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幼年期の終わり③

 寝覚めが良かった。

 体に掛けるものが無かったので少しだけ肌寒かったけれど、眠気はあまりなく、すぐに瞼は開いてくれた。剣の手入れを丁寧にした後、家の外で魔法の訓練をした。手のひらで火球を作り出す練習を少しだけと、空に向かって数発炎を放射した。ブレないことを確かめると、家に戻って熱いシャワーを浴びた。その後はいつもの通りに着替え、物干し場に掛けてあった学院のローブに腕を通した。普段着に包まれると、とても落ち着く。まだ入学して数か月目だというのに。

 家に戻ろうとすると、屋根の上にハヴェンが寝ていた。後頭部に両腕を回し、澄ました顔で空を見ている。私は屋根に上るための梯子を使って彼の傍に行った。彼は私に気付いたが、何も言わなかった。

「まさか、夜中ここで眠っていたというの?」

「んなわけねーだろ。お前らが遅いから、ここで暇潰してただけだっつーの」

「メリアは?」

「もう起きてくるだろ。俺の方が起きるの早えーんだ」

「そう……」

 彼は空を一直線に見つめている。

「そういえば気になっていたのだけど、メリアとハヴェンはなぜ学院のローブを付けているの」

「施設ではこれを着せられたからな」

「そうなの……」

 私も同じように空を見上げた。快晴だ。

「空を見るのが好き?」

「お前、なんでも質問してくるのな」

「ちょっとした興味よ。深く考えなくていい」

 ハヴェンは舌打ちをしたが、呆れたように息を吐くと、面倒くさそうに答えをくれる。

「空なんて嫌いだね。こっちの意図を何にも汲み取ってくれやしねーんだからな」

「……あなたたちは、ようやく外に出れた時、どんな風に思ったの」

 ずっと地下にいた彼らにとって、空は外に出られたことの象徴だ。地面に空などない。ずっと虐げられた人間が、こうして空を見上げられる、その空間にやっと自分を宛がうことができた気持ちなんて、私には推し量ることすらできない。私は泣き続けただけだけど、それよりもずっと、彼らは悲しい気持ちで地面に潰されていたのだ。空の高さをずっと、恋い焦がれていたとしてもおかしくない。少なくとも私なら、やっと這いあがることができた、こうして空を見上げることができた時、その解放感に全身を震わせただろう。けれどそんな想像は、完全に蚊帳の外の私だからこそのものだ。ハヴェンやメリアのものじゃない。

「けっ、外に出れたのは夜だったからな。今みたいな無駄な青さじゃなかった。憶えてねーよ」

「あなたたちは衰弱していたんでしょう。それで、やっと出ることができた」

「どっかの誰かの、意味のわかんねえお節介でな。ま、ありがたいことだがな」

「そう、その人よ」

 三日前の会話で、そのことが気に掛かっていた。

 彼女たちは誘拐され、人工ハイブリッドの実験に四年間付き合わされた。そして、先月、私が入学して一か月後――ちょうどリーグヴェンでヘイガーさんやアーニィさんに会いに行って帰ってきた頃、学院で爆発事件が起こり、倉庫が炎上した、あの事件の際に、地下施設から地上へ逃げたのだ。だが、その爆発事件は、何者かが二人を逃がすために行ったものだとわかっている。二人の地下牢の天井が爆発し、誰かが逃げろと言った。二人はそこから逃げ出した。私たち学院生はたまたまそれを、不可思議な爆発事件だと思っていたけれど、実は何者かが、二人を逃がすために地面に穴を開けたものだったのだ。

 その、誰かが気になる。

「いったい誰なの? 地上を爆破して、あななたちを地下施設から外へ逃げるきっかけを作ったのは……」

「知らねーよ……恥ずかしいことに、かなり意識がやばかったからな」

「男の声だった? それとも、女の声だった……?」

「憶えてねえ。メリアなら憶えてるかもしんねえけど」

 ハヴェンは体を起こす。

「ま、そいつのおかげで今、こうしてやりたいようにできるわけだ」

 彼は立ち上がり、こちらを見て、にやりと笑った。

「やっと、パーシヴァルの野郎をぶっ殺せる」





 二人で下に降りると、メリアはダイニングの椅子に座っていた。

「二人とも、どこにいたの?」

「屋根の上。少しだけお話を聴かせてもらったのよ」

「そう。ハヴェンの話は、アリサお姉ちゃんのお役に立てた?」

「わからない。結果が出てから、その話が実のあるものだったか決まるでしょうね」

 何もわからない現状。ハルカが殺されたことと、二人のことが関係あるのかはわからない。でも、どちらもハイブリッドが関わっているのだから、学院側にやはり何かあると思うのが妥当だ。二人と行動を共にすることは、私にとっては有益なことだ。情報もそうだけど、何よりパーシヴァルに近付くことが出来る。

「メリア、あなたたちを助けた人のことを憶えている?」

「……ごめん。憶えてない。逃げてって声が聞こえたのは憶えてるけど」

「その声。どんな声だったの」

「爆音と煙で、霞んでたんだ。男の人だったのか、女の人だったのかもわからない」

「そう」

「何か気になる?」

「ええ。でも、今すべき話じゃなかったわね。ごめんなさい」

「ううん、別にいいよ。気になることや考えたことは、きちんとその場で考えないとね」

 メリアはゆっくりと立ち上がった。

「――言っておくことがあるわ」

「なあに? お姉ちゃん」

「無闇に、そして無駄に人を殺さないこと。私たちは人殺しじゃない」

「わかってるよ」

「そして、パーシヴァルとは会話の時間を設けること」

「は? 見つけ次第殺せばいいだろ」

 ハヴェンが眉を吊り上げる。彼の気持ちを考えればごもっともだ。私は彼を説得しようとしたが、その前にメリアが彼を嗜める。

「ハヴェン。お姉ちゃんはハイブリッドにお兄さんを殺されているんだよ。わたしたちが実験されたのも、元々はハイブリッドなんて存在がいたから。だから、わたしたちとお姉ちゃんは、同じ『被害者』なんだよ。だから、少しはお姉ちゃんのお願いも叶えてあげて。ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんがパーシヴァルと話をして、お姉ちゃんがもう満足したら、もうパーシヴァルは殺しちゃっていいんだよね」

「ええ。構わない」

「だって、ハヴェン。少しだけ我慢してね」

「ちっ、わあったよ」

 ハヴェンは渋々納得したようだった。

 先ほどのやり取りを見ても、メリアは本当にハヴェンの姉で、ハヴェンは弟で、ただのお姉さんがやんちゃな弟を嗜めているようにしか見えない。けれど、その会話がやたらと殺伐としているのは、どう考えても問題がある。メリアの目は、光を宿していない。ハヴェンを見て、笑って、私に穏やかな言葉をくれても。弟を説得するような場面、どれ一つとっても、彼女の瞳は灰色で、もうここにあるものなど何も見えていないかのようだ。見えているのは、復讐が終わった未来か。それとも、ずっと暗闇で耐え忍んできた暗い過去なのか。いずれにしても、もう――光は宿らない、のかもしれない。

 メリアはゆっくりと椅子から立ち上がると、家の入口の扉へ歩み寄った。

 そして、大げさに振り返って、微笑む。

「それじゃあ、行こ?」






「まさか子どもを捕まえてくれなんて、いったい何を考えているんだろう――」

 ウィルはルクセルグ城の中央階段の前で、小さくぼやいた。

「それは確かに予想外だったわ。先日のラプター騒動――その首謀者がまさか子ども二人だったってことの方が、私としてはずっと驚きだけれどね」

「確かにそうですね」

 ルクセルグ城は、城門を通り堀にかかった大橋を越えると、すぐ目の前に大きな扉がある。その扉を開くと、この中央大広間に出る。ここは正面に中央階段――幅が非常に広い階段で、真っ直ぐ上がるとそのまま王の間に辿り着くようにできている階段があり、一階部分は左右に四つ扉。その先はまた長い廊下が広がっていて、奥に行けばさらに部屋がある。そんな中央階段前の大広間に、ルクセルグ小隊は待機ということになった。ウィルとウルスラは隣り合わせに立っているが、他の八人のメンバーも、広間にまちまちと立っている。ウィルは困惑していた。

「それに、パーシヴァルが何をしたいのかもちょっと――……だって、命令は子どもを二人、生きたまま捕まえろってことでしたよね。それなのに、ルクセルグの十人だけここで待機っておかしくないですか? 他の支部の小隊は、ルクセルグのあちこちに行って、探し回っているっていうのに。効率を優先させるなら、僕たちも探し回った方がいいに決まっている」

 そうなのだ。なぜ、こんなところで待機をさせるのだろう。何の意味があるのだろうか。

 ウルスラは肩をすくめた。

「あなたの言うことも一理ある。けれど、単純に考えれば護衛でしょうね」

 パーシヴァルは、この階段を登り切った王の間で、ルクセルグ王と会談している。

「護衛……パーシヴァルは、自分の命が狙われていると思っているんでしょうか?」

「何言ってるの。相手はクレイドールを操るのよ。全員命が掛かってるわ」

「……そうですね。となると、探しに行った他の小隊の方々が心配です」

「基本は弱いから、大丈夫でしょう。けれど子ども――あなたと私ははっきり憶えているわね」

「はい。あの少年は――」

 ハイブリッド……?

 疑惑の段階だが、ほとんど確実だ。だって、二種の魔法を使ったのだから。そんなことができるのは、一人一気質を凌駕できるハイブリッドしかいない。あの少年がハイブリッド――だとしたら、ハルカを殺したのも彼なのか? しかし、あの試験場に彼が入り込める余地などなかった……はず。どうせ暇なのだ。ウルスラに気になったことはどんどん尋ねていこう。ウィルは穏やかに切り出す。

「あの、ウルスラさん……あの少年は、試験の時、演習場にいましたか?」

「ハイブリッドが犯人であるのなら、あの場所にいなければならないから?」

「そうです」

 彼女は首を振った。

「残念ながらいないわ。あの場所にいたのは、亡くなった彼と、私とステラ、ヘイガーとアーニィ、ヲレンとクレイン先生だけよ」

「やはり、そうですか」

「もちろん、天井に張り付いていたとか、人間離れした動きをされていたらわからないけど」

「ウルスラさんでも冗談は言うんですね」

「もちろん、それは捨て推理よ?」

「はい。天井に張り付くなんて――それに、クレイン先生が皆さんを演習場に連れて入る際、きちんと『鍵を使って扉を開け、窓が全て閉まっていることを確認』しました。となると外部の人間が鍵を壊して中に入ったり、窓を壊して中に入った可能性は消去されることになりますからね。もし職員室から鍵を盗んで中に入ったとしても、クレイン先生がそれを使って皆さんを連れて入ったのなら、クレイン先生は職員室からきちんと鍵を持っていったということになり、『鍵が職員室に返されている』ことになる。鍵が職員室に返されているのなら、盗んだ本人も『外に出てしまっている』――演習場の中で潜んでいなければいけないのに、それでは駄目でしょう」

「共犯は無理かしら? 二人組になって、鍵を盗む。そして一人を中に入れて、共犯者が鍵を閉めてそれを職員室に戻す。中にいる一人は演習場のどこかに潜み、隙を見て彼を狙い、それから逃げる」

「演習場には『隠れることのできる物』がありません。だから先ほど天井に張り付いて、なんて話も出たんですよ。演習場は、中に大きな――それこそ殺人者が体を隠しておけるような物はありません。それなのに、中で待機するなんてことは、まずできるはずがない。クレイン先生が足を踏み入れた瞬間に、『そこにいるのは誰だ』となってしまいます」

「クレイン先生こそが鍵を返した共犯で、その姿をわざと見過ごしたというのはどうかしら」

「だとしても、残りの六人――当時受験生だった皆さんが、その殺人者の姿を見過ごしてしまうというのは、どうにも釈然としませんね。それだけの人数が、同時に殺人者の姿を見過ごすなんてことは有り得ないと思います」

「じゃあやっぱり無理なのね」

「皆さんがクレイン先生と一緒に入る時、足を潜めて一緒に入った誰かがいなければ、の話ですが」

「いなかったわ。断言できる。それに、やっぱり演習場には私たち七人以外には誰もいなかった――」

「そうですか」

 ウィルはあまり深刻にならないように言った。

「じゃあやはり、先輩方かクレイン先生の中に、犯人はいるのです」

「だとすると、あのハイブリッドの男の子は、どうなるの?」

 そうなのだ。外部犯の可能性が完全に否定され、あの場所にいた残りの六人しか犯行が不可能だとしたら、あの少年がハイブリッドであることの説明が難しくなってしまう。ウィルは思考した。親父の手紙に寄れば、千年に一度の程度で現れる、非常に稀有な存在であるはずだが……親父の情報が間違っていたのか? それとも、奇跡でも何か起こって、現代に二人のハイブリッドが生まれ出でたのか? 過去の伝承を考えれば、有り得ないことではないが……。今になって、そんな事件を複雑にするためのように都合よく、出会うことのできるものなのか? 

「どうなるんでしょうね……ハイブリッドは二人いるのかもしれません」

「その二人は、仲間なのかしら」

「わかりません。あの少年に直接話を聴くことができれば、何かわかると思うんですが――もし彼が捕まったら、パーシヴァルに願い出て、彼と会話できたりできないかな」

「それがいいわ。解決に繋がるかもしれない」

「もちろんそのためには、他の小隊が彼と、その姉である少女を捕まえてもらわなければ駄目なのです――――」

 その時。

 ウィルが言葉を言い終えるまでの、その一瞬を、何かの波動が切り裂いた。

 ぶわっとその場にいた人間たちに力強い震動が広がった。しかし、そのたった一瞬だけは、何も視界に変化はなかった。ウィルは背筋に、冷たい何かを感じ取る。危険だ――と、そう感じた次の思考に移るより先に、大広間の入り口としてルクセルグ小隊全員の目の前にあった大扉が、大きな音を轟かせながら真っ二つに割り裂かれ、瓦解した。その土埃と衝撃が、赤いカーペットの敷かれた城の床にそのまま伝わり、ウィルたち全員が当惑する。扉が破壊され、外の光がそのまま逆光になり眩い。

 そして、そこに立っていたのは。







「アリサお姉ちゃん、様子がおかしいよ」

 私たち三人は、魔法浮遊で森を移動していた。北上すればルクセルグの街に辿り着く。そして街を通り過ぎ、城へ向かう。パーシヴァルの行動はわからないが、支部の建物にいるよりも、おそらく城に何らかの働きかけをしていると判断したのだ。先日、この二人が襲撃したために、街は一時かなりのダメージを負った。ラプターの総攻撃。それにパーシヴァルが対抗したとなれば、奴とルクセルグの城主の間で何らかの話し合いがもたれる可能性もあるだおる。もうその日から三日も経ってしまったが、城を狙うのは悪い判断ではなかった。間違いだったら支部の建物にいるのだ。わからないのとは訳が違う。

 その道中、メリアがそのようなことを言い出した。空中を移動中だったが、彼女の顔はよく見えた。

「何が――おかしいの」

「何か来るよ」

「メリア、どけっ!」

 後ろからハヴェンが叫びを上げた。メリアの横を思いきり跳び、ハヴェンは水魔法で棒状の武器を作り出す。その瞬間だった。高い木の上から、学院のローブを身に着けた男の人が飛び出し、剣でハヴェンを攻撃した。ハヴェンは水の棒でそれを防ぐと軽い身のこなしで男の腹部を蹴り飛ばし、彼の体を遠くの木に叩きつけた。男は気を失い、ゆっくりと地面に落ちる。私とメリアは男の人の元へ降り立った。

「……学院生よ。なぜ?」

「お姉ちゃんの学校の人なんだね。知っている人?」

「知らないわ……でも、明らかにこちらをめがけて来ていたわね」

 ハヴェンが溜め息交じりに横に降り立った。

「なんだこいつは。雑魚だな。お前の知り合いか」

「違うって言ってるじゃない。リボンの色からして、上級生のようだけど」

「上級生なのにお前より弱えーな」

「これは自慢じゃないけど、私はハイブリッドと戦う時のためにずっと訓練してきたのよ。だからこそ特待生になって、自由に学院の外と中を動き回れる。上級生と同じくらいの力はあると思っているわ」

 そうでなければ意味がない。

 ハヴェンは肩をすくめた。

「ふーん。にしても弱すぎるだろこいつ」

「ハヴェン、この人はハヴェンを攻撃しようとしたね」

 メリアが冷静に言った。ハヴェンは頭を掻く。

「ああ、間違いねえ。だが、あれは殺す気じゃなかったな。殴って気を失わせるか、それくらいの勢いだった」

「それはわかるものなの?」

「お前の目にはあれが俺を殺そうとしてる動きに見えたのか?」

 剣を使ったものだったけれど、殺気のようなものはなかったと思う。ハヴェンは非常に軽やかで、それは彼の戦闘能力のたまものだとは思うけれど、だとしても、本気でハヴェンを殺そうとしていたのなら、もう少し対抗する勢いのようなものがあると思ったけれどそれもない。つまり――『ハヴェンを狙いはしたが殺すつもりのものではなく、気を失う程度の攻撃を仕掛けた』ということだ。しかし舐めてかかったためにハヴェンに反撃されてしまった、そんなところか。

 それについて話すと、メリアは目を細めた。

「じゃあ、誰かがこの学院の男の人に、ハヴェンを生きたまま捕まえろって命令したのかな。そうだとすれば、説明は付くよ」

「――パーシヴァルね」

「きっとそうだよ。パーシヴァルはわたしたちが逃げたことを知っていて、ルクセルグの事件の犯人がわたしたちだと知っている。それはもちろん、逃がしたままにはできないよね。だから学院生の人を使って、わたしたちを捕まえようとした。殺そうと思って攻撃してこなかったのを見ると、生きたまま捕まえろって命令があったんじゃないかな」

 だとしたら、学院生が何人かでやってきていると考えるのが――……。

 その一瞬、メリアは片手を空に向けて雷を放った。弱い雷だった。誰かの悲鳴が響いて、すぐ近くの地面にやはり学院生が落下する。今度は二人、男女だった。――どうやら、さっきの男の上級生だけじゃないようだ。雷は弱いもので、二人は気絶しているだけのようだ。私の先ほどの制約はきちんと守っているようね……。

 私は少しだけ安心して、それでも気を抜かず言葉を紡いだ。

「どうやら、何人か――いえ、何十人の学院生を、私たちに向かって放っている可能性が高そうね」

「うん」

「へっ、だからどうした」

 ハヴェンが息を吐いた。

「学院生共がわらわらやってきたって、返り討ちにしてやりゃいいだけだろ? どうせさっきの三人みたいな雑魚ばっかなんだろうしな。適当に受け流して、さっさとパーシヴァルのところに行こうじゃねえか」

「ハヴェン、そんなに学院生の人を悪しざまに言っちゃ駄目だよ」

 メリアの嗜めは心が籠っていない。

 駄目だよなんて言っているけど、駄目だよなんて思っていないんじゃないの。

 あなたは……。

 そう、零してしまいそうになった。

 ハヴェンは首をこきこきと鳴らす。

「実際弱いじゃねえか」

「手加減してるんだよ。わたしたちを殺さないように」

「けっ、パーシヴァルの野郎は俺たちを捕まえてどうするつもりなんだろうな」

「ハイブリッドを生み出して利用したかったからこそ地下施設を造ったんだから、そのわたしたちが逃げ出したら実験が無駄になっちゃうからじゃないかな」

「だったらなおさら、捕まるわけにはいかねえな」

 メリアは空を見た。

「そうだね。もう痛いのは嫌だもんね」

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