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婚約破棄された悪役令嬢の私、前世の記憶を頼りに辺境で農業始めます。~美味しい野菜で国を救ったら聖女と呼ばれました~  作者: 黒崎隼人


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番外編 『農園の一日』

 グラウ領の朝は、鶏の鳴き声と共に始まる。

「姫様ー! 朝ですよー!」

 子供たちの元気な声が、エリザベートの館の窓を叩く。彼女が窓を開けると、子供たちは「おはよう、エリザベート先生!」「今日の授業はなにー?」と口々に尋ねる。ここはもう、彼女が暮らす館というより、村の公民館兼学校のような場所になっていた。


「おはよう、みんな。今日の午前中は、ジャガイモ畑の草取りよ。一番たくさん取れた子には、お昼に特製のハチミツがけパンケーキをあげましょう!」

「わーい!」と子供たちは歓声を上げて、それぞれの家へ朝食を食べに帰っていく。


 エリザベートの一日は、こうして始まる。

 朝食を済ませると、彼女は麦わら帽子をかぶって畑へ向かう。まずは、自分の実験農場の様子を見て回るのが日課だ。新しい品種のトマトの育ち具合はどうか、病気にかかっている株はないか、土の湿り気は十分か。まるで我が子を慈しむように、一つ一つの作物に声をかけ、丁寧に観察する。


 午前中は、村人や農業学校の生徒たちと共に、畑仕事に汗を流す。

「エリザベート様、ここの土、前よりずっと黒くなりましたぜ」

「ええ、ハンスさん。皆さんが頑張って堆肥を入れてくれたおかげです。素晴らしい土になりましたね」

 昔ながらの農夫と、最新の知識を持つ農業大臣が、同じ目線で土について語り合う。ここでは、それが当たり前の光景だ。


 昼食は、村の広場でみんなと一緒に食べる。採れたての野菜がたっぷり入ったスープと、焼きたての黒パン。今日の特別メニューは、子供たちが待ちかねたパンケーキだ。みんなで輪になって食事をしながら、午後の作業の計画や、村の噂話に花を咲かせる。この時間が、エリザベートにとっては何よりの癒やしだった。


 午後は、農業学校での講義が待っている。

 今日のテーマは「害虫対策について」。エリザベートは、農薬に頼らない方法――天敵となる虫を保護したり、害虫が嫌う匂いのハーブを畑の周りに植えたりする方法――を、自らの経験を交えて熱心に語る。生徒たちは、真剣な眼差しで彼女の言葉に聞き入っている。


 夕方、仕事が終わると、エリザベートは一人で丘の上に登るのが好きだった。眼下に広がる、夕日に染まる自分たちの農園を眺めていると、一日の疲れがすっと消えていく。

 王城にいた頃には、決して得られなかった充実感。

 土の匂い、人々の笑い声、作物が育つ生命力。そのすべてが、今の彼女を満たしていた。

(ここが、私の王国)

 エリザベートは、穏やかな風に吹かれながら、心からそう思うのだった。

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