檻の中の二人
相も変わらずシリアスですww
死ネタのため、苦手な方はご注意ください。
とある国の、とある貴族の屋敷に住む兄弟。
その屋敷が、彼らの‘家’でもあり、‘檻’でもあったことを、知る者は、居るのだろうか――
兄弟は、仲が悪いという訳では決して無かった。
しかし個々の能力とその立場から、周囲の人間は二人を離したがった。
兄のデルフィーノは自分の運命を甘んじて受け入れるような控えめな性格で、自分の状態にとっくの昔にあきらめを抱いていた。
弟のオルカは穏やかそうな外見の内側に強い意志を秘めているような性格で、自分で決めたことは貫くような子供だった。
この屋敷には、この二人以外に子供がいなかった。
そのため後継者を決めるとなれば当然兄であるデルフィーノが次期当主となるはずであるのだが、実際はそうならなかった。
次期当主の椅子を与えられたのは、兄のデルフィーノではなく、弟のオルカの方だったのだ。
兄であるデルフィーノは、それに反対するどころか笑顔で弟を祝福した。
周囲の者や両親たちがそう決めたのなら、逆らう理由も何もないと、そう言って微笑んで。
何故そうなったのかといえば――
数年前……
「母上……どうか安らかに」
屋敷では葬儀が行われていた。
亡くなったのは、デルフィーノの母親。
たった一人の、大切な存在をなくし、デルフィーノはひとりになった。
母もデルフィーノと同じように控えめな性格をしていて、息子を責めたりすることは決してなかった。
そんな、心から笑いあえる存在を、失ったのだ。
母が亡くなると、息子への周囲からの風当たりは強くなった。
そうして、今までは母が自分を守ってくれていたのだと、デルフィーノは知った。
けれど……けれどもう彼は、悲しいとも悔しいとも、思わなくなっていた。
母が守ってくれた彼の心を、傷つけられて壊してしまわないように、彼は全てを受け流すようになっていった。
初めこそ心を閉ざすようにしていたデルフィーノだったが、頑なになっても何も変わらないと、それもやめた。
「オルカ様は本当によくお出来になりますね。……兄とは大違いだわ」
「本当よねぇ、奥様のご教育が素晴らしいのよ」
「元々の素質も、オルカ様には充分に備わっていますもの、当然素晴らしい方になりますわ」
人々はいつも、兄弟の優劣を話題にしては、デルフィーノの陰口を言っていた。
しかしデルフィーノはそれさえも気に留めなかった。
義弟が自分よりも出来が良いのは事実だから。
自分の事を言われる分には、陰口も気にならなかった。
ただ聞き流せばいいだけの事だから。
しかしそれさえも周囲の人々は陰口のネタにした。偽物の笑みを張り付けただけの、無感動な人形のようだ、と。
そんな日々をたった一人で過ごして、穏やかな彼は自分を守り続けた。
周囲はそんな彼の苦労を知る事は無かった。
たった一人を、除いては。
それは義弟であるオルカであった。
オルカだけは、微笑みを浮かべる義兄の姿を見て、悲しく思っていた。
人の目を盗んで、義兄の所へ遊びに来ることもよくあって、ただ寄り添ってデルフィーノに人の温もりを伝えていた。
血は繋がっていなくとも、表向きには接点が無くとも、二人は確かに兄弟だった。
デルフィーノが微笑んでいることが出来たのは、オルカのお蔭だったのだろう。
冷たい人々の目に晒されてなお、デルフィーノは恐ろしいくらいに穏やかだった。
自分の事にも他人の事にも無関心を貫くデルフィーノだったが、オルカに対しては違った。
オルカはオルカで、人々からもてはやされる中で孤独を感じていた。
自分の事を分かってくれている者など、居ないと思って、ある意味ではオルカも、一人ぼっちだった。
だからこの兄弟は、上手くやれたのかも知れなかった。
そんな二人に、変化は唐突に訪れた。
ある日、デルフィーノに脅迫状が届いたのが、事の発端だった。
その内容はといえば、『屋敷から出て行け。さもなくばお前を殺す』というもので、何とも単調なものだった。
初めはいつもの嫌がらせだろうと判断し、脅迫状を見つけてしまったオルカにも気にしなくて良いとデルフィーノは言った。
しかし明らかな殺意が向けられ始めると、嫌がらせだから受け流す、というのが難しくなっていった。
だからデルフィーノは、屋敷を出て行くことにした。
ほとんど居ないような扱いをされてきたので、今更出て行ったところで大して変わることもないだろう。
いつもと変わらぬ調子で微笑んで、ただ淡々と出て行くと、突然告げたデルフィーノを、親たちはどう思っただろう。
父親は、実の子ながら引き止めることはしなかった。
義母は、前妻の忘れ形見が居なくなることを、喜んだかもしれなかった。
オルカだけは引き止めたが、デルフィーノはその手を掴もうとはしなかった。
しかし、出て行っても行かなくても、結果が同じになるであろうことは、デルフィーノにも分かっていた。
けれど、たった一人、オルカを悲しませないためだけに、デルフィーノは家を出て、外の世界で、オルカが居るのとは別の世界で殺されようと思ったのだった。
追いかけられたら逃れる術はない。けれどこのまま屋敷に居ても、暗殺から逃れる術はないのである。
どうせ死ぬのなら、檻の外へ出て死にたいと思った。
皆が大切にしているオルカを、巻き込むわけにはいかなかった。
デルフィーノは少ない荷物をまとめると、見送りもほとんどない中、生まれ育った屋敷を後にした。
「外に……出られましたよ、母上。母上も一緒に行きましょう…」
一人、小さく呟いて歩き出す。
これからは本当に一人なのだと思って、でも自由をたった少しでも手に入れられたと思えば、そんなことは小さな、大して気にならないことだった。
「隠れることも、出来ないかな…?」
追手が付くだろうことも分かってはいたが、後ろから付いてくる足音に思わず立ち止まってため息を吐いた。
隠しているのかもしれないが隠せていないその足音は、デルフィーノを油断させるためのものか否か。
「誰?僕は逆らったりしないよ?出ておいでよ」
「っ‼」
デルフィーノが声を掛ければ、足音の主は驚いたような気配を発した。
そしてその直後、その人物が姿を現してデルフィーノは驚きに目を瞠った。
「っ⁉オ、ルカ……?」
初め、デルフィーノは、追手として差し向けられたのがオルカなのかと思ってしまったのだが、オルカの言葉でその考えを打ち消した。
「兄さん‼僕を一人にしないで?僕も付いて行くよ!」
「オルカ……ここに居てはダメだ。屋敷に戻って。お前は、安全な所に居るんだ」
「どうして?僕には兄さんだけなのに…どうして、そんなこと言うの?僕に屋敷に戻れって言うなら、もちろん兄さんも一緒だよね?そうだよね?」
「いや……僕は……」
「兄さんが戻らないなら、僕も戻らないからね」
デルフィーノは、自分について来てしまったであろうオルカに戻るように言ったのだが、オルカは強情っぷりを発揮して頷いてはくれなかった。
だから、デルフィーノはオルカを守るために、出て来たばかりの檻に戻ることにした。
「もぅ。分かったよ。僕も戻るから、ね?戻るよ」
「うん。……でも、本当に良いの?」
「オルカは、戻るべきだから」
「……分かった」
二人は、もう少し一緒に居られるようにと、少ない時間に希望を託した。
どちらからともなく兄弟らしく手をつないで、二人は屋敷に向かって歩いた。
二人が連れ立って屋敷に戻れば、屋敷の者たちは俄かにざわついた。
「オルカ様⁈何故その者と共に居るのです?その者はもうこの屋敷から出て行った者なのですよ?」
「まさか⁈その者がオルカ様を誑かしたのですね⁈あぁ、ご無事でよろしゅうございました‼」
勝手に騒いで二人を引き離そうとする人々に、オルカは慌てて首を振った。
「違っ‼僕が付いて行ったんだ。兄さんは何も悪くないんだ‼」
「お庇いにならなくて良いのですよ、オルカ様。おい、誰かこの者を地下牢へ連れて行け!」
「おい、待てよ……っ待て‼」
「……構わない、連れて行け。オルカ様、落ち着いて下さい」
「兄さんっ」
悲痛な声を上げるオルカに、連れていかれそうになっていたデルフィーノが振り返って、オルカに向かって微笑むと言った。
「大丈夫だよ。僕はお前の傍に居るから……」
「っ‼兄、さん……」
デルフィーノは何も言わずに微笑んで、大人しく連れていかれた。
オルカは無力で、何も出来なかった。
そしてその夜の事だった。その悲劇が起こったのは――
地下牢ではデルフィーノが一人、夜中になっても眠らずに、ただ静かに小窓から見える夜空と、そこに浮かぶ月を見ていた。
そこに現れた影が言った。
「お前は今まで生きてて楽しかったのか?俺はお前みたいな人生、耐えられねぇなぁ、きっと。でもな、お前もそんな人生と今日でおさらば出来るんだぜ?よかったなぁ」
「……」
挑発するような相手の言葉にも、デルフィーノは反応しなかった。
「あれ、無視すんのかよ?お前、今の自分の状況分かってるか?」
「……こうなることは、ずっと前から分かってたよ」
「へぇ…じゃあ覚悟は出来てるよな?……お前は母親も失って、その上出来も悪かった。自分の無力さを、呪うんだな‼」
振り返りもせず、ただ静かに言うデルフィーノに、影は吐き捨てるように言い放った。
「もう分かってるよな?お前には、死んでもらう……」
デルフィーノは、月を見上げて……微笑んでいた。
いつもと変わらぬ、義弟が好きな方の、笑顔――
「さぁこれを飲め。それで終わる」
影はデルフィーノにグラスを渡した。
グラスの中身は葡萄酒で、月明かりに照らされて、血のように妖しく、紅く、光っていた。
デルフィーノはグラスを受け取ると中身を見つめた。
「安心しろよ。苦しまずに逝けるだろうから」
そんな影の言葉に、デルフィーノは軽く笑った。
そして今度は、偽物の微笑みをその顔にのせて影の方を振り返って言った。
たった一言。しかしそれは、デルフィーノの、心からの願いの、全て。
「……オルカには、手を出さないで」
それだけ言うと、彼は酒を煽った。
飲めば死ぬと、知っていながら。
口の端から葡萄酒が一筋、まるで血のように流れ落ちて……デルフィーノの手から、グラスが滑り落ちた。
「っ⁉」
突然目が覚めて、オルカはガバッと勢いよく起き上がった。
夢でも見ていたのか、何故か心拍が早まっていた。
「どうして……?」
何故か、胸騒ぎがして仕方がなかった。
翌朝、オルカは朝一番に父の部屋を訪ねた。
「お早うございます、父さん。あの……もう兄さんを、外へ出して差し上げてもいいですよね?」
焦る気持ちを抑えながら、オルカは父に言った。
「ん?あぁ、まぁ良いだろう。地下牢に閉じ込めたのも、皆の意見だったからな」
「ありがとうございます」
「おい、地下牢の鍵を持って来い」
「はっ‼」
近くに居た者の一人が動いて、鍵を取ってくるとオルカにそれを手渡した。
父に礼をし地下牢へ向かったオルカは、地下牢の入り口の所に付いて来た者を止め置いて、一人、牢の中に居る義兄の元へと走った。
地下牢の最も奥に、デルフィーノは閉じ込められていた。
オルカは牢の扉に駆け寄って鍵を開けると中に飛び込んだ。
「兄さん!もう外に……」
笑顔で言葉を続けようとしたオルカは、兄の姿を見て思わず口をつぐんだ。
「……ねぇ兄さん?寝てるの?」
不安になって、オルカは思わず震え混じりの声で問い掛けた。
しかし返事はない。
「ねぇ……ねぇ!っっ‼」
眠っているような兄を揺り起そうと近づいたオルカの足音で、何かかパキンッと割れる音がした。
それは昨夜、デルフィーノの手から滑り落ちて割れてしまったグラスの欠片で……。
オルカは息を呑んだ。
そんなはずはないと、ただ眠っているだけだと、自分に言い聞かせるように首をフルフルと横に振って。
オルカはデルフィーノに近づくとその体を抱きしめた。
その瞬間、オルカの中の何かが、音を立てて壊れた。
「兄さん?兄、さん…?ねぇ……返事をしてよ。……ねぇ、どうして?どうしてこんなに冷たいのっ⁈…っ兄さん‼」
そんなはずはないと、信じたかった。しかし兄を抱きしめた時、分かってしまった。
「うっ……うぅ……うわあぁぁぁぁ‼」
力が抜け冷たくなった兄の体をかき抱いて、オルカは絶叫した。
その声は地下牢に入り口に待機していた者の耳に届き、牢の中で何かあったのだと知らせた。
付いて来ていたのはニ、三人ほどで、そのうちの一人は、主人に知らせるために上階へ走った。
その知らせを聞き、屋敷の主人、オルカたちの父が駆けつけると、オルカがデルフィーノの体をかき抱いて涙を流していた。
「オルカ……デルフィーノはどうしたんだ?まさか……」
父は二人に駆け寄ると、デルフィーノの体に触れた。
「っっ‼デル、フィーノ……っ」
父はデルフィーノの事が可愛くない訳では無かった。
確かに屋敷は、弟であるオルカに継がせると決めたが、デルフィーノにも彼に見合った威厳ある地位を与えるつもりでいたのだ。
「あぁ……デルフィーノ!私の、私の可愛い息子が……何故こんなことに‼」
普段涙など流さない父が、涙を流して、悔しげに拳を握った。
「ねぇ……犯人は誰?……ねぇ誰が兄さんをっ殺したのっっ⁈」
叫ぶように言いオルカは駆けつけてきた者たちを睨みつけた。
普段からデルフィーノの陰口を言っていた彼らも、まさかこんなことになるとは思ってもいなくて、言葉を失っていた。
「デルフィーノ……デルフィーノ!お前を殺した犯人を、絶対に見つけ出すからな」
父は涙をぬぐって立ち上がると、自らのすべきことの為に動き出した。
「オルカとデルフィーノを上の部屋へ連れて行ってやってくれ」
周囲の者たちに声を掛けた主人の目に宿る強い意志の光に、周囲の者も思わず息を呑んだ。
「か、かしこまりました!」
「オルカ様、お部屋へお戻りになられて下さい。お義兄様は我々が――」
近づいて来て、オルカに半ば恐る恐るといった様子で話し掛けて来た者を、オルカは顔を上げて睨み付けた。
「うるさい‼今更お義兄様だって?白々しいぞ!」
「も、申し訳ございません。しかし……」
「部屋へ戻る。手を貸せ‼」
いつもの穏やかな雰囲気のオルカとはまるで別人の様で、周囲の者たちは少々戸惑ったが、命令には素直に従った。
「兄さんも僕の部屋に連れて行って。良いね?」
「っっ!それは……」
「じゃあ兄さんの部屋に」
「かしこまりました」
さすがに死人と同じ部屋に、オルカを入れておくわけにはいかないと、周囲の者が首を振れば、意外にもオルカは素直に頷いた。
周囲の者はほっとしたが、オルカにはまた別の思惑があった。
デルフィーノの部屋に着くと、彼の体はベッドに横たえられた。
オルカは鍵を渡すように言った。
「もうこれ以上何かあってはいけないから、この部屋の鍵を貸して?」
「はい。こちらです」
「うん。ありがとう」
オルカは鍵を受け取った。
と、次の瞬間オルカは身を翻したかと思うとデルフィーノの部屋の中に入り、中から鍵を掛けた。
「っ!オルカ様っ⁉」
「お開け下さいっ!オルカ様っ⁉」
オルカの突然の行動に驚き一瞬動きを止めた者たちが、はっと我に返り、デルフィーノの部屋の扉を叩いた。
「オルカ様‼」
「うるさいっ‼静かにして!僕は…僕は兄さんとここに居るんだ。誰にも邪魔させない。僕は出て行かないからね。だって……だってお前たちが兄さんを、殺したんだから‼」
「なっ!それは誤解です、オルカ様‼それに自殺か他殺かもまだ……」
「兄さんは自殺したって言いたいのか?そんな訳は無いだろう⁈兄さんは昨日、別れる時に僕に言ったんだ……兄さんは僕の傍に居てくれるって‼」
「オルカ様、落ち着いて下さい!」
「お前たちなんて信用できないんだよ‼早く立ち去れ‼」
「っっ‼……失礼致します」
オルカが叫べば、もう自分たちの手には負えないと思ったのか、屋敷の者たちはデルフィーノの部屋の前を後にした。
突然兄を奪われ、オルカは取り乱していた。
自分の行動も少なからずこの結果につながっているように思えて、オルカは人一倍自分を責めていた。
オルカにとってデルフィーノの存在は、ストッパーのようなものだったのだろう。
支えが無くなって、手が付けられなくなったオルカを、周囲の者たちももてあますようになっていった。
だんだんオルカも呼びかけに応えなくなっていった。
そんな中、父はデルフィーノを殺した犯人を捜し出した。
屋敷の地下牢にたやすく侵入したことやワイングラスがこの屋敷の物だったことから、屋敷内の誰かが犯人だと考え、少しでも犯人らしい人物がいたら知らせるように言っていた。
その中で、とある一人の男が酒に酔った勢いでデルフィーノ殺しを自白したのだ。
その男はすぐさま捕えられた。
その知らせはすぐにオルカにも伝えられ、数日ぶりにオルカはデルフィーノの部屋から出て来た。
地下牢に閉じ込められた側になった、デルフィーノを殺した男を前にして、オルカは怒りに震えた。
「お前が……お前が僕の兄さんを‼絶対に赦さないッ」
男を睨みつけるオルカは少しやつれたようだった。
デルフィーノを失ったことが、精神的にかなりのダメージだったのだ。
オルカがデルフィーノの部屋から出た隙に、使用人たちがデルフィーノの遺体を回収し、棺に納めた。
デルフィーノの体には外傷が無いので、見ているだけならただ眠っているようにも見える。
オルカは男に迷わず死刑を言い渡した。
その判断には、父も使用人たちも何も言わなかった。
その後、部屋から出たオルカがまた引きこもる前に、デルフィーノの葬儀が行われることになった。
引きこもってから、オルカは涙を流さなくなって、瞳から光も失われた。
冗談でも何でもなく、オルカにとって光は、デルフィーノだったから。
デルフィーノの葬儀からオルカは目に見えて日に日に衰弱していったが、父や母をはじめとした周囲の人々は何も言えなかった。
何か言ったとしても、オルカには届かなかっただろう。
そして、ついにある日、オルカも眠るように息を引き取った。
父も母も、使用人たちでさえも、二人を亡くして改めて、自分たちの態度がどれほど二人を苦しめていたかを思い知った。
悔やんでも、戻ってはこない二人を想って、屋敷は悲しみに沈んだ。
問題の一つだった後継者問題は、二人が失われたことによって振り出しに戻った。
残された道は、養子を取るかこのまま廃れるかだろう。
デルフィーノもオルカも、結局生涯この屋敷から遠く離れる事は無かった。
デルフィーノは暗く冷たい地下牢で、オルカはデルフィーノの使っていたベッドで死んでいった。
二人は最期まで、‘檻’から出ることもなく、お互いの傍に居ることも叶わなかったのだ。
しかしきっと、この仲良しな兄弟は、今は‘檻’から解き放たれて、手を取り合って笑っているだろう――
Fin.
ありがとうございました!