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第6話 駄女神の癖に、スキルと魔法に詳しいようです

 

「それでは、より具体的なお話に進んで参りましょう」

「はい!よろしくお願いします!!」



 本来ならば、俺がよろしくお願いしますと言う場面だが、コイツが教本を紛失するレベルの馬鹿で助かった。

 ナイスプレーだ。褒めてやるぞ。


 実際、これから俺が行うのは現代日本で学んだブラック営業であり、ぶっちゃけ詐欺だ。

 だから、正しい手順が記載されている教本は邪魔すぎる。

 いくら馬鹿とて文字くらいは読めるはずだしな。



「ナタスさん、イナノミィケーオスでは『スキル』を使用しながら生活し、『ステータス』と呼ばれる能力値を把握できる。それと、日本では空想とされているモンスターがいる。これ以外に特出する事はありますか?」

「んー。あ!魔法もありますよ!!」



 気を付けなければならないのは、コイツが発言していない内容を言ってはいけない事だ。

 教本を紛失しやがった馬鹿でも、イナノミィケーオスの内情を俺が知っていたら首を傾げるだろう。


 しかも、こういうアホの子属性は、会社の休憩室で秘匿するべき契約内容を撒き散らす。

 コイツと似た雰囲気の後輩に詐欺まがいの商談方法を伝授した時なんか、最終的に本部長に呼び出され、丸め込むのに2時間も掛かった。



「魔法もあるのですね。どのようなものでしょうか?」

「えー、色々ですよー」



 出やがったな。

 未熟な社員特有の相槌。『色々です』


 これも商談の時に使ってはいけない禁忌ワードだ。

 商談相手はな、その『色々』を知りたいんだよ。



「色々ですか。例えば火の魔法、風の魔法、雷の魔法。あとは……時間魔法とかもあるのですか?」



 思い通りに商談相手を誘導するテクニック。

 その①、『選択肢を用意する』。

 一から答えを考えられない駄女神には、選択肢の中から選ばせる。


 なお、イナノミィケーオスには時間魔法などという怪しげなものは存在しない。

 選択肢に嘘を混ぜておくと、相手がどれだけ知識を持っているのかが分かるのだ。



「んー。全部ありますよぉ」

「時間まで操れるんですか?」



 ねぇだろ。時間魔法なんて。

 嘘こいてんじゃねぇぞ。



「はい。時間魔法はスキルレベルをかなり上げないと使用不可能ですけど、存在はしてますよ」

「……スキルレベルですか?」



 確かに、スキルレベルが上がると、より高度で複雑な魔法を使用できるようになる。

 だが、スキルと魔法の関係性は解明されていないはずだ。


 もしかして、俺の知らないルールを知っている?

 教本を紛失するほどの駄女神が?



「スキルと魔法。一度、その説明を伺った方が良さそうですね。お願いできますか?」

「はい。そこら辺はバッチリ対策してますので完璧です!」


「それは素晴らしい。どのように完璧なんですか?」

「しっかりマニュアルを用意しています!」



 ……紛失してねぇだろうな?

 失くしてたら本気で殴るぞ。



「じゃっじゃーん!これがイナノミィケーオスのマニュアルです!!」

「あ、ちゃんとあるんですね」


「何か言いました?」

「いえ?何も」



 机の中に仕込んでおくとは、駄女神にしては上等だな。

 商談に赴く際には、是非、机ごと持って行って欲しい。



「おや?大学ノートにまとめてあるんですね。私も新卒の頃にやりましたよ」

「ねー。ホントまめですよね、べーたん」



 マニュアルと言っときながら大学ノートに手書きなのもどうかと思うが、もっと問題があったな。

 それ、べーたんが書いたのかよ。

 で、何でそれをお前が持ってる?



「それはご友人の?」

「はい!べーたんは馬鹿真面目なので、こういった細かいの得意なんですよ!!」



 少なくとも、べーたんは大学ノートにオリジナル資料を作っている分だけ、お前よりも高等生物だぞ。

 内心でディスっていても、口に出さない方が良いと思う。



「では、拝見させていただきますね……。タイトルは、『イナノミィケーオスにおける基礎知識』」

「はい!これはべーたんを引きずり込んだ時に書いてた奴です!『下調べもせずに転生を行うとか愚か過ぎる』って言ってました!」



 ちょっとべーたんの事を見直して来たぞ。

 大学ノートに書かれている文字は綺麗だし、解説も丁寧。

 新しい業務に取り組むにあたって勉強をしようという姿勢も評価できるし、発言からしても慎重な性格なのは明らかだ。


 なのに、なんでアホの子なんかに騙されてしまったんだ。

 大事な所で駄女神か。



「なるほど、『魔法とスキル、それらを行使する為のエネルギーは同一のものである』っと」

「魔法とスキルの違いって、オンリーワンかそうじゃないかの違いしかないんです!」



 頑張って難しい言葉を使おうとするな。

 意味が取引相手に伝わらず、「へぇー。そうなんですか」って話を流されるぞ。


 コイツの言葉を改訳すると、魔法とは、『規格が決められ、大量に流通している既製品』の事であり、スキルとは『条件や性能を指定して作られた特注品』になる。

 そして、『魂エネルギー』は同じものを使うそうだ。


 べーたんの大学ノートにも書かれているが、この魂エネルギーの量には個人差がある。

 スキルが最高値(SSS)の人物が勇者認定されるのは、スキルの有用性の他に、魔法を連発出来る大量の魂エネルギーを持っているからだ。



「つまり、スキルはその人しか持っていない特殊性があるだけで、仕組みや原理は魔法と同じものだと?」

「その解釈であってると思います。まぁ、有用なスキルを真似して魔法が出来るんですけどね」



 なるほど、それも特注品と既製品の関係と同じなのか。

 優れた特注品は欲しがる人が多く、やがて既製品として売られる事になる。


 だから、炎スキルや水スキルは魔法として流通しており、時間スキルなどのニッチなものは流通しないと。

 だが、スキルレベルを上げないと時魔法を使えないってのはどういう事だ?

 難しい説明になるだろうし、べーたんノートに書いてあると良いんだが……。


 お、あるじゃん。

 流石だぜ、べーたん。



「スキルレベルとは『真理』との結びつきを示す。真理とは世界を構成する概念であり、レベルが高くなる程、より規模の大きい影響を及ぼせる……ですか」

「ねー、ホント良く分からない文章ですよねー。堅いって言うかー」



 お前が柔らかすぎるんだよ。頭の中に豆腐でも詰まってんじゃないのか?

 とりあえず駄女神を放置してノートを読み、その仕組みを理解した。


 スキルレベルとは、魔法を司る真理からの信頼度。

 炎の魔法を唱えた時に、


 スキルレベル1真理さん

「お前は信用ないから、ファイライしか貸さないわー」


 スキルレベル5真理さん

「炎が欲しいん?いいよいいよ、メギラ・ギオ・ファイラ持ってってー」


 こんな感じだろう。たぶん。



「つまり、スキルレベルを上げれば、強力な魔法を使用できると?」

「ですね!ということで、やっぱり経験値の高いケルベロスはどうですか!?」


「ははは、その件はいったん保留にして置きましょう」



 ケルベロスを押し売りすんな。

 空を飛びたいと言ってる奴を崖から突き落とすようなもんだぞ。


 それに、俺自身のレベルを上げても、スキルレベルは上がらねぇんだよ。

 異世界に行くよりもパワーレベリングをした方が楽だというアルフィリアの暴論に真面目に取り組んで、結果、全くスキルレベルが上がらずに微妙な空気になった。



「まとめますと、魔法は汎用的に使用される真理、スキルは個人のみが使用できる真理。多くの人間が使ったスキルは、やがて魔法として真理に登録され、他者でも扱えるようになる」

「あ、その説明、分かりやすいです!」


「そして、スキルレベルが上がると、扱える魔法が増える。これは、自身のスキルレベルが上がると真理との結びつきが強くなるから、となりますね」



 スキルは何らかの条件を満たすと、魔法として真理に登録される。


【スキル:炎弾】レベル1 → 魔法『ファイライ』

【スキル:炎弾】レベル2 → 魔法『ファルガ』

【スキル:炎弾】レベル3 → 魔法『ファイラディア』

【スキル:炎弾】レベル4 → 魔法『ギルダ・ファルガ』

【スキル:炎弾】レベル5 → 魔法『メギラ・ギオ・ファイラ』


 もし仮に、俺が水系スキルのレベル3だった場合、適性があれば《ファイラディア》までの魔法を扱える。

 つまり、攻撃系スキルじゃない俺でも、同じレベルの攻撃魔法が手に入るのか。



「仕組みは理解できました。ただ、ナタスさんが仰ったとおり、強力な時魔法を手に入れるのは大変そうですね」



 時魔法が無いのではない。

 レベル1魔法・時間計測ストップウォッチ……、便利グッズのような魔法は存在している。


 おそらく、時間を止める時スキルは、かなりレベルを上げないと覚醒しない。

 当然、それに対応するスキルレベルを持たなければ、使用可能にならない訳だ。



「スキルのレベルアップはどうやって行うのでしょうか?」

「えーと、それはですねー、えー、どのページ?確かー、」



 スキルのレベルに比例して、覚醒条件も難しくなっていく。

 最初は『掌の上で紙を燃やす』だけでよかった炎弾のスキルも、


『手から炎を出し続けて、木を一本丸ごと燃やせ』 

『1m四方の瓶の水を、自分の炎を使って30分で蒸発させろ』

『飛ばした炎弾を、150m以上先にいる生きた動物に当てろ』


 と、条件が難しくなっていき、やがては不可能な条件、

『肉体的に損傷のない優れた健康状態である30m以上の巨体を持つドラゴンを、自分で生成した炎のみを用いて殺せ』とかになる。


 そんな理由から、スキルレベル5に到達できる人は殆どいない。

 もしも、有効的な時魔法の条件がスキルレベル10だった場合、存在していないのと同じだ。



「あった!!えー、条件を達成すればいいらしいです!!」

「条件があると。できれば、レベルアップしやすいスキルが欲しいものですね」



 注意しなければならないのは、魔法には適性がある。

 冒険者組合や教会で魔法適性を調べられるが、個人によってバラバラだ。

 魂エネルギーが多いと種類が増える傾向があるから、エネルギーが足りない魔法は適正外になるんだろう。


 ……だからか。

 条件に異世界とか書かれている、どうしようもない俺をSSSランクに認定したのは。

 なら、冒険者組合は、ある程度までは仕組みに気が付いているな?


 希少性ないスキルの達成条件は研究されつくし、容易になっている。

『飛ばした炎弾を、150m以上先にいる生きた動物に当てろ』という条件も難しいように感じるが、崖の上に立ち、下に縛っておいた大型動物を置けば準備OK。

 後は当たるまで炎弾を出し続ければいい。ずるい。


 だが、奴らは何故か、魂エネルギー少ない。

 だからこそ、スキルや魔法を大量に発動できず、『肉体的に損傷のない優れた健康状態である30m以上の巨体を持つドラゴンを、自分で生成した炎のみを用いて殺せ』は不可能なのだ。


 そして、スキル『異世界購入』はSSSランク。

 まったく使えないスキルなのに、莫大な魂エネルギー量を考慮し、冒険者組合から認定された。


 俺は……、いや、俺たちは、レベル1以下の初期魔法しか使えない代わりに、魂エネルギー切れを経験したことがない、器用貧乏(ぽんこつ)集団。

 全員がSSSランクでありながら、一人としてスキルを覚醒できていない、超残念な勇者パーティーだった。



「スキル覚醒条件について、詳しくお伺いしたいです」

「はい!最初は簡単なんですけど、だんだん難しくなっていくんです!!」



 確認の意味も含め、駄女神にスキルの説明をさせてみる。

 その隙に、新しい情報をべーたんノートから発掘できた。


 さっきはアホの子だって思ってごめんな、べーたん。

 君は紛れもない女神様だよ。


『ありふれたスキルを持つ人は、魂エネルギーの所持量が少ない。

 これは世界に現存している同じスキルを持つ人で、魂エネルギーを分け合っているからだ。

 炎スキル保持者が100万人いるとしたら、一人の配当が少なくなるのは当然だといえる』


 つまり、レアスキルを持つ人はエネルギーを独占している。

 俺の魂エネルギーの底が見えないのも、異世界購入なんてレアスキルを持っているのが世界で一人だけだからだろう。

 だが、今度はレベルを上げられず、結果的に、使える魔法は初期魔法のみ。


 だがもしも、スキルレベルを上げることができたのなら……?

 それは文字通り、勇者の誕生だ。



「なるほど……、良いスキルを手に入れたいものですが、なかなか難しそうですね」

「いえ、この端末で選びますので、とっても簡単ですよ」


「えっっ」

「では、さっそくやってみましょう!!」



 ……?

 ……………。は?


 なん、だと……?

 スキルを選んで取得できる、だと……?



「自分で選べるんですか?」

「はい!転生チートスって奴です!!」


「念押しですが、何か勘違いされていたりは?」

「その為の端末なんです。絶対に間違いありません!!」



 チートを菓子チートスにしちゃう、アホの子(アフォノコ)馬鹿(ヴァカ)駄女神(ダメガミー)の発言だぞ。

 なんとレベル5相当だ、簡単に信じられるか。


 それでも、スキルを選べるのは間違いないらしい。

 信じられないことを唐突に平然と言う、これぞアホの子の極み。


 正直に言って、今すぐスキルを選びたい。

 だが、最低限、済ましておかなければならない事がある。



「先に欲しい情報があります。イナノミィケーオスのモンスターについて知らなければ、スキルを選べませんから」

「あ!その話題は凄く自信あるんです!!」



 何度もケルベロスを持ち出してくるくらいだからな。

 多少は期待しておいてやる!

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