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第一章 祓いの騎士 第一幕

はらへ給ひ きよめ給へ

かむ御名みなちて

しづめ給へ

乾ききった大地を越えると、

そこには石造りの小さな町が広がっていた。

高き城壁は苔むし、門は軋みを上げて開く。

町人たちの顔には疲れが濃く刻まれ、

夜ごと魔の影が現れるという噂が漂っていた。


旅人――あの狂える祈祷師は、

門をくぐった途端に幾つもの視線を浴びた。

その衣は質素にして、剣も帯びず、

ただ一巻きの白布を胸に抱いているだけである。


「おい、あれを見ろ」

「剣も持たぬ……祈祷師気取りか?」

「いや、町を荒らす怪異を追ってきたのかもしれんぞ」


人々の囁きは笑い半分、畏れ半分。

だがすぐに、町役の男が彼を呼び止めた。


「祈祷師よ。もしや異界の方か」


旅人はただ首を垂れた。


「ならば、町を救ってはくれぬか。

この数夜、影の獣が出没し、人々を怯えさせておる。

剣士どもは討ち果たせぬ。だが祈りの徒なら、

或いは……」


町人たちは一斉に笑った。


「ははは、祈りで怪異を退けると申すか!」

「剣も矢も効かぬのだぞ。そんな風に空を仰ぐだけの者に何ができる」


それでも、男の眼差しは揺るがなかった。

彼は門前に膝をつき、掌を大地に置いた。


そして、誰にも聞こえぬほどの声で祓詞を唱える。


**かむながら 清き正しき 大御心おほみこころ**


瞬間、町の空気がわずかに震えた。

冷たい風が吹き抜け、

鳥が一斉に羽ばたいて城壁を越えて飛び立つ。


「な、なんだ……」

人々は言葉を失い、沈黙した。


その時――闇の中から獣の咆哮が轟いた。

町を覆う怨嗟の影が姿を現したのである。


祈祷師は立ち上がり、振り返らずに言った。


「――我が身は剣にあらず。

 ただ、祓ひの声なり」


こうして、人々が初めて「祓いの騎士」と呼ぶ契機となった戦いが始まろうとしていた。


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