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「エレベーターの怪異 ― 四人の夏休み」

夏休みの午後、蝉の声がアスファルトを揺らしていた。

公園のベンチで、織田時斗がスマホを見せながら一言。

「なあ、知ってるか。

 このマンションで去年、人が“消えた”って噂。」

画面には古いマンション。

曇った空の下に沈むように立っている。

安田光秀、市原姫花、明智類が顔を寄せる。

類「消えた? 行方不明じゃなくて?」

時斗「消えた。カメラの前から。」

姫花「どうやって?」

時斗「エレベーター。乗って。

 上がって。降りてきたら、いなかった。」

類は肩を強張らせた。

「都市伝説…異界に繋がる扉ってやつ?」

時斗「ああ。階を“ある順番”で押すと、開くって噂。」

光秀「そんなの本気にして…」

時斗は笑った。

「行こうぜ。」

その笑顔は、妙に無邪気で恐ろしく見えた。




夜。湿った風が黴の匂いを運ぶ。

団地の前に立つと、四人とも言葉を失った。

照明は半分死に、闇がコンクリートの上に層を作っている。

姫花「ほんとに行くの…?」

時斗「四人なら怖くないさ」

類「四人でも十分怖いよ…光秀、帰ろ?」

光秀「……確認して帰ろ。すぐ。」

自動ドアが軋む音で開く。

内部は無人、冷たく湿った空気。

ただ一つ、古いエレベーターが口を開けていた。




時斗がボタンパネルを指差す。

「手順、言うぞ。

 4階 → 2階 → 6階 → 2階 → 10階 → 1階」

類「10階なんてないだろ、この団地」

時斗「ない階を指定するのが“鍵”らしい」

姫花「ほんと嫌…そういう話…」

光秀「押したって何も起きないよ」

扉が閉まる。

四人は狭い箱の中で呼吸を合わせた。

時斗が階を順になぞる。

古いモーターが悲鳴のような音を上げる。


4階


扉は開かない。

廊下は闇に溶けている。


2階


誰の気配もない。

しかし暗い廊下の奥、何かが影を揺らした気がする。


6階


天井の照明が一瞬だけ点滅する。

音はない。


2階


今度は扉が5cmだけ開いた。

その奥に――

“何か”が立っていた気がした。


10階


この団地には存在しない階。

しかし、エレベーターは止まった。

扉が開く。

廊下一本。

照明が一つだけ点灯し、何もない。

光秀「な、見ろよ。何も――」

その時、風が吹いた。

外から、扉を吸い込むような風。

誰かが通り抜けたような、冷たい流れ。

姫花「今…誰かが引いた…扉…」

類「なんで閉まらない…?」

扉が閉まらず、

エレベーターが勝手に降下を始めた。




速度は速いのに、音がない。

ただ視界が暗いトンネルを落ちていく。

光秀は時斗の肩を掴む。

姫花はすすり泣き、類は叫んだ。

その瞬間。

蛍光灯がバチッと明滅し、

四人の視界は一つの像に凍りついた。

――首だ。

髪の長い男の首だけが宙に浮いている。

至近距離で、四人を覗き込むように。

まるで“箱の中に一緒にいる”。

眼が笑っている。

口角がひどくゆっくりと上がる。

姫花が絶叫し、類が声を失い、

光秀は息を飲んで動けない。

首が、さらに近づいた。

四人は同時に気絶した。




姫花が目を開くと、外でサイレンが鳴っていた。

類が震えながら叫ぶ。

「光秀がいない!!!」

ロビーにも、階段にも、敷地にも――

光秀はいない。

警察が来て事情を聞くが、

三人は混乱し、言葉にならない。

時斗は呟き続ける。

「光秀…どこへ行ったんだよ…」



翌朝。教室の扉が開く。

安田光秀が、何事もなかったように登校した。

寝癖をつけてあくびをしている。

姫花「ひ、光秀!?  どこにいたの!?」

類「どうして!? 昨日消えたじゃん!」

光秀は本気で混乱している。

「昨日?

 …俺、普通に家で寝てたよ?

 エレベーターなんて乗ってないけど」

姫花と類は絶句する。

時斗「……じゃあ、昨日の光秀は誰だった?」

光秀だけ――

エレベーターに乗った記憶が一切ない。

前後の記憶が抜け落ちている。

三人は肌で理解する。

あの夜、本当に“何か”があったと。

そして、光秀は“そこにいなかった”のではなく――

どこか別の場所にいた。

その場所は、誰にも分からない。


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