エピローグ
黄金色の夕日が、グラウ領の丘を優しく照らしている。
エリザベートは、丘の上に一人立ち、眼下に広がる自分たちの王国を眺めていた。風が、豊かに実った麦の穂を揺らし、さわさわと心地よい音を立てている。
「……離婚して、よかった」
誰に言うでもなく、彼女はぽつりと呟いた。
その言葉には、一片の後悔も、寂しさもなかった。あるのはただ、自分の人生を自分の手で選び取ってきたという、晴れやかな満足感だけ。
ふと、丘の麓から、馬に乗った一人の人影がこちらへ向かってくるのが見えた。
見慣れた、気高いシルエット。アルベルトだ。きっとまた、王都での仕事の合間を縫って、彼女に会いに来たのだろう。
エリザベートは微笑んだ。
遠くで、彼女に気づいたアルベルトもまた、馬上で柔らかく微笑み返したように見えた。その唇が、声にはならない言葉を紡ぐ。
『いつかまた……』
その言葉の続きが何なのか、エリザベートには分からなかった。そして、知る必要もなかった。
彼らの間にあるのは、言葉にしなくても伝わる、深い信頼と絆だから。
アルベルトが丘を登ってくるのを、エリザベートはじっと待っていた。
やがて隣に並び立った彼は、彼女と同じように、眼下に広がる景色を見つめた。
二人は、決して背中を向けない。
そして、互いだけを見つめ合うこともしない。
ただ、どこまでも並んで立ち、同じ方角を見つめている。
彼らが見つめる先にあるのは、二人で描き、これからも彩りを加えていく、この王国の輝かしい未来の地図。
それこそが、二人が見つけた、何よりも尊い愛の形だった。




