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吸血診断

 触手測定が終わった後、私は少しだけ安心していた。

 いや、正確にはもう大抵のことでは驚かないと思い込んでいた。

 それが、完全な慢心だったと知るのに、そう時間はかからなかった。


「次は血液検査です」


 エルフ看護士が、いつも通りの穏やかな声で告げる。


「……血を抜くのか」


 血を抜くと言われれば瀉血か……だがここまでくれば普通では無いんだろうな。


「はい。ただし、おそらくあなたが考えている方法とは異なります」


 その言い方が、嫌な予感を確信に変えた。

 部屋は暗かった。

 照明は落とされ、壁には赤黒い水晶が埋め込まれている。

 床には細い溝が走り、どこか儀式場にも似ている。


「随分と……趣味が悪いな」

「照明は必要最低限にしています。検査精度が下がりますので……後先生の趣味です」


 扉の奥から、足音がした。

 いや、足音というよりも気配か。

 現れたのは、背の高い魔族だった。

 蒼白な肌、赤い瞳、整いすぎた顔立ち。

 疑いようもない。


「……吸血鬼か」

「そうね」


 声は低く、落ち着いている。

 芝居がかったところは一切ない。


「魔王軍医療部、血液診断担当。安心して、致死量は吸わない、私も仕事兼食事だから」

「安心できるか」

「よく言われる」


 私は再び診察台に横たえられ、腕を固定された。

 針は見当たらない。


「瀉血はしないのか?」

「しない。血は“流す”ではなく“飲む”モノだ」


 そう言って、吸血鬼は私の首元に顔を寄せた。

 本能的に、喉が鳴る。


「動くな。こちらも仕事だ」


 一瞬、鋭い感覚が走った。

 痛みはほとんどない。

 むしろ、冷たい風が触れた程度だ。

 次の瞬間。

 吸われている。

 身体の奥から、何かを引き抜かれていく感覚。


「……」


 声が出なかった。

 吸血鬼の瞳が、わずかに細くなる。


「ふむ……」


 しばらくして、ゆっくりと口を離した。


「味は……良くないな」

「……それは、どうも」

「鉄分不足、水分摂取量が少ない。慢性疲労が血に出ている」


 淡々とした報告だった。


「だが」


 吸血鬼は、水晶板に何かを書き込む。


「重篤な疾患はない。感染症、血液寄生体、異常魔力反応すべて陰性だ」


 私は、ほっとした自分に気づき、腹立たしさを覚えた。


「……敵に診断されて、安心するとはな」

「敵かどうかは関係ない、診断に敵も味方も無いただそこに有るのは事実」


 吸血鬼は肩をすくめる。


「血は嘘をつかん。そして、お前の血は……よく戦ってきた血だ」


 意外な言葉だった。


「だが、無理をしすぎだ。このままでは、戦場に立つ前に倒れる」

「……人間の軍では、珍しくもない」

「だから敗北を喫している」


 それは蔑むような冷ややかな言葉だった。

 私は言葉を失う、吸血鬼は続ける。


「魔王軍では、兵が倒れる前に止める。死体は役に立たん、戦力を戦闘する前に消耗する軍隊は勝利の果実を得られない」

「……合理的だな」

「魔王様の軍政改革、その成果」


 検査は終わった。

 拘束が外され、私は起き上がる。

 首元に傷はない。

 出血も、痛みもない。


「次は何だ?」

「体内画像診断だ」


 エルフが答える。


「……まだあるのか」

「はい」


 当然のように言うな。

 私は天井を見上げ、息を吐いた。

 魔王軍の健康診断は、拷問ではない。

 当然虐待でもない。

 だが確実に、人間の常識を削り取っていく。

 そのことだけは、はっきりと分かった。

 この物語の為に中世の医療を軽く勉強したんですが、中世の医療でやばいっすね。

 瀉血とか焼灼止血は有名で知っていたんですけど...結構やばいので気になる方は調べてくださいませ。


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