魔王の言葉
「こちらです」
エルフ看護士に促され、私は再び玉座の間へと向かう。
あの場所だ。
敗北を突きつけられ、死を覚悟した場所。
扉が開く。
玉座の間は、相変わらず静かで、それは厳粛なる威圧……規律による秩序とでも称すべきか。
魔王は玉座に座って、人間のわたしには読めぬ表情で私を見据えていた。
初めて会った時と、何一つ変わっていない、そうとすら錯覚しそうだ。
「来たか」
「……ああ」
私は、膝は着けど頭は垂れなかった、敗軍の将とは言え将だ。
今は捕縛されている訳でもなく首を捧げる訳でもない。
魔王軍の風潮とやらではこのような振る舞いがおそらく正しいはずだ。
魔王はそれを咎めなかった。
「医療部から報告は受けている」
「……全部、か?」
「全部だ」
短く、断言する。
一瞬、胸が締め付けられた、恥ずかしさも感じた。
体内も、血も、骨も、そして、心の中身まで全て知られている。
それは自分の全てを剥がされ、裸体でこの玉座に立たされているようなモノだ。
「どうだ」
魔王は静かに問う、彼の言葉には力が有り重々しい威厳があった。
「魔王軍の医療は」
私は、少し考えた。
「……正直に言えば」
言葉を選ぶ。
「屈辱的で、理解しがたくて、そして……恐ろしい」
魔王は、わずかに口角を上げたように見えた。
「だろうな」
それはどこか誇らしげであった。
「だが」
私は、続けた。
「無駄がない、魔王軍は将兵を壊さない、死なさない、そしてそれらは経験となり兵をより強靭な兵と成す」
「我が万国に誇れる軍団よ」
魔王は機嫌良さげに喉を鳴らすがすぐに咳払いをした。
「貴様の軍団の兵学書には書かれているかな?」
その声は、低く、静かだった。
「軍はな、戦いの死傷よりも、病気で山ほどの損害を出すんだぞ」
その一言が、胸に落ちた。
私は、過去を思い返す。
疫病で倒れた兵、疲労で動けなくなった兵。
心を病み、剣を取れなくなった兵。
それらは、戦死としては数えられなかった。
だが、確実に軍を削っていった。
魔王軍と私達では根本的に用兵思想……いや、戦争と言う概念に対する捉え方が違う。
「勇敢な死体など、戦力ではない」
魔王は続ける。
「魔王軍が欲しいのは、長く戦える者だ。折れず、倒れず、必要なら休み、戻ってくる者だ」
「……だから、健康診断か」
「そうだ、健康……田畑を耕すにしても、工芸に勤しむにしても、もちろん戦争するにしても動けないでは話しにならない」
全くその通りとしか言いようの無い話しだ。
「そしてお前は、まだ使える」
その言葉を、私はもうアルプ聞いていた。
だが、魔王の口から出ると、意味が少し違って聞こえた。
「使い潰すつもりはない」
魔王は、はっきりと言った。
「壊れたら直す。病めば治す。迷えば、整理や相談をする」
「……敵の人間に、そこまでする理由は?」
魔王は、少し考える素振りを見せた。
「敵だからだ」
私は、眉をひそめる、敵と言う概念すら魔王軍では異なるのか?
「敵とて資源だ、豊かな土、豊富な水、溢れる作物、そして自軍とて資源なのだ」
その価値観は、人類連合国軍には、存在しなかった。
そして、魔王の思想が理解出来て薄ら寒いモノを感じざるを得なかった。
彼は、魔王軍は兵をいや全てを"資源"として見ている。
何と残酷で、温かみも無いが、合理的で"消耗"しない、させない。
その力が軍と言う組織の"強さ"をもたらしているように感じられた。
「選べ、虜囚として生きるか、我が軍で生きるかを」
魔王は、静かに言った。
「お前は、魔王軍の管理下にある」
淡々とした事実の提示だった。
「だが」
魔王は、視線を真っ直ぐ向ける。
「どう生きるかは、魔王軍では選べる」
私は、長く息を吐いた。
逃げ場はない。
だが、押し潰される感じもしない。
「……皮肉だな」
「何がだ」
「人類の軍では、誰も私の身体や心を気にしなかった、同胞に気にされぬ事を敵に気にされるとはな」
魔王は、肩をすくめた。
「人間の軍とは、そういうものだ。だから我は、そうしない」
沈黙が落ちる。
やがて私は、口を開いた。
「……少し、休ませてくれ」
魔王は、頷いた。
「許可する。それも任務の一部だ」
私は、立ち上がった。
この城で、この軍で、私は何になるのか。
まだ分からない。
だが一つだけ、はっきりしている。
ここでは、死ぬより先に、壊されることはない。
その事実が、敗北した勇者にとって、何よりも奇妙な救いだった。
一応ここでお話は終わり、好評なら書く...かな?
書きたい事は書いたので個人的にはめっちゃ満足している。
さて...アールカノ帝国に戻るか、皇国に行くか...。
お話書くの休んでる間、滅びの世界、と言う物語を書いてたんですよね。(未投稿)
執筆自体は11月以外は休んでないと言うね、まぁ趣味だし多少はね?
アールカノ帝国もチビチビと書いているし、辺境の物語の表側で起きてるアールカノ帝国対ドラゴミアン王国の星間戦争も書きたい...書きたい事がいっぱいだぁ。(白目)
一度投稿した以上完結はさせるつもりですから気長に待ってくださいませ。
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