第8話 異世界転生操作端末 ~裏にIDを添えて~
「モンスターも所持スキルを進化させている。そして、強力なスキルを持つ個体は名称が変わる、と」
「はい。長く生きれば大きくなりますが、形状の変化はスキルによるものって、書いてあります!」
……マジかよ。
だとすると、わざとスキルをOFFにして、弱い個体に擬態してる奴がいるだろ?
高ランクの冒険者が死ぬはずのない雑魚ダンジョンで行方不明になるのは、それが原因か。
「モンスターも狡猾なようですね。なにせ、人間に化けてシュークリームを作るぐらいですから」
「え?わいばーんのたまごって、シュークリームなんですか?」
「卵というくらいですから、ゴツゴツした丸い形のお菓子かもという想像です。実は私の好物でして」
「おいしいですよねー!!」
食ったことあんのかよ。シュークリーム。
だが、失言をうやむやにできたから触れないでおこう。
「さて、モンスターの危険性も分かりましたし、早速、スキルの選択を行いましょう。その端末で操作するんでしたよね?」
「はい!あ、でも、ちょっと不慣れで……」
「大丈夫ですよ、私は機械操作は得意ですから」
スキルを自分で選んで取得する、か。
今ほど、お前がアホの子であったことに感謝した瞬間はない。
ありがとう駄女神様。アホの子でいてくれて。
さてと、ここからが正念場だ。
机の上にある端末を見やすいように二人の間に置きつつ、右上の電源ボタンらしきものに指を置く。
「こちらが電源ですか?」
「はい。ぐっと押すとー、ほら、点きました!」
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異世界転生へようこそ!
転生者名:『ご記入ください』
転移先名:『イナノミィケーオス』
『 IDを登録 』
※すでにIDをお持ちの方は、『こちら』
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……なんか、すごく既視感のある画面が出てきた。
端末の形状もタブレットそっくりだし、ホントどうなってやがるんだ?天界。
「なるほど、これなら難しくなさそうですね」
「そんなことないですよ!?この後、いーっぱい設定とかあるんですから!」
「ところで、『すでにIDをお持ちの方は、こちら』とありますが、私にIDは発行されていないのでしょうか?」
俺の直感が言っている。
絶対に発行されていると。
……ただし、コイツは教本を紛失するレベルの馬鹿だ。
今ほど、お前がアホの子であったことを恨んだ瞬間はない。
このやろう駄女神様。今すぐベーたんと交代しろ。
「あ、そうでした!!発行されてます!!」
「あんのか……あるんですね?それでIDはどこでしょうか。もしかして、机の中でしょうか?」
覚えていたことに安堵しすぎて素が出そうになったが、油断するのはまだ早い。
忘れた、書いた紙を無くした、内容を間違って書いた、などの可能性が大いにある。
ログインできるかどうか。
こんなのが最大の山場になるとは、想定外にもほどがある。
「くすくす、そんな所にないですよー。ゴミしか入ってないですもん」
「そうですか。ではどちらに?」
ゴミしか入っていないだと?
お前、机の中からべーたんノートを取り出しやがったよな。
つーか、人から借りたノートをゴミの中に入れんなよ。
そんなんだから教本を紛失するんだ。
お前が代わりに入っとけ。
「絶対に忘れるし、紙に書いて渡しても紛失するから意味ないって、べーたんに言われてー」
「理解力のある素晴らしい友人ですね。では、べーたんノートに書いてあるのでしょうか?」
「いえ、ノートもなくす可能性があるとか言って、端末の裏に書いて貰いました」
端末の裏?
紙でも貼ってあるの……、直書きかよ。
悪い方に見直したぞ、べーたん。
「しかも16桁の英数字ですか」
「こういう入力って難しくないですか?私、いつも失敗しちゃうんです」
ソシャゲの課金カードみたいなノリで言うな。
人生を狂わせるって意味では、似たようなもんだが。
「この程度、造作もありません。できましたよ」
「えっ、すごいですね!!べーたん並みに速いです!!」
廃課金者なのか?べーたん。
いや、もしかしてコイツら、俺たちの人生をソシャゲに見立てて遊んでる?
お前ら本当に女神か?
悪魔の方がしっくりくるんだが?
「あ、ログインできました。良かったぁーー!」
「……IDに不安があったのですか?」
「それは大丈夫なんですけどー、端末自体が凍結されてるかもって」
端末凍結って、何をしたらそうなるんだよ。
現代日本でもやらかす奴は結構いたが、停止するのは自分のアカウントだぞ。
他人の人生を操作する端末でやらかすのとは意味が違う、意味がッ!!
「ははは、では、これからそうならない様に、徹底的に対策していきましょう」
「はい!よろしくお願いします!!」
当然だ。
これから犠牲者が出るのが分かってるのに放置するのは、良心が痛む。
だからな、確実に端末が凍結されるように、徹底的にやってやる!!