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第8章 砕ける軍、崩れる存在

(……ここは……!?)


目を覚ました瞬間、光秀の体は轟音に包まれた。


鼓膜を破りかねない火縄銃の連射。

地を震わせる騎馬隊の突撃。

矢が風を裂き、真上を黒い影が何本も通り過ぎる。


「陣形を保てぇぇ!! 退くな!!」


怒号。悲鳴。金属音。

すべてが入り乱れ、光秀の皮膚が本能的に総立つ。


(前のループより……戦が荒い。

 いや、“破綻”してる……!)


理由はすぐに分かった。


――輿に縛りつけられた、血まみれの男。


本物の明智光秀。


深い傷に顔色は蒼白、指先さえ震えている。


明智の代わりに指揮を執る者がいない。

そのせいで軍は 頭を失った蛇 のように乱れ始めていた。


(明智様が動けない……

 だから……歴史が崩壊しかけてる……!)



「敵騎馬隊、右から来るぞ!!」


地面が揺れた。

馬の蹄が連続で叩きつけられ、土が跳ね上がる。


奴らは一直線に味方の薄いところへ突っ込んでくる。


(まずい! あそこが破られたら全軍が包囲される!!)


光秀は木刀――いや、今回は重い真剣を握りしめ、

前に飛び出した。


「お、おいあいつ一人で出たぞ!!」


「バカか!? 騎馬に勝てるわけねぇ――」


だが光秀は迷わなかった。


馬の速度、蹄の間隔、騎手の重心――

すべてが“見える”。


(先頭の馬は足運びが乱れてる。

 次の馬は手綱を強く引きすぎている……)


光秀は地を蹴った。


風が顔を裂き、真横を矢がかすめる。


騎馬隊の先頭が迫る。


「どけぇぇええ!!」


光秀は一歩、踏み込んだ。


振り下ろすタイミング――完璧。


ガギィィィン!!


刀が馬の佩楯に当たり火花が散る。

だが光秀の狙いは“騎手の足”。


「ぐあっ!!」


騎手が落馬し、土埃が爆ぜた。


二頭目――

光秀は地を転がりながら懐に潜り込み、

馬の前脚を払う。


「ぐおおっ!?」


馬が崩れ落ち、後続が混乱して弾け飛ぶ。


周囲の足軽が呆然と漏らす。


「な、なんだあの足軽……」

「動きが……人間じゃねぇ……!」


だが光秀の耳には入らない。

むしろ体は警鐘を鳴らしていた。


(軍全体が死んでいる……この戦は……勝てない……)


どれほど自分一人が暴れても、

“戦の意志”は戻らない。


そのとき――。


「本能寺へ向かえ!!」


伝令が叫んだ。


光秀の心臓が跳ねる。



血と汗と土をまといながら、

光秀は京へ走り込んだ。


(頼む……信長様……生きててくれ……)


だが――

本能寺は、燃えていなかった。


(……炎が……ない。)


いつもなら京を赤く照らす地獄の火。

だが今回は、ただの暗闇。


そして。


信長がいた。


刀を握り、肩で息をしながらも、

はっきりと立っていた。


「……光秀。

 また……そなたか。」


「信長様!!」


光秀の声が震えた。


(生きてる……!

 今回……信長様は自分で敵を押し返したんだ……!)


信長は血のついた袖で顔をぬぐいながら言った。


「奇妙よ……本来、わしはここで死ぬはずだった。

 だが、敵の動きが妙でな……

 まるで“指揮がなかった”かのような攻めであった。」


明智軍は指揮官不在で混乱。

その結果、信長は死ななかった。


歴史が狂っている証拠だった。


「そなたの仕業か?」


信長は穏やかに、しかし真剣な眼で問う。


光秀は震えながら答えた。


「……俺は……あなたを死なせたくないだけです……」


信長が口の端をわずかに上げた。


「ならば――共に生きよう。」


その瞬間。


世界が悲鳴を上げた。


胸が締め付けられ、体が崩れ落ちる。


(だめ……これは……!

 歴史改変が大きすぎて……

 俺という存在が……押し潰される……!!)


信長が手を伸ばす。


「光秀っ!!」


だが光秀の視界は白く染まり、

音も光も、すべて消えていった。



(……ここ……俺の家……)


リビングのソファ。

母の作る夕食の匂い。

テレビの音。


だが、母は光秀を見ても微笑まない。


「……どちら様ですか?」


光秀の喉がひゅっと縮む。


「母さん……?

 俺だよ……光秀だよ……」


母は本当に心底困惑した顔で言う。


「光秀……?

 そんな子、うちにはいませんよ。」


父が入ってきた。


「家を間違えているのでは?  息子など、私たちにはいません。」


心臓が、

凍りついたみたいに痛くなる。


(うそ……だろ……

 とうとう……家族にまで……?)


光秀の足から力が抜け、

ソファに崩れ落ちた。


涙が勝手に零れる。


(信長様を助けた反動で……

 “俺”という存在が……

 この世界から消えようとしてる……)


息が苦しい。

指先が痺れる。

家の景色が遠ざかる。


光秀はふらつきながら顔を上げた。

壁のカレンダーが視界に入る。


予定表の上に黒い何かが滲み、数字が浮かんだ。


《本能寺の変まで、あと2日》


まばたきした瞬間、文字は消え、

いつもの「家族旅行」の予定に戻っていた。


家族は誰も気づいていない。

この世界で、その異常を見ているのは光秀だけだった。


(次で……決めないと……

 本当に……俺がいなくなる……)


光秀は拳を震わせながら握る。


(次のループで――

 俺は、何を選ぶ……!?)


──そして、世界が再び揺れ始めた。





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