笑んで通り過ぎようとした。


「貴女、公爵家だからって殿下を差し置いて入学式の祝辞を話すだなんて………いい気に載っていません?」


とすれ違い様にキッと睨んで言った。彼女にとって我が家イルフェアは目の上のたんこぶ。邪魔で仕方が無いのだろう。しかし、今更祝辞を話したことを言われても終わったことはどうしよう無いことである。眉を下げて聞こえないように溜息を吐いた。


「………今のはアンジェラ=ウォーレン様ですよね」

「そうね。何だか、敵視されているみたいで面倒だわ」

「貴族として生きるのも大変ね」

「本当だわ」


レイアは同情するような目で私を見つめた。私も大好きなお菓子を作り放題だということ以外は貴族になって良かったことなんて無いだろう。私たちは他の視線をかわして、席に着いた。フローラ嬢から突き刺すような視線で睨まれているような気がするのだけど、気の所為だと思いたい。………正直これが続くのかと思うと胃が痛い。


「それより、今日は早速魔法の実技があるのよね」

「えぇ。私はまだ魔力検査をしていないので楽しみですわ。学園にある魔晶石はただの魔晶石ではなくて、魔力の量も量ることが出来る魔晶石と聞いているわ」


属性は王宮に行ったとき量ることができたけれど、魔力量は分からなかったので今日の授業はかなり楽しみにしていた。

魔力は主に成長に伴って増えていくが、例外がある。それは小さな頃から魔法を極限まで使って増やすこと。本でその方法を知ってから毎日魔力を使ってから寝るようにしていた。

どのくらいまで魔力が増えているのか楽しみである。


「みんな、席に着いて」


レイアと談笑していたら先生が教室に入って来た。先生の一言に立っていた人は自らの席に着き、話し声はピタリと止まった。


「早速、今日から授業が始まります。まず、みなさんがどのくらい魔力を持っているのか確かめる為に魔力検査をしたいと思います。これから魔法棟に向かうので着いて来てくださいね」


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