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たおやかな狂える手に⑤

「君は――学院生か。なぜこんなところにいるのかね?」

「俺の顔に見覚えはないのか……そうだろうな」

「今は君を相手にしている場合ではない。君も学院生なら、彼奴等の殲滅に力を貸したまえ」

 ウィルは口元の粘土細工の埃をローブの袖で拭った。

 パーシヴァル・イグニファスタス。

 ヘヴルスティンク魔法学院長。

 気質は――炎。

 その威力は絶大にして、繊細。炎を自分や先ほどの少年を巻き込まないように、それでいて圧倒的な力でラプターを根絶やしにした。ウィルは唇を噛んだ。その威圧感に気圧されそうだった。燃え盛る炎が威力を失っていくと、パーシヴァルはそのまま空中に飛び上がり、ラプターの群れに巨大な火球を叩きつけた。その一撃で、何十体のラプターが倒されたのか。

「おい坊主! ありゃ、学院のパーシヴァル様じゃねーか!」

 パーシヴァルの戦闘を茫然と見つめるしかなかったウィルの元に、先ほど会った男たちが近づき、感嘆の声を上げた。

「さっすが、ヘヴルスティンクの長だな!」

「炎の威力がちげえぜ」

 男たちはパーシヴァルに賞賛の声を浴びせる。ウィルは何も言えなかった。こいつは、事件を隠蔽したんだぞ。それを知らない人たちは、やはり奴の本質を見抜けていない。――だが、こうした行動はやはり当たり前で、パーシヴァルがラプター討伐に自ら打って出るのは、やはり非難できるものではなく、むしろ善意ある行動であった。賞賛も当然だ。ウィルは複雑な気持ちになりながら、パーシヴァルの攻撃を見つめた。空の真ん中で縦横無尽に動く姿は、魔法浮遊の限界を軽々と凌駕していた。移動したい方向とは逆方向に魔法を撃つことで、その反動により空中を移動する。その手際の切れの良さが異常だった。

 ……これがパーシヴァル。

 悔しいが、奴は強い。院長になるのも無理はない。

 だが――あんたは何を知っている? 五年前の事件で、何を知って、何を隠しているんだ? 

 パーシヴァルの攻撃で、ラプターは徐々に減りつつあった。近くの建物の窓からは、そんなパーシヴァルの戦闘を見つめる住民たちの視線に溢れ、ウィルが見渡すと、かなりの窓辺に人々が集まり、パーシヴァルの戦闘を見つめていた。やはり圧巻であった。パーシヴァルの炎は、ラプターを一網打尽にした。炎の渦は美しかった。一撃はラプターに悲鳴と嘶きの隙さえ与えなかった。炎は空に弧を描き、まるで虹のように、美しい黄金の、赤と黄色の明滅を輝かせた。

 ウィルはそんなパーシヴァルの姿を、ただじっと見つめていた。

 それから、先ほど危険だった少年が、パーシヴァルを見上げていることに気付くと、ウィルは彼に近づき、声を掛けた。

「おい、大丈夫だったか? ここは危ないから、早くどこかに」

「……あんたは、パーシヴァルの知り合い?」

「えっ?」

 少年は、灰色の髪をしていた。

 瞳は、とても黒い。

 ウィルは一瞬呆気にとられたが、あまり気に留めず、静かに答える。

「知り合い、っていうか、俺は奴の学院の学生だからな。このローブは、その証」

「そうか。そうなんだな」

「――お前」

 少年は、片手に水の塊を作り出すと、瞬時にウィルの腹部に叩き込んだ。ずしりと重すぎる感触に吹き飛んだウィルは、道に沿うように思いきり仰け反り、苦痛に顔を仰け反る。頭の中に震動が荒れ狂ったが、宙に浮く中、両手に風魔法を微力に噴射して体勢を立て直し、地面に足を滑らせた。足を使って立てたのはよかったが、彼は衝撃の強かった腹部に手を当てて咳き込む。

「邪魔」

 少年は魔法浮遊で瞬時に空に飛びあがると、ラプターと戦闘しているパーシヴァルの元へ向かった。

 なんだ、あいつは?

 ウィルがそちらに視線を向けると、すでに少年はパーシヴァルに攻撃を仕掛けていた。パーシヴァルはラプターの攻撃を避けると同時に、少年の魔法さえも軽くいなした。――なんだ、あの少年。突然パーシヴァルに攻撃を仕掛けている。パーシヴァルは先ほどからずっとクレイドールと戦っている最中だというのに、それがわかっているなら、誰も邪魔したりしないはずだ。しかし、彼は今、そんな戦闘中のパーシヴァルに攻撃をしている。先ほどの質問と何か関係があるのだろうか。ウィルは二人の戦闘を静かに見守った。しかし、パーシヴァルは微笑み、ラプターを少しずつ殺しながら少年の相手もしていた。

 圧倒的すぎる――。

 あの少年の目的は、なんだ。

 次の瞬間だった。

 少年はパーシヴァルの目の前で、風魔法を使った。

「――――!」

 ウィルは目を疑った。

 先ほど自分を攻撃した時、使用したのは水魔法だったはずだ。それなのに今、風魔法でパーシヴァルを吹き飛ばそうとした。もちろんパーシヴァルは軽々と避けたが、今はそんなことは問題ではない。今、確実に――二種、一人一気質の法則を破って、確実に二つ以上の魔法を使っている! 少年は水魔法の応用で氷の鈍器を手に作り出すと、それでパーシヴァルに連続して殴り掛かった。パーシヴァルは器用に浮き沈み、空中を自由に動きながらそれを躱す。少年の不発の攻撃は、その勢いでたまたま傍にいたラプターを倒した。少年の瞳は冷たかったが、無垢にパーシヴァルを狙い続けるような。他のものは眼中にないように感じられた。パーシヴァルは手元の剣で、踊る様にラプターを殺し続け、そしてほんの一瞬を縫うように、炎魔法で少年の一撃を防ぎ、いなした。ウィルは動揺していた。――まさか、あいつ、あの少年が……?

「ウィルフレッド君!」

 はっとした。

 傍には、疲れた様子ながらまだ余裕のあるウルスラが立っていた。彼女のローブはクレイドールを倒した際に撒き散らされる粘土細工の粉で真っ白だった。ウィルは静かに、今自分が立っているのは地面だということを思い出した。そして、まだクレイドールと戦っている最中であったことや、そこにパーシヴァルがいること、もしかしたら怪我人もたくさんいるかもしれないという、急激な現実感に苛まれた。まるでアリサのようだ、と自嘲した。彼女を見守るのは自分の役目だと思いこんではいて、彼女のように一切を忘れまいとは思っていたが、いざ『それらしい人物』を目の前にすると、確実に目が眩み、他の全てがまったく思考に割り込まなくなっていた。――落ち着け、落ち着け! ウィルは息を吐き、ウルスラに対応する。

「ウルスラさん、大丈夫ですか? お怪我は……」

「大丈夫。パーシヴァル様が来てくれたから、安心できるわね」

「そう、ですね」

「でも、あれは――」

 ウルスラも少年の存在に気付いていた。

「あれは、誰? 男の子が、パーシヴァル様を攻撃してるの?」

「誰かは――わかりません。けど、明らかに学院長を狙っている」

 ウィルは即座に魔法浮遊に乗り出すと、パーシヴァルの傍に行き、ちょうどパーシヴァルを狙って攻撃を仕掛けてきた少年の一撃を剣で受け止めた。少年は歯をむき出しにして明らかな敵意を表情に曝け出した。パーシヴァルは小さく笑うと、空のさらに高い位置にいるラプターの残りの群れに向かってより高く空へ飛び立った。浮遊のための魔法の炎がウィルの後ろで炸裂した音が響くと、少年は一瞬そちらに目を奪われる。ウィルは瞬時に体を捩って剣を少年の懐に叩き込んだ。

 ――が、剣が切り裂いたのはクレイドールだった。

「なっ――に……」

 少年の体に剣を叩き込む、そのわずかな隙間に突如クレイドールが現れるなど。ウィルは困惑した。クレイドールは切り裂かれ、粘土細工と化す。その数秒の間に少年はウィルの片手を掴むと、風魔法を使って少年自身の体を回転させ、後に手を離し、遠心力を使ってウィルを遠くへ吹き飛ばした。ウィルは先ほどの様子が頭にこべりついていたが、まずいと舌打ちし、やはり自分を律すると、すぐに魔法で体制を立て直し近くの建物の屋根に降りる。少年に目を戻すと、少年は垂直にゆっくり落下しながらこちらに手のひらを向けていた。しまっ――ウィルの足元から水が吹き出す。水柱が思いきり押し出す形でウィルを空に向かって弾き飛ばすと、水柱は瞬時に凍りつき氷柱と化した。それがまた自爆する形で破裂する。――破裂した氷の柱が、破片を周囲に向かって炸裂させた。吹き飛んだウィルの体に氷の破片が数片襲い掛かり、ローブを切り裂き、足に刺さり、指に傷をつけた。ウィルが小さな呻き声を上げると、自分の視界に明確に自分の噴出した血が入り込む。痛みと動揺、様々な要素のために魔法を使う姿勢を取り損ねたウィルは、そのままの勢いで地面に落下した。

「ウィルフレッド君!」

 ウルスラの声が響くと、彼女は同じように少年の元へ浮遊した。

「何者なのかしら、あなたはっ」

「あんたも学院の仲間か? パーシヴァルを守るのか?」

 少年の怒るような声が響いた。

 ウルスラは剣で斬りかかる。少年は手の内側で氷の棒状の武器を生成すると、ウルスラの一撃を受け止めた。片手で風魔法を使って、体を自由自在に空中で回転させ、ウルスラを殴り掛かる。ウルスラも剣でいなし、隙を縫うように魔法浮遊で空中へ戻ることを維持したが、少年の攻撃は執拗で、地面に向かって上から押さえつけるようなものが多かった。そのうち連続攻撃に浮遊魔法の隙を失ったウルスラも、少年の風魔法の一撃で落下し、地面に思いきり背中を打った。

「ウルスラさん!」

 彼女は気を失った。

「邪魔をするな」

 少年はそう吐き捨てると、立ち上がろうとしたウィルにもう一撃、水魔法を当てた。ウィルはそれをまともに喰らうと、屋根の上を転がって地面に落下し、しばらく呻いたのち、二度咳き込んで、意識を失った。







 アリサの視界の端で、明らかな業火の光が瞬いた。

「誰――」

 そちらに意識を向けながら、片手の剣でラプターを切り、弧を描くように周りに炎を噴射した。一撃、一匹――着実に数を減らすと、先ほどまではきりが無かったというのに、目に見えて数が減っている感触が伺えた。これは、先ほどの少女が言っていた、弟とやらが操っている――言葉を借りれば、従えているとのことだけど、もうその必要がなくなったということだろうか。一度屋根に降り、気になる方向へ走った。あの炎は、誰の魔法だろう。さっきの少女は、まだあそこにいるのか。それともパーシヴァルを探しに行ったのか。そういえば、ウィルは――それに、学院の人たちは。様々なことが頭を過ぎったが、屋根を駆けながら、降下してくるラプターを斬っては撃ち抜くたびに、思考する隙は沈んでいった。

 屋根伝いに駆け抜けて、空の中央で炎を撃ち出している人間。

 あれは――。

 銀のローブ。

「パーシヴァルっ!」

 落ち着け。

 熱くなっても意味がない。

 屋根を蹴り、ありったけの魔法浮遊で空を飛ぶと、パーシヴァルの傍にいたラプターを一体剣で貫き、炎で焦がした。それから一度下に向けて炎を放ち浮遊、それから数体を切り刻むと、その過程で戦闘中のパーシヴァルの傍に行き着いた。パーシヴァルは静かに微笑みながら、何のわだかまりもなくラプターを相手取っている。私は自分の口から溢れそうな様々な言葉を喉に押さえつける。そのわずかな沈黙を縫うように、パーシヴァルはこちらに気付き、声を掛けてきた。

「君は――アリサ君だったかな?」

「覚えていてくれて光栄よ……パーシヴァル・イグニファスタス」

「はっはっは、敬語の一つも使えんかね」

「自分がそれほどの存在じゃないと、なぜ気付かないの? あの入学式に私が言ったことを、忘れたの?」

「今はその話をしている場合じゃないだろう」

「逃げるのね――」

「今はクレイドールを殲滅し、人々を守ることが先決じゃないかね」

「……いいわ、けれど逃がさない。あなたを絶対問い詰めてみせるわ」

「それは構わない。だったら、私を守ってくれないか」

「何を――」

 相変わらず、不敵な、余裕の笑みを見せる男――。

 私は彼から視線を外すと、真下にいた一匹に剣を突き刺し、それからそいつの背中を借りて空を飛ぶ。剣ではクレイドールは死なない。空中での魔法浮遊の連射は疲労を溜める。ラプターの背中を使いながら、そいつが力尽きるまで背中で魔法を撃つ方がよほど便利だ。剣を貫かれたクレイドールは苦しみながら下降する。その上に乗った私の元へ食いつこうとするラプターを、連続で切り捨てた。剣で斬られて嘶き落下していくラプターを、まるで掬い取る様にパーシヴァルの炎の柱が焼き尽くす。――認めたくないけど、恐ろしい炎だ。そして強い。学院長だけのことはある。

 そうして自分の乗っていたラプターを自分の魔法で焼き殺し、一度地面に降りようとした時だった。

 目の前に、水の弾丸が迫っていた。

「――――」

 間一髪でそれを避ける。

 今の、は。

 避けた際に姿勢を崩して、そのまま落下する。だが、その下からまた迫る影があった。

 少年だった。

 灰色の髪。

 冷たい表情をした。

「――っ!」

 少年は片手に氷で作った棒状の武器を手にして――水気質か――私に殴り掛かってきた。姿勢を崩してはいても、無理やり身を捩り、片手の剣で、少年の一撃を受け止める。少年はその拮抗する間にもう片方の手に溜めていた水魔法を私の首辺りを狙って撃ち出した。――が、その寸前に体を仰け反らせ、頭を下にして魔法を交わす。水魔法は明後日の方向へ噴射した。私は地面の直前で一度魔法を下に撃ちこみ体勢を整えると、ゆっくり足の裏で踏み締めるように地面に降りた。正面に少年が降り立つ。

「パーシヴァルの仲間かよ」

 少年は舌打ちした。

「違うわ。勘違いしないで」

「ならどうしてあいつに協力する」

「協力?」

「クレイドールを倒しただろ? そして、奴を守った」

「いい加減にして。それに関しては、奴は関係ないわ。あれは危害を加えるもの。倒さなくてはいけないでしょう。それに、さっきのはあなたがいきなり攻撃してきただけ。奴を守ったわけじゃないわ」

 少年は、灰色の髪をしていた。

 まさか。

「……あなた、クレイドールを操っている『弟』ね?」

「なぜそれを?」

「あなたのお姉さんという人に会ったわ」

「そう、あいつに会ったのか」

 今も頭上で、パーシヴァルが戦っている。

「悪いけど、関係ない人を巻き込む戦い方は好きじゃない。一旦引きなさい」

「何を言ってんだ? そうでもしないと、パーシヴァルの野郎は出てこなかったじゃないか」

「他にやりようはいくらでもあった。こんなやり方は意味がないの」

「つーか誰だよお前は? あいつから何を聞いたんだ」

「あいつっていうのはお姉さんのこと? 何も聞いていないわ。けれど、後で話をする約束をした」

「……お前、何者?」

「一度、あなたのお姉さんを殺すつもりで戦ったわ」

「は、あいつ負けたの?」

「勝負はついてない。辞めたのよ。お互いに事情があることを理解した。話をすることを約束した」

「ちっ、勝手なことを。じゃあどうすりゃいいんだよ」

「あなたたちの家に、案内すればいいのよ。私も奴には、いい思いは抱いていない」

 私は空を見上げた。

 あれだけ黒々しかった空は、すでにその影を一掃されている。しかし、綺麗な青空は今は曇り空に変わってしまっていた。天気が変わりやすいのか、クレイドールがそうさせたのか。その中で、少しずつ着実にラプターを殺していくパーシヴァルの姿はよく目立った。落ち着いた戦闘の中で、街にはパーシヴァルを見守り、歓声を上げる人間が増えている。もう、私と少年は戦えないだろう。

「――いい思いは抱いていない? だったら殺せばいい。今殺せばいいだろ、なんで殺さないんだよ」

「奴と話をしたいからよ。奴に訊きたいこと、知りたいことを洗いざらい吐かせてから――その全てを聞きだしてから、殺すべきか考えたいの」

「お前、何も知らないんだな」

「あなたは何を知っているというの?」

「……まあいいや。なら、来てもらおうか。ただし」

「ただし?」

「あんたの事情は知らねえけど、俺たちはパーシヴァルを殺すぞ?」

「……そうね、あとは自由よ。こっちは別に、奴を殺すか否かが目的なんかじゃない」

 この子の言葉は、いったい何を孕んでいるというの。

 あの少女も。

 パーシヴァルの名前を出す度に、そこに憎しみのような、黒々しい深い闇が見える。殺す機会があれば、本当に殺すだろう。もちろんパーシヴァルがみすみす殺されるほど弱いわけじゃないことは知っている。でも、この子たちには――私よりも小さいというのに、私よりもずっと、燻らせてきた殺意が溢れている。私よりも、殺すために何かを背負っているような。

 パーシヴァル、あなたはこの子たちに何をしたの?

 私は息を呑み、彼に静かに言った。

「場合によっては、パーシヴァルを殺すのに協力するわ」

「そうか」

「もう一つ。あなたたちの家に、私以外にもう一人連れて行きたいのよ。構わないかしら」

 ウィルは今、何をしているのだろう。先ほどから会っていない。クレイドールが現れたことには当然気付いていて、もしかしたら戦っているのかもしれないけど、私はあの少女に気を取られ、彼のことに気が回らなかった。けれど、今は空でパーシヴァルが戦っているだけで、ウィルの姿が見えない。戦っていないのか、避難か何かに回っているのか。恐らく後者だとは思うけど……ウィルに限って、喰われたはずがない。そもそもあのロビーの違和感に気付いて、何らかの動きはするはずだ。

 ウィルが一緒にいると安心するのに。

 少年は舌打ちした。

「は? いいわけねえだろ」

「駄目なの?」

「最終的にパーシヴァルを殺すんだ。そんなに人数は要らない。誰にでもべらべら喋ると思ってんのか? あんたは強そうだし、あいつが認めたんだから信用するだけだ」

 一理ある。

 何か特別な事情があるとして、それをほぼ初対面の人間二人以上に、そんな風に簡単に話したりしないだろう。家があると言うのなら、そのような場所に簡単に連れて行くはずもない。どうやら私は戦いの中で、そんな風に認めてもらい、もしかしたら利害の一致でパーシヴァル殺しに協力するかもしれないという条件の提示の上で話はできるけど、やはりこの場にいないウィルを連れていくことは通用しないか。――彼がいないのはいろいろと困るし不都合だけど、勝手に首を突っ込んでいるのは私の方だ。やむを得ない。それに、私だけで彼らの話を聴けるというので十分だ。ウィルには後で話せばいい。

 もしかしたら、ハルカの事件と関わりのある事実かもしれない。

 それに、あの少女は、魔法を二つ使った。

 そして、クレイドールを従わせられる。

 これほどの存在が目の前にいて、話をしてくれると言う。

 何もないはずがない。

 そこにパーシヴァルが絡んでいるのなら、何か手がかりも掴めるだろう。

「……わかった。私一人で行く。案内しなさい」

 空を見ると、クレイドールはほとんどパーシヴァルが倒してしまっていた。この調子なら、もう私も参戦する必要はない。それに、この姉弟の話を聴くということになったのだから、もう二人もクレイドールを呼び出したりはしないだろう――もちろん、その呼び出すという機構自体に、彼らがきちんとした従順さを持ってクレイドールを操っているのかどうかは疑問だけど。でも、こうして私に対応してくれているのなら、今回は見送るのだろう。

 それでいい。

 まだパーシヴァルは殺させない。そして、他の人を巻き込むわけにもいかない。

 殺すなら、彼らに協力して話を聴いてから。パーシヴァルに真実を訊ねてからだ。


 

 




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