第9話 ステータスはカンストが正義
「こちらが入力画面ですか」
「はい、設定がいっぱいあって、どれがいいのか分からなくてぇ」
新入社員にありがちだが、端末操作ってだけで嫌悪感を抱く奴がいる。
だが、実際はそんなに難しくない。
日常的に繰り返す業務であるからこそ、自然と簡略化されるからだ。
「大丈夫ですよ。こういった入力作業は慣れれば簡単なんです。すぐに覚えられますよ」
「えー!?ミカちゃんやウリ坊は、私には絶対無理って言ってたんですよ!?」
急に新しいアホの子を追加すんな。
誰だよ、ミカちゃんに、ウリ……、まさか、ミカエルとウリエルじゃねぇだろうな!?
「その方はご友人ですか?上司ではなく?」
「んー、一応、熾天使ですからねー。上司になるんでしょうか?」
ナタスなんつぅ、菜っ葉とレタスの掛合わせみたいな下っ端が、話しかけていい奴じゃなさすぎる!!
お前は無敵属性のアホの子か!?
ミカエルとウリエルって言えば、サタンと敵対してるゴリゴリの武闘派だぞ!!
「ははは、上司を疎ましく思ってしまうのは、私も一緒ですね」
「融通が利かないんですよねー。規則規則ってうるさくてー」
「ですから、結果を出して分からせてあげるんです。ナタスさん、一緒に見返してやりましょうね」
「はい!頑張ります!!」
熾天使とは、天使階級の最高位。
最高神の側近であり、会社で例えるならば専務にあたる。
ようするに、社長の補佐する人達であり、とーっても偉い。
で、そんな雲の上の存在をあだ名で呼ぶな。
ミカちゃんはまだ理解できるとしても、専務をイノシシ扱いする新卒社員とか……、そりゃ、端末凍結されても不思議じゃない。
「では、一緒に端末を操作していきましょう。まずは画面をご覧ください」
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転生者名:『草道 語』
転生先名:『イナノミィケーオス』
ステータスポイント 『100』
累計補正ポイント 『37564』
LV 33
体力 451 +補正値『 ― 』%
魂力 9999 +補正値『 ― 』%
筋力 303 +補正値『 ― 』%
耐久力 350 +補正値『 ― 』%
回復力 241 +補正値『 ― 』%
『決定』
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ほぅ、端末操作と聞いて期待していたが、思っていたよりも悪用できそう。
イナノミィケーオスでは、体力は『HP』、魂力は『MP』。
筋力は攻撃力、耐久力は防御力、回復力はそのまま、傷や体力の回復速度を指している。
左側に表示されているのは、イナノミィケーオス時代の俺のステータスと同じ。
死ぬ直前の身体に戻れるのは、これで確定した訳だ。
「ステータスにポイントが振れるんですね。どのくらい強化されるんでしょうか?」
「上に100って書いてあるじゃないですか、これって100%って事らしいです」
べーたんノートを凝視している駄女神によると、転生後のステータスに%補正が加算される。
仮に、体力と筋力に50%ずつ補正を付けた場合、それぞれが150%になる訳だ。
「なるほど……、転生者は、イナノミィケーオスの人よりも、ステータス合計値が2倍になるんですね」
イナノミィケーオスでは、自身のパラメーターはいつでも確認できる。
ただし、他人のパラメーターを見るには、そういったスキルか魔法を持つ必要がある。
実は、冒険者時代、運よくSSS冒険者と交流を持つことができた。
ただでさえ珍しいSSSランクが四人も纏まっていると目立つらしく、向こうから会いに来てくれたのだ。
『オダ・アオイ』
それが彼女の名前なんだが、今考えるとどう考えても、日本人だ。
彼女が持つスキルは、『幻想人形師』。
……ぶっちゃけて言おう、彼女が使役していた幻想人形獣は、黄色い電気ネズミと黒い二足歩行ネズミ。
あと、青いネコ型タヌキもいた。
ちなみに、スキルレベルは4であり、最強のSSSランクとか呼ばれている。
「伸ばしたいステータスにポイントを振ることで、同じレベルの冒険者よりも優れた能力を発揮できる。素晴らしい特典ですね」
「あ、筋力は高めがいいですよ!パワーこそ力ですから!!」
そうだな。
力は英語でパワーだ。馬鹿め。
だが、脳筋になるのは悪い選択肢ではない。
筋力は攻撃力、肉体の性能値を表したものだ。
攻撃だけでなく、移動速度にも影響を与えるから、高ければ高いほど良い。
それに、華奢な女の子だったオダがマッスル系冒険者を腕相撲でボコっていたように、補正値は理屈を超えた能力を発揮させる。
彼女のポイント配分は不明だが、ほぼ、筋力に振っていたんじゃないだろうか?
「ナタスさん、この累計補正ポイントとはなんでしょう?」
「ん-、これは今まで貯めたポイント残高ですね」
「残高?」
「はい、転生するのには魂が必要なんですけど、その余りがここに溜まるんです」
「面白い仕組みですね。どうやって貯めるんですか?」
「内緒なんですけど、魂って120ポイント分貰っているんです。でも、支払うのは100ポイント分ですから。えへ!内緒ですよ」
ここで、利ザヤを発生させてんのか。
金利20%、出資法の上限値に設定されているとか、ぼったくる意思が半端じゃない。
にしても、一人当たり20ポイントだとして、37564ポイントもあるんなら、1800人以上も転生させてるよな?
「随分とポイントが貯まっているようですが、こちらは?」
「そこがよく分からないんです!初めて操作するのに!!」
うわぁ、すでに涙目だ。
お前は何しに学校へ行ってたんだ?
絶対、授業で習ったはずだぞ。
「落ち着いてください、用途は分かりますか?」
「それなら……、基本は100ポイントなんですけど、この人にはサービスしたいなって時あるじゃないですか。その時に使うんです」
「なるほど、累計補正ポイントを使って不足を補えるんですね」
120ポイントまでなら、ノーリスクだしな。
恐らく、三つのパラメーターへ均等に振りたい時に、『33あまり1』ではなく、『34』にするための措置だ。
合計値が102になりちょっとお得……、これを女神側から提案することで転生者を納得させ、利ザヤの仕組みに気づきにくくしている。
「ナタスさん、こちらの左側の数字はなんでしょう?」
「草道さんのパラメーターですね」
「ほぅ、こんな感じですか」
「そのはずなんですけど、んんー?」
「なにか気になることでも?」
「魂力9999って、高くないですか??」
気になるよなぁ。
だが、理由を聞かれても俺は答えられない。
後でべーたんに聞いてくれ。
ノートに書いてあったから、確実に知ってるぞ。
「さぁ?どうしてでしょう。いや、これは……」
「何か分かったんですか!?」
「試しに、ポイント入力欄に100と入力してみてください」
アホの子をコントロールする術、その②
とりあえずやらせて、余計なことを考えさせない。
「こ、こうですか……?」
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転生者名:『草道 語』
転生先名:『イナノミィケーオス』
ステータスポイント 『 0 』
累計補正ポイント 『37564』
LV 33
体力 451 +補正値『 ― 』%
魂力 9999 +補正値『100』%
筋力 300 +補正値『 ― 』%
耐久力 350 +補正値『 ― 』%
回復力 200 +補正値『 ― 』%
『決定』
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「数字に変化がありませんね?」
「はい、えっと……?」
「この9999は、最大値を表しているんでしょう。では、数字をゼロに戻して、次は体力に99999と入力してください。9が5個ですよ」
「体力、えーと、はい!」
**********
転生者名:『草道 語』
転生先名:『イナノミィケーオス』
ステータスポイント 『 0 』
累計補正ポイント 『27665』
LV 33
体力 9999 +補正値『9999』%
魂力 9999 +補正値『 ― 』%
筋力 300 +補正値『 ― 』%
耐久力 350 +補正値『 ― 』%
回復力 200 +補正値『 ― 』%
『決定』
←前ページ 次ページ→
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「あれ、あれ?9999までしか入力できないです」
「と、このように、10000ポイント以上は選択できません」
「へー!」
「では次に、筋力、耐久力、回復力にも9999を振ってみましょう」
「えーとえーと、9999、9999、9999……あ”っ!?」
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転生者名:『草道 語』
転生先名:『イナノミィケーオス』
ステータスポイント 『 0 』
累計補正ポイント 『ー2332』 ERROR!!
LV 33
体力 9999 +補正値『9999』%
魂力 9999 +補正値『 ― 』%
筋力 9999 +補正値『9999』%
耐久力 9999 +補正値『9999』%
回復力 200 +補正値『!!!!』% Failed to create file ‼ point cannot be empty.
『決定』
←前ページ 次ページ→
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「うわわわわ!?!?なんか変なのでた!!なんか変なのでた!!」
「ポイントが足りないという事でしょう。では、回復力のポイントを7666にしてみましょう」
「はい!!」
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転生者名:『草道 語』
転生先名:『イナノミィケーオス』
ステータスポイント 『 0 』
累計補正ポイント 『 1 』
LV 33
体力 9999 + 『9999』%
魂力 9999 + 『 ― 』%
筋力 9999 + 『9999』%
耐久力 9999 + 『9999』%
回復力 9999 + 『7666』%
『決定』
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「できました!!あ、変なのも消えましたよ!!」
「このように、累計補正ポイント以上に割り振ることはできません。では、エラー表示が出ていないかを確認し、『決定』ボタンを押してみましょう」
「決定ボタン、決定ボタン……、えい!あ、画面が切り替わりました!!」
「これでステータスポイントの割り振りは完了です。大変よくできました」
「はい!!教えていただいて、ありがとうございます!!」
いえいえ。
こちらこそ、全ステータス最大値ありがとう。
ミカちゃんとウリ坊に後でよろしく言っておいてくれ。