その頃の八雲紫6
ふぅ。
私はスキマを通って博麗神社に出る。
枝垂のやつ。ふざけるんじゃないわよ。私が霊夢を人柱にすると本当に思っているの?
「霊夢」
「あ! 紫。アンタ今までどこに行ってたのよ」
霊夢を呼ぶと、すぐに霊夢がやってきた。
「ごめんなさいね。ちょっと古い友人に会ってきたの」
「ボロボロじゃない」
「喧嘩しちゃってね」
私は笑顔でそういう。
「おおおぉぉ。ここが幻想郷か~~~」
「ちょっと。蓮子」
声のした方を見ると、蓮子が里のほうを見て両手を上げて大声を出していた。
「……あれだれ?」
霊夢が不審者を見るような目で蓮子とメリーを見る。
全く、蓮子は……。
「私の娘とその友人よ。外の世界で暮らしてるの」
「むすめ~~?」
「捨てられていたのを拾ったのよ。その金色の髪の子。かわいいでしょ」
「私より年上に見えるけどね……」
はぁ。と霊夢がため息をつく。
「ほら。紫。手出しなさい」
「そうね」
手を伸ばす私。すると、パン! と、その手を霊夢が叩いた。
「あのね……。確かに触れるだけでいいんだけど。叩く必要はないんじゃない?」
「え? お札持った手で叩いてほしかった?」
「霊夢。何そんなに怒ってるのよ」
「あんたが一月もいなかったからでしょうが! あと少し遅かったらアキラは体をとられているのよ!」
「アキラ!? とられるってどういうことよ」
「もうあんたしか頼りになる人がいないのよ。アキラ、ちょっと来て」
霊夢が神社に向かって声を上げる。すると、刀を持った少年が出てきた。
枝垂の若いころの面影があるわね。ということは、この子が枝垂の孫。
「アキラ。貸して」
「大丈夫? 霊夢」
「大丈夫よ」
霊夢がアキラ、と呼ばれた少年の持つ刀を奪う。
「この刀の名前、あんたなら知ってるんじゃない?」
「銘が知りたいの?」
私は刀を受け取って鞘から抜く。
妖力……。ということは妖刀ね……。
あれ? この刀。
「見たことあるわね。確か名前は、氷雨。氷系最強の妖刀よ」
「ウソ! 本当に知ってたの!」
「ええ。昔見たことがあるわ。でも、なんで銘なんて聞くのよ」
「実はね」
霊夢から事情を聴く。
「なるほどね。ちなみに、藍も知ってるわ」
「ちっ。里で油揚げ掲げて呼べばよかったわ」
「あのね。うちのかわいい藍をそんな方法で呼ばないでくれない?」
「私はそんなことで呼び出されたりしない!」
あら。藍。いつの間に後ろに。
「でも、藍って油揚げ大好きじゃない?」
「紫様……。だからと言って、空に掲げただけで飛んでいきませんよ」
「そういえば。アキラでしたっけ? 自己紹介がまだでしたね」
私はアキラのほうを見る。
「八雲紫。この幻想郷の母です。よろしく」
手を伸ばして握手を求める。
「アキラです。よろしくお願いします」
「私は八雲藍。紫様の式神だ」
「九尾の狐……ですか?」
「そうだ。よろしくな」
「はい。よろしくおねがいします」
結構礼儀のある子みたいね。
「それでアキラ。あなたの名字は? 名字がないわけじゃないでしょ?」
「え、えっと………」
「(紫様。まさか枝垂の孫かどうかのチェックですか? 面影があるのですからほぼ間違いなのでは?)」
「(念のためよ)」
藍が小声で聞いてくるので、私も小声で答える。
「……フルネームは、陰陽師 明………です」
やっぱり……。
「え? アキラ。そんな苗字だったの」
「霊夢。知らなかったのか? ずっと一緒に暮らしていたんだろう?」
「アキラ。名字だけは言わなかったから」
「こんな苗字、言っても笑われるだけだからね……」
なるほど。
「少なくとも。この幻想郷では笑う人はいませんわ。気にしなくていいと思いますよ」
「そうでしょうか」
「ええ。心配しなくていいですよ。それじゃあ霊夢。私は帰るわね」
「じゃあね。紫」
「蓮子。メリー。帰るわよ。来なさい」
「えぇ~~」
「いいから来なさい。もう」
私は蓮子を掴むと無理やりスキマに連れ込む。
「ちょっと。紫さん~」
「またね、霊夢。おやすみ」
私は蓮子を連れたままスキマを抜けて、家につく。もちろん、幻想郷内の私の家。
「あれ? ここって紫さんの?」
「ええ。迷惑かけたからね。一晩ぐらい、私の家の中限定なら幻想郷にいてもいいわよ」
「やった!」
「といっても、これから飲むから記憶飛んじゃうかもね」
「フフフ。私は強いですよ」
「あら。それは楽しみね」
私は蓮子を手放す。そして、後ろからやってきた藍のほうを見て、
「藍。お酒とつまみをお願い」
「はい」
藍が先に家の中に入る。
「蓮子。メリー。来なさい」
私は縁側に座って2人に言う。そして、2人とも縁側に座ると、
「紫様。3人分持ってきました。おつまみとおかわりは少しお待ちください」
「ええ。ありがとう。藍」
「ありがと、お姉ちゃん」
「ありがとうございま~す」
藍から日本酒の入った徳利と空の御猪口を3人分受け取る。そして、
「メリー。蓮子」
御猪口を渡して、中に日本酒を入れる。
「ありがと、お母さん」
「ととっ。どうもです、紫さん」
「ふふ。乾杯」
「「乾杯」」
御猪口のお酒を3人とも一気に飲む。
「くー。うまい」
「おいしい……」
「大丈夫? 2人とも」
「大丈夫ですよ。紫さん。まだ一口ですよ?」
「そう。どんどん飲むわよ」
次々とお酒を飲む。藍からつまみも届いて、食べながら飲む。そして、
「ふぅ。それにしても、メリーを拾った日からもう20年以上たっているのよね……」
「どうしたんですか? 紫さん。急に」
「あのときはこんな風に、娘とその友人と一緒に飲むなんて想像もしてなかったわ……」
「後悔でもしてるんですか?」
蓮子がそんなことを聞いてくる。
「後悔? してるわけないじゃない。おかげで20年。楽しく過ごせたもの」
「紫さんにとっては20年なんて、あっという間じゃないんですか?」
「さぁ? ただ、幻想郷ができる前と比べて、できた後のほうが充実しているような気がしてるわね。1年1年が」
「確かに。紫様と会う前、王朝の皇帝をたぶらかしていたときよりすごく充実している」
「藍さん。本当にそんなことしていたんですか?」
「ああ。ただ、そんなことをしてもつまらんぞ」
「いくつもの国を滅ぼしておいてつまらないですか。さすが九尾……」
「実際つまらなかったしな。それよりも紫様の式でいたほうが楽しい。ただ、仕事を何でもかんでも押し付けられるのは困っているが」
「フフフ、藍。後で折檻ね」
紫さん。それはどうかと思いますが?
「藍。あなたも飲みなさい。つまみももう大丈夫じゃない?」
「そうですね。では、いただきますか」
藍が蓮子の隣に座った。
「しっぽふわふわ~」
「ふふふ。そうだろう。昔もメリーは私のしっぽがお気に入りだった。私のしっぽの中で昼寝をしていた時もあったな」
「ちょっ。お姉ちゃん!」
「う~ん。さすがに私は入れないかな」
「ははは。一度試してみるか?」
「よっしゃ。入ってやる!」
「待ちなさい、蓮子!」
藍のしっぽに飛び込もうとした蓮子をメリーが止める。
「お姉ちゃんに迷惑でしょうが!」
「えーー。いいじゃん~~」
「……蓮子。完全に酔っぱらってるわね」
「えー。酔ってないわよ~」
「酔っ払いはみんなそういうのよ!」
フフフ。
「ん? どうしたの、お母さん? そんな楽しそうな笑み浮かべて」
「なんでもないわよ」
楽しいのよ。娘と一緒に飲めるって言うのが。
……。でも、やっぱりダメね。枝垂の言葉が頭から離れない。こうして飲んで、枝垂の言葉をひと時でも忘れたかったのに……。
…………。私はどうすれば……。
翌日。
「じゃ、お世話になりました」
「それぞれ家の目の前にスキマをつなげてあるから寄り道しようにもできないだろうけど、しちゃダメよ?」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「またね。お母さん」
「ええ、またね。蓮子、メリー」
2人がスキマの中へ消える。
「さて。行くわよ、藍」
「枝垂のところ。ですね」
「ええ」
紫様がスキマを開く。そして、
「まったくもって予想通りじゃな。この時間に来ると予想しておった」
枝垂のいる和室に到着した。
予想通りだと? まるで、
「何を言うのかも予想しておる。さぁ、答えあわせの時間じゃ」
やはりか。私はいつでも狐火を出せるようにしておく。
さぁ、紫様。断ってください。そして枝垂を倒しましょう。
「……枝垂」
「なんじゃ?」
「手伝うわ。詳しい作戦を教えて」
え? 紫……様?
「そういうと思っておったぞ。詳しい説明をしてやろう」
「ゆ、紫様!?」
「黙って、藍」
「し、しかし!」
「黙って、藍」
霊夢を人柱にして結界の強化。それが枝垂の目的のはず。
現在、幻想郷に霊夢は必須。代わりの巫女では霊夢の代わりにはならない。ただの博麗の巫女の代わりにしかならない。
スペルカードルール発案者で、歴代博麗の巫女でも1,2を争う天才。そして幻想郷最強の霊夢を失うほうがデメリットが大きすぎる。
紫様。なぜ。
「こっちにこい。詳しく説明する」
枝垂は立ち上がって隣の部屋に行く。紫様もその後ろをついていく。
紫様。なぜ……。
またあの過ちを犯す気ですか?
その頃の八雲紫は今回で最終回です。
さーて。あのチート爺さん。どうやって倒そうかな。




