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第32話


「朝食の支度は既に出来ていますから挨拶をしに行くのなら先に朝食を食べてからにして下さいね。朝の鐘もなったばかりで今行ってもルームメイトの方に失礼ですから…っと。出来ました」


そう言ったフィナが鏡を持って、後ろの髪を映してくれた。鏡には複雑そうに髪を編まれリボンでハーフアップに纏められた私が映っている。オレンジのリボンが銀髪に映えてとても綺麗。


『とっても可愛いじゃない。流石ね。いい腕だわ』


___それは認めるけど、これはちょいやり過ぎのような。


『そうかしら?』


普通は学校に行くためにここまで髪をセットしたりしないと思う。……他のご令嬢方は分からないけれど。

少なくとも夜会に行くような髪型で学校に行ったりしたら目立って仕方ない。それにあまり豪華にしたらヒロインに目を付けられるのが嫌だというのもある。少し思案しながら朝食の白パンを手に取って、フィナに話しかけた。


「フィナ。学校に行くだけなんだからここまで豪華に髪型をセットしなくてもいいわよ」


つい先程、怒られたばかりだから慎重に言葉を選んだ。また、怒られるのはこりごりである。


「駄目です!」

「どうして?」


フィナは滅多に声を荒らげないのに珍しい。私にはそこまで必死になる理由が分からず、小首を傾げた。フィナは一瞬話すのを躊躇ったようだが、話し始めた。


「旦那様の名前に傷が付いてしまう可能性もありますし、それに何より……私の着せ替え人……いえ。お嬢様の身支度をする時の楽しみが減っちゃうじゃないですか!」


絶対最後が本音だ。それにね。フィナ、私のこと着せ替え人形って言いかけたよね。

小さい頃から服を選ぶときに必ず数着出してきたドレスの中にフリル系がよく混じっていたけど。そういう魂胆だったんだ。

私は複雑な気持ちの中、朝食を食べ終えるのだった。


***


朝食を食べ終わり、隣のルームメイトの部屋の前にいた。そういえば、ルームメイトなのに部屋が分かれているのはなんでだろう。それだと、ルームメイトにならないと思う。緊張のため、かなりどうでもいいことをかんがえていた。扉の前に立ち、軽くノックして部屋にいるはずの人に声を掛けた。


「ルームメイトのローゼリラ=イルフェアです。ルームメイトのランヴィさんはいらっしゃいますか?」

「はい。いますわ、今開けさせて頂きますね」


ゆっくりと扉が開いて中からひょっこりと顔を出したのは驚きの人物だった。


「えっ!?レイアさん!?」

「ローゼリラ様。私も貴女がルームメイトだとは驚きました。あ、部屋に入って構いませんよ」


レイアは誰が見ているか分からない為、敬語で話し始める。昨日話していた口調を知っている私としては何だか違和感を感じた。


「よろしいのですか?」

「えぇ。私も少々話したいことが御座いましたから」


ふわりと優しく笑っている姿を何も知らない人が見たら可愛いと思うだろうけど、あの口調を知っている私としては何だか違和感しかなかった。失礼だろうけど。


「じゃあ、お邪魔しますわ」


案内されるままにそろりと部屋に入るとまず目に飛び込んで来たのは荷物の山である。大きめの鞄から衣類が飛び出していて、まさに片付けている最中のようだ。

私は熟練の侍女であるティナが片付けたりしてくれたから簡単だったけど、これを一人で片付けるのは大変そうだな。


「片付けている最中だったのね。そんな時にお邪魔してしまって申し訳ないわ」

「大丈夫。大方、昨日のうちに片付けておいたから後は私服だけなのよ」


レイアはローゼリラの言葉を聞いて相好を崩す。


「さて、そろそろ素で話させてもらいますわ。貴方も素で話してくださいね」

「え、あ、分かりました」


目を白黒させながら頷くとレイアはニヤリと笑うと口調を変えて話し始めた。


「そういえば、うちの名前しゃんと言ってへなんだね」

「?!それって、どういうこと?」

「うちの名前は、レイア=ダンズリー。ダンズリー商会の長女や」

「!?」


私は驚きを隠せなかった。名前しか聞いていなかったため、単純に平民なのか又はそれを言えない立場なのかと思っていたが……。まさか、ダンズリー商会の娘だとは思わなかった。


ダンズリー商会とは国の中で一位二位を争うほどの大商会で主に服飾関係を扱っている商会。

子供服から婦人服まで幅広く扱っているため女性達は必ずこの商会のことは知っている。


「まさか。ダンズリー商会の娘だとは思いませんでした」

「うちもまさか公爵家の娘が冒険者をしとるって思わへんかったよ」

「!?」


どうして私が冒険者をしていると知っているのだろう。私、今まで冒険者として活動していることなんか学園の人に話したことなかったのに。


「どうしてか聞きたいようやな。顔に書いてあんで」


喉を鳴らすようにくくっと笑うレイアに私は頬を赤らめ、手で頬を押さえた。令嬢は感情を顔に出すことははしたないと言われるのに今のは完全に出してしまっていた。

もし、このことが学園の人にバレたら学園中が私の噂で溢れて学園にはいられなくなるだろう。考えただけでゾッとする。


「大丈夫やで。このことは誰にも言っとれへんから」


安心させるようにレイアは言った。


「この話はうちの母から聞いた話やから。うちの母はシェリア。借金取りの奴らに妹を人質にされとったところ助けてくれたって聞いていんで」

「!もしかして……!フィナの幼馴染だっていう?」


私は驚きで目を見張ったが、レイアはきょとんとした顔をして首を傾げた。

そういえば、フィナのことをまだ話していなかったね。


「私の侍女のフィナよ」


フィナの名前を言った途端、眉を顰めて考え込んだ。


「フィナ……もしかして。『血塗れのフィナミア』か?」



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