捨てられた少女
紡天葉、と申します。自身初投稿の作品でお見苦しいところもあると思いますが気長に付き合ってくださると嬉しいです。
誤字脱字などありましたら感想等にてお知らせしてくださると光栄です。
薄汚れた服を着た少女は寒さから逃れるかのように膝を折り曲げ、縮こまって寒さを必死でしのいでいた。
たまに彼女の近くを通り過ぎる人々はじ、と人々を見つめる彼女からわざと視線を逸らすように、そこに存在がないかのように彼女のことを気にもとめず通り過ぎていって。目に光をなくした少女はその場所から移動する気力さえも失って、数時間ごとに通りを歩く少数の人々を羨ましげに見ていた。
そんな彼女に転機が訪れたのは突然であった。
その日、前の日まで生きていて、彼女と一緒に通行人を見ていた人物は、彼女の足元で息を引き取っていた。
彼女と同じ年位の息絶えた少女は苦しそうな表情をするでもなく、笑顔でもなく、微妙な顔をして眠ったように目を閉じていて。
――もうすぐ、私にもこの時が来る。
薄々彼女と同じように体力の限界を感じていた少女は体力を回復する術を見つけようともせずただひたすらに死を覚悟していつもの場所で蹲って通行人たちを眺めていた。
彼女に転機が訪れたのはその時であった。
「ねぇ貴方、この子よ。私が前言っていた女の子のこと」
大きくも小さくもない彼女の上から降ってきた声。少女は死体から目を離してその声のする方へと目を向けると、10m程離れたところに女性がいた。
女性は希に通る通行人と同じような綺麗な服を着ており、少女は彼女を一目見ただけで一瞬、少女とは違う世界の住人であるように見えた。そうした格好の人々が巷で言うストリートチルドレン達に近づくなど少女たちが生きているうちに一度、あるかないかの確率であったにも関わらず、少女は嬉しさを覚えるでもなく無表情に女性を見つめていて。
女性は少女のことをにこやかに暫く無言で見つめていれば、不意に女性と少女のことを少し離れて立って見ている男性――先程彼女が『貴方』と呼んだ人のもとへと走って行き、一言二言会話をすればまた少女のもとへ戻って、その行動の意味を把握できない彼女に一言告げた。
「ねぇ、貴女、私たちの所に来る気はない?」
少女がその言葉の意味を理解するまでには何分かを要した。女性はその間にこやかに少女を見つめていて。暫くして少女が発した声は「……は」等という声になっていない声であった。
女性はそんな彼女の反応に困ったような笑みを浮かべては困惑するのも無理ないわよね、と一言つぶやいてもう一度彼女に同じことを告げて。少女はかつてない困惑の表情を無意識にすれば女性に話した。
「……わたし ……すとりーとちるどれん」
「知ってるわ。だから私は独りぼっちの貴方を私の『家族』にしたいの」
――何故そんなことを。そう少女が聞こうとすれば、彼女が口を開いたのと同時に女性は軽く微笑んで少女の頭を撫でた。
「理由はあとで話すわ。とにかく、私達は貴方に危害を加えるようなことはしないし召使いのように扱うこともしない。……どう?YesかNoで答えて?」
選択は二つ。イエスならばきっとこの綺麗な女性のもとで今までとは違う生活を楽しめるのだろう。
ノーならば今までどおり通りすがっていく人々をただ眺めて餓死するのを待つしかないのだろう。彼女は瞬時にイエス、と答えた。女性は返答を聞けばまるで新しいおもちゃを買ってもらった幼い子供のような笑顔を見せれば両手を合わせて。
「よかった!!……そうね、じゃあ……貴女、名前はあるのかしら?」
「……優奈」
「ユウナ、ね。じゃあ貴方は今日から室戸優奈よ。むろと、ゆうな」
女性はそう言うと少女へ手を伸ばして。少女は躊躇いがちに伸ばされた手を握った。
それが彼女たちの出会いで、全ての始まりであった。