⇒隆弘エンド
隆弘視点
小雪を一身に浴びながらマフラーを握って、注目の中で隆弘は建物に寄りかかる。待ち人である舞花は、まだ来る気配がない。
携帯でちらちらと時間を確認するが、既に待ち合わせから十分が経過していた。声をかけようとひそひそ話している他人事は、知らないフリ。
本来なら待つことさえできないのだから、別に不満なわけではないが、連絡なしでの遅れはどうしても心配を伴う。
結局、舞花が来たのはその七分後だった。口をへの字に固定し、仏頂面はいつも通りだ。
きっと、既に隆弘の双子の兄である隆之に連絡し終え、真実を知っていることだろう。
――それをすぐに認めさせるわけには、いかないが。
「おはようございます、舞花さん」
隆之を演じて話しかければ、舞花は今度は睨むようにして隆弘を凝視する。相手がどう思っているかを見極めようとしているのだが、やはり隆之同様の無表情で心内が分からない。
「……おはよう」
取り敢えずと、わざと低い声で舞花が返す。
少し怯えている表情に隆弘は隠れて笑った。
――――全てを言ったら、どうなる?
初めから、騙していたと。
告白した時に名前を名乗らなかったことも、舞花が隆之に懸想していることに気付いて容姿を利用したことも、口調も演じて騙すふりして全て知っているのも。更に、何も知らない隆之の携帯を一時拝借し、代わりに告白を聞き入れてやったことも。
でも、まだだ。
まだ、言わない。
「ねえ、お前、実は――」
「舞花さん、走ってきました?」
「え? あぁ、うん」
話を遮られ言われた言葉に、舞花は驚きながら頷く。
実はここに来るまでに、五分前行動しても物凄く楽しみにしていると思われるから嫌だ、時間ぴったりも然り、でもあんまり遅れても失礼だし、と悩んでいる内に三十分も遅れて慌てて走ってきたという展開があったのだが、流石の隆之もそこまでは知らない。
「なら、先に飲み物買いましょうか」
「あ、うん、いや、それはいいけど……」
勇気を出した切り出しを邪魔され、しかし喉が渇いているのも事実。ノコノコと着いていってしまえば、それで運命は笑う。
「ココア、好きでしたよね」
「うん。……あ、いや、お金払うって」
「いいですよ、これくらい」
舞花はココアを、隆之はコーヒーを飲んで、一息。
そして、舞花がもう一度チャレンジする前に、先手をうつ。
「あのさ、実は――」
「俺、凄く嬉しいです」
「え?」
「ずっと好きで……まさか今日、一緒にすごせるなんて、それこそ夢のようで」
「、ッ!」
さっと顔を強張らせて身を固くする隣の彼女。
自分が勝手に勘違いして、もしかしてそれで傷つけるかもしれない――そう、誤解させる。
隆弘も本当はこんな口調ではないが、実際に話した事が無い舞花にはそれも分からない。
「本当はクリスマスプレゼントも渡す勇気なかったんで」
早く、早く。
罪悪感で潰されてしまえばいい。
「今、話せることが嬉しいです」
でろでろに甘やかして、依存させて。
彼女は依存しながら、騙した事実に追い詰められてしまえばいい。
「じゃあ。行きましょうか」
「……う、ん…………」
早く、早く。
ここまで、堕ちてこい。
きっとその頃になれば、自ら縋るようになるから。