未来に残った四つの影
春の風が吹き抜ける校舎前。
光秀が登校すると、
昇降口の前で織田時斗が背伸びをしていた。
「よう、光秀。今日も早いな。」
時斗はまるで昔からの友達のように声をかけてくる。
しかし光秀は、その自然さに胸が痛くなる。
(……殿の面影がある。
でもそれは、俺だけが知る真実なんだ。)
時斗はふと光秀の目を見て言った。
「なんかさ……君を見ると不思議と安心するんだよな。
初対面のはずなんだけど。」
光秀は笑った。
「そうかもな。俺もだよ。」
(殿……あの日、生き延びてくれてありがとう。
あなたの未来は……ちゃんとここにある。)
時斗の存在は、
光秀にとって“救い”であり、同時に“罪の証”でもあった。
昼休みの中庭。
誰もいないベンチで光秀が弁当を広げていると――
「あ、光秀くん。ここ、座ってもいい?」
姫花がふわりと微笑んで座った。
彼女の仕草のどこかに、
戦国の“お市の方”の面影があった。
もちろん姫花本人は知らない。
光秀だけが知っている秘密。
姫花は風に揺れる髪を押さえながら言った。
「光秀くんって、なんか不思議だよね。
初めて話した気がしないっていうか……
昔から知ってたみたいな……」
光秀は目を伏せる。
(俺は……あなたの“ご先祖様”を見たんだよ。
戦国で、短い一瞬だけど……
優しくて、強くて……
あなたを思わせる女性だった。)
「……そうかな」と光秀は答えた。
姫花は続ける。
「でもね、それってちょっと嬉しいよ。
なんか……運命っぽいし。」
光秀は胸が熱くなるのを感じた。
(運命か……
そうかもしれない。
俺は歴史の中で、お市の優しさに救われた。
そして今、姫花として未来に残ってる。)
この瞬間、
光秀は少しだけ、重かった心が軽くなるのを感じた。
帰り道、校門の影に立つ少年が一人。
明智類。
彼はクールな眼差しで光秀を見つめた。
「……安田。」
「類か。どうした?」
類は少しだけ考え、そして言った。
「なあ、お前……
“光秀”って名前、好きか?」
光秀は息を呑んだ。
(……気づいてるのか?
いや、そんなはずはない。)
類は続ける。
「俺の家、明智の子孫らしいんだ。
それでさ……
お前の名前見ると、不思議と胸がざわつく。
別に理由はないんだけど、な。」
光秀は静かに笑った。
「……いい名前だよ。“光秀”って。」
類は肩をすくめた。
「だろ?
でも俺が思ってたより……重い名前かもしれない。」
光秀はまっすぐ類の目を見る。
「その重さをどう使うかは……
これからのお前次第だよ。」
類は一瞬だけ目を見開いた。
「……お前さ、何者なんだ?」
光秀は答えない。
ただ微笑む。
その沈黙が、すべての説明になっていた。
放課後の帰り道。
偶然、四人が同じ方向に歩く。
・安田光秀
・織田時斗
・市原姫花
・明智類
この4人が並んで歩く姿は、まるで運命そのもの。
時斗が笑いながら言う。
「このメンバーで帰るの、なんか新鮮だな!」
姫花「うん。でもすぐ慣れちゃいそう。」
類「俺は別に……どっちでも……」
光秀(……殿の未来。お市の未来。明智の未来。
すべてがここに……歩いている。)
胸が熱くなり、光秀はそっと空を見上げた。
夕焼けの色が戦国の炎を思い出させる。
(俺はこの3人の未来を……守ったんだ。
信長様を斬った痛みと引き換えに。
でも、後悔はない。)
時斗「なあ光秀、明日ヒマ?
なんか一緒に遊びに行こうぜ。」
姫花「いいね、それ。」
類「……まあ、別に付き合ってもいい。」
光秀は微笑んだ。
「うん。行こうか。」
その返事は、
ようやく未来を生きる覚悟を持てた者の声だった。




