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いつも通り、イベントは突然やってくる!

遅くなりました


 あの琥鉄先輩が悲鳴を上げた日から約一週間、僕たちはイラストの模写や似顔絵、自画像、あとは比較的、簡単にイラストに出来そうなものを毎日書いて言った。


 似顔絵でペアになった先輩に僕が描いたものを軽く殴られるのを覚悟で見せたら、先輩は意外なことに怒らず、酷いと思える部分だけを注意してくれた。この前の出来事で思うところがあったのかもしれない。まあ、自画像を描いた時は自分の思うように描けなかったのか琥鉄先輩に八つ当たりしてはいたが。そして芦原さんは毎回そんな出来事を面白そうに笑顔で眺めて、先輩の癒し担当になっていた。


 ちょっと変なところもあったが、とても『漫研部らしい』活動を僕らはしていた。


 それをいつも通り先輩がぶち壊すとは僕は思っていなかった――――




「みんないる!?」


 そう言って部室のドアを勢いよく開け放つ先輩に僕たちは顔を上げる。先輩が全員いるのを確認した後、ドアを閉めてイスに座る。それを見て僕たちはそれぞれがしていたことをやめる。全員が揃うまで絵を描かないのは、暗黙の了解みたいになっていた。


「いますよ。どうかしましたか?」

 先輩の問いかけに答える芦原さん。ちなみに僕と琥鉄先輩は先輩が元気よく入ってきた時点で天井を見上げ厄介事に巻き込まれることを悟って諦めていた。こんな時は大抵、厄介事を持ちこんでくるのが先輩だからだ。芦原さんはまだその経験がないため首を傾げている。


「よく聞いてくれたね瑞希ちゃん!実はね、今日の漫研部の活動はイラストじゃなくて…週末を含めての山籠り合宿に決定しましたー!!」


「「はい?」」

 あまりに突拍子もないことを言い出す先輩に思わず僕と琥鉄先輩が訊き返す。いつもは微笑んでいるだけの芦原さんも流石に驚いたのか目を丸くしている。


「口応えは許しません!本日、金曜日から土、日の休日を使って体力、筋力の向上を図りまーす!!」

 僕らがなにか言おうとする前にまず、拒否権を失くされてしまった。なら、せめて何故いきなりこんなことを言い出したか教えてもらうとするか。


「なんで突然そんなことに?なにかあったんですか?」


「いやぁ、今ここに来る途中で佐倉に会ってね。そしたら月末にある運動会の部活動リレーがガチ枠とネタ枠じゃなくなって、運動部と文化部も混合でやることになったらしいのよ」


「なに!?なんで!!」

 先輩の発した言葉に琥鉄先輩が勢いよく食らいつく。僕は今年に入学したばかりだから前年度との違いはわからない。


「あぁ、その話ですか。瑞希は今年が初めての運動会なのでわからないんですが、今まで運動部が本気で走るレースと文化部がパフォーマンスをしながら走るレースがあったんですよね?」

 そうだったのか。文化部じゃ頑張っても運動部に勝つのは厳しいもんな。それで本気の勝負を観るレースと面白いネタや恰好をするのを観るレースに分けていたということか。


「ああ。うちの部活は去年はイラストを俺が描いたやつをコピーして観客席にばらまいてたんだ。あと兄貴はコスプレもしてたな…」

 コスプレでの全力疾走は不気味だったぜ…と、遠い目をしながら琥鉄先輩が語る。因みにコスプレは男性キャラのものではなく女子が着るセーラー服だったらしい。そりゃあ、不気味だよ…。


「このことは生徒会ではなく、実行委員が決めたことなので詳しくはわからないのですが、なんでもパフォーマンス部門だけでやると一つだけ見ていたら他のものが見れないという苦情が来たらしくて…」


「そんな!ネタ枠だったからイラスト配りながらゆっくり出来たのに…」


 琥鉄先輩は芦原さんの言葉に衝撃を受けて机に体を投げ出した。そんなに全力で走りたくないのか。気持ちはわかるけど。でもネタ枠じゃなくても文化部は勝ちに行くんじゃなくて楽しませるんじゃないのかな?


「そういうこと!完全なネタ枠じゃないなら本気出して勝ちに行かないと一番にはなれないからね。少しでもマシになるように強化合宿をするってわけ!」


 先輩の負けず嫌いが発動したらしい。そうですよね、みんな本気で勝ちに行く中で先輩が遊ぶわけがないですよね。

 去年はそれぞれの部活が観客に向けてパフォーマンスしている中で直人さんと先輩の全力ダッシュで一位をもぎ取ったんだとか。だが、それで観客が冷めるわけでもなく、イラスト配りとコスプレしたイケメンの全力ダッシュ(忘れがちだが直人さん、琥鉄先輩の武内兄弟はイケメンである)、最後に、普段は表で目立った行動はしない(悪目立ちはしている)可愛らしい少女の凛々しいコスプレ姿によって逆に盛り上がったようだ。


 だが今年は運動部も交えてのリレーだ。運動部に勝つのって結構、難しいと思うから付け焼刃の合宿で勝てる相手じゃないと思うんだけどな。でも、やらないよりはマシか。


「でも場所とか親への連絡とか大丈夫なのか?俺は泊まり自体は別に問題ないが」

観念したのか起き上がった琥鉄先輩は不安要素を提示していく。


「あっ…。場所は堀さんに連絡したら『でしたら武内家の別荘へ行ってみてはどうでしょう。少し寒いかもしれませんが山中にあるのでトレーニングもしやすいと思われますよ』って言われたから問題なかったんだけど親かぁ…。私も大丈夫だけど彰くんと瑞希ちゃんは連絡してみてくれるかな?強制的に連れて行くのもこれはマズイだろうし」

 流石に無断で泊まりに行くというのは常識的にもマズイのは先輩もわかったらしい。先輩って今まですごい常識外れの行動ばっかりとってたから普通の反応をするのは結構、新鮮だったりするんだよな。


「わかりました。ちょっと聞いてみます」

「了解です」

 芦原さんと僕は返事をすると携帯で親に連絡を取るため、一時的に廊下に出て距離を取る。


『もしもし。彰?どうしたの?』

 コールが三回目くらいになった時に母さんが不思議そうな声を出しながら電話に出た。まあ、滅多に電話かけないから少し驚いたのだろう。


「あ、母さん。僕、部活で合宿に今日から行きたいんだけど行ってもいいかな?」


『今日から?随分と急なのねぇ。誰か保護者はいるの?』

あ、保護者か。母さんに少し待って、と言ってから再び部室の扉を開けて顔だけ出して先輩に質問する。


「先輩、保護者って誰かいるんですか?」


「保護者なら堀さんがついてくれるって言ってたわよ。そこらへんに抜かりはないわ」

先輩に了解、と伝えてから廊下に戻り、電話先で待ってもらった母さんへ声をかける。


「もしもし。いるみたいだよ。あと多分、一回うちに戻って準備してから行くと思う」


『そう。それならいいかしら。なにか持ってなくて必要なものはある?準備しておく?』


「いや大丈夫。じゃあね」

 母さんが比較的、理解のある人で助かった。携帯を切るとちょうど芦原さんも電話が終わったようだ。


「芦原さんは行けるの?」


「うん。ちょっと心配してたけどね」

 たははー、と苦笑いしながら頭をかく芦原さん。急に娘が合宿に行くことになったって言うんだもんな。心配するだろう。


「中村くんは?」


「僕も大丈夫」


「そっか!それじゃ特訓、頑張ろうね!」

 芦原さんはにこっと笑いかけてくるが、どんなトレーニングが待っているのかまだ分からないため、僕は苦笑いしかできなかった。


 そうやって少し2人で話していると僕らの話し声が聞こえたのか、部室の扉が開いて先輩が顔を出してきた。


「2人ともどうだった?」


「大丈夫ですよ」

「瑞希もおっけーです!」

 2人とも合宿に参加出来ることを伝えると先輩は安堵したような笑顔になった。参加できなかった時のことを考えて不安だったのかもしれない。なんてね。先輩はメンタル強そうだからそんなことはないか。


「よっし!それなら荷物まとめて!もう堀さんが校門前で待機してるって言ってたからそのままそれぞれの家まで送ってもらいましょう!」


「ちょっと待て!さっきも思ったがなんでお前が堀の連絡先を知ってる!堀はうちの執事だぞ!?」

 先輩が意気揚々と立ち上がると久しぶりに感じるこてっちゃんのツッコミが入った。そんな先輩達を見て芦原さんは、え!武内先輩のおうちって執事いるんですか!?と驚いて目を見開いている、というか目を輝かせている。眩しいです、芦原さん。


「あ、瑞希ちゃんは知らなかったんだっけ。こいつの家ってかなりの金持ちで、執事が堀さんって人なのよ。あと、私が堀さんの連絡先を知っているのは前にあんたの家に行ったときに『なにか必要な時はこちらにご連絡ください。琥鉄坊ちゃんと仲良くしてもらっているのですからいつでも力になりますよ』って言われて渡されてたからだけど、あんた知らなかったの?」

 しれっとした感じで琥鉄先輩の質問に答える先輩。それを聞いて琥鉄先輩はぼそぼそと、俺が外に出ないからって、などと呟いている。

なるほど、琥鉄先輩の活動範囲を広げるために先輩にパイプを作っておいたのか。流石、堀さんだな。


「彩花さん、早く!早く行きましょう!まさか高校で生執事が見られるとは思ってなかったです!」


「わ、わかった!わかったから押さないで瑞希ちゃん!」

瑞希さんの勢いに圧倒されながら部室を出る先輩を見て少し驚いた。まさか先輩をうろたえさせるなんて…瑞希さん侮れないな。


「彰、俺達も行くぞ」


「あ、はい。今行きます」

 そう言って僕と琥鉄先輩も部室を後にした。


これからも遅くなります

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