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これまで

十歳の時森で迷子になったことがある。

その日は学校帰りに近所の公園で友達とかくれんぼをしていて、私はベンチの陰に身を潜めていたのだが、そこにあった未確認の転移空間に巻き込まれて私はうっそうとした森の中に飛ばされてしまった。

不意に作動して度々失踪事件を起こしていた転移空間は、その当時研究が進んでおらず、ただ何千年も前に制作され、今でも無作為に動く、ということしかわかっていなかった。一般の住宅街の中でもまだ捜索が進んでいなかったのはそのためだ。

叫んでも歩き回っても人一人見つけることもできずに夜になってしまって、私はそれまでの人生で一番大きな声で泣いた。その夜はいつもより冷え込んで、だんだんと手足が動かなくなっていくのが怖かった。

泣き疲れて座り込んだ時、後ろから声をかけられて飛び上がった。恐る恐る振り返ると、手に小さく火を灯してこちらの顔を覗き込む一人の女の人が立っていた。暗闇で確信はできなかったが、騎士団の制服だった。名前を聞かれたので答えると小さく笑って、「家に帰ろう」と。それだけ言うとどこかへ連絡して、私の手を握って歩き出した。

しばらくして森の外に出ると警察隊の中に母が立っていて、思わず胸に飛び込んだ。また泣き出す私の頭の上で母は警察から何か説明されていたが内容は覚えていない。ただ、気づいた時にはもう女の人はいなくなっていた。

数ヶ月後、新聞に載っていた彼女の写真を見て、私はあの時の人だと確信した。

シルク・メイ・クローガ。

その名を脳に焼き付けた。

あの時恐怖の感情から救ってくれたおかげか、いつの間にか彼女は私の一番の憧れになっていた。


騎士団に入るには厳正な審査を通過しなければならない。世界に誇れるトルメシア軍を目指す、と母に伝えたら猛反対されたのは多分それが理由だろう。

魔法において頭ひとつ抜けていても、体力が無ければすぐに落とされる。逆も然りだ。そのうえ、たとえ全てに才能があっても、受かる保証はない。毎年、試験に合格するのは全体の1%ほどだと言われている。

そんなものに十歳になってから憧れても憧れで終わるだけだ、と諭された。

しかし、私は諦められなかった。どうしても彼女に会いたかった。新聞の記事には彼女が女性初、しかも成人したばかりという若さで副団長になったことが書かれていた。私はその勇姿と、写真の中の彼女の口角を小さく上げた笑顔に、どうやら一目惚れしてしまったようだった。

父は背中を押してくれたので、母の反対を押し切って特別魔闘学科に編入した。


自慢じゃない、とは言い切れないが、私は魔法がかなり得意だ。かなり細かいことまで魔法頼みでできるし、魔力量が多いらしく強力な呪文でも常人より疲れない。先生によるとこれは売りになるそうで、体力作りと共に魔力強化にもかなりの時間を割いた。

いい先生に出会ったおかげで、私は十六歳になる3日前に魔闘学科を首席で卒業した。それと同時にトルメシアの試験を受け、無事に合格することができた。面接の時は空気が重くて重くて仕方がなかったし、戦闘試験は逃げ出そうか否かと悶々としながら受けたせいで記憶が抜け落ちている。得意なはずの魔法試験も緊張で危うく机を爆発させかけた。が、どうやら申し分ない結果で合格したようである。

流石の母もこの結果には手を叩いて喜んでくれた。


そういうわけで、私は長年の憧れに手を伸ばすことができたのである。




さて、(この言葉で文を始めてみたいと長年思ってきました)初めましてですが、お楽しみ頂けましたでしょうか。

変わったタイトルだとは思いますが、これから少しずつ書いていくつもりですので、『フリティラリア・フラグランス』、よろしくお願い致します。


あと、作者はこの作品を百合として書いていくつもりですので、ご了承下さい。

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