問診
「力を抜いてください、少しリラックスしてお待ち下さい」
エルフが一歩下がり、少しした頃。
「……にゃあ」
足元から、声がした。
顔を横に向けてると、黒猫がそこにいた。
艶のある黒い毛並み、丸みを帯びた体つき。
正直に言えば少し、太っている。
その頭には、変わった帽子が乗っていた。
そこに付けられたバッチには、星とハンマーと鎌が彫られている。
「……猫?」
「アルプです」
エルフが紹介する。
「精神診断担当、夢と記憶の確認を行います」
「……猫、ではないのか」
「違います」
即答だった、アルプと言う魔物?なのか?私は寡聞にして知らない存在だが、魔の物達も様々だな。
「アルプです」
少し考え込んでいると念を押すように再び言われた。
黒猫は、ゆっくりと台に飛び乗った。
その際にお腹についた肉が揺れていた。
「最近、食べすぎたにゃ」
猫が、普通に喋った、確かに魔物やもしれんな。
「先生、その帽子がないと透明化できませんので。落とさないでください」
「では始めるにゃ」
アルプが、私の目を覗き込む。
金色の瞳だった。
「抵抗しないでください、抵抗すると、夢が荒れるにゃ」
「夢?」
返事をする前に、視界が滲んだ。
眠ってはいない。
だが、意識が沈んでいく。
気づけば、私は戦場に立っていた。
あの日の包囲された平原。
叫び声。
折れた槍。
倒れていく兵。
隊列も何も無い、敵軍に完全に包囲され、命令は届かない。
両翼は押し込まれている、前はオーク達の重装歩兵後ろは下馬したリザードマン達軽槍騎兵、下馬が出来ないケンタウロス達は短弓を器用に使い、疎らだが矢を降らせてくる。
状況は辛うじて分かるが、兵を纏められず、突破の糸口すら掴めない。
「ここですね」
背後から、声がした。
振り向くと、アルプがいた。
同じ黒猫の姿で、私の後ろに座っている。
「……これは、私の夢だ」
「はい」
「見る必要があるのか?いや、見せられる意味は有るのか?」
「あります、追体験と言う治療です」
アルプは尻尾を揺らした。
「あなたは、逃げなかった。だから今、ここに立っている」
兵達の視線が、突き刺さる、最後の決断をする前の彼等の目線だ。
期待、信頼、そして恐怖。
「あなたは、正しい選択をしたかどうか、まだ答えを出せていない」
胸が、痛んだ。
「……結果は、これだ」
私は夢の中の大地を見た、それは鮮血に染まっている。
そう、友軍の鮮血で。
彼女の軍団はすり潰され、降伏か死しか無く、私は指揮官として降伏と武装解除を命じた。
降伏し兵達が拘束されて行くに連れて、大地には幾万の物言わぬ友軍の亡骸が転がっていた。
「結果だけで判断すると、あなたは自分を壊します」
アルプは、淡々と告げる。
「魔王軍では、それを“戦力喪失”と呼びます」
戦場が、ゆっくりと霧に包まれていく。
「あなたは罪悪感を持つべきですが、背負い続ける必要はありません」
「……そんな都合のいい話があるか」
「あります」
即答だった、本当に彼等は迷わず答える。
「背負うのは、組織です。個人ではありません」
景色が消え、再び意識が診察室に戻る。
私は、息を吐いていた。
心臓は未だに激しく動いていて、少し額……いや身体に汗をかいていた。
いつの間にか胸元に乗っていたアルプは胸元から降り、横に座った。
「診断結果にゃ」
アルプが言う。
「重度の精神的疲弊。自己評価の低下。責任感の過剰にゃ」
一拍置く。
「ただし、折れてはないにゃ」
私は、黙って聞いていた。
「治療が必要にゃ」
「……どうやってだ」
「先ずは休養にゃ。他にも役割の再定義。そして、必要なら話を聞くにゃ」
「猫が?」
「アルプが」
サラッとエルフに訂正された、このエルフ拘りが強い。
アルプは、ピロトカ略帽とやらを少し直した。
「この帽子のマークは意味は無いにゃ。魔王の趣味にゃ」
それを聞いて、私は、ほんの少しだけ、笑ってしまった。
「……最悪の診断だと思っていたが、悪くは無いな」
「最悪ではありません、最良です」
エルフの突っ込みを脇にアルプは、静かに言った。
「あなたは、まだ“使える”にゃ」
その言葉を喜べば良いのか皆目見当がつかなかった。
インキュバスかアルプで悩んだんですよね、インキュバスは有名だけどなんか違うなぁと思いアルプに。
何よりイメージ的にこっちの方がにゃんこでし易かった、この話のいわし...ではなく癒し枠ですね。
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