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第5話 教本とは、無くなるものです


「キマイラもダメです。精々、ブラックドッグくらいが限界でしょう」

「ブラックドッグですか?ちょっと進化させてケルベロスにしません?」



 大きめの犬を希望したら、地獄の番犬をオススメされた。

 つーか、転生した瞬間に殺意の塊と出会わせんな。

 どう考えても、そのまま地獄に引きずり込まれるだろ。



「ケルベロスもダメです。というか、さっきからボスモンスターばかり紹介なさっていますが、何か理由がおありですか?」

「ワイバーンもキマイラもケルベロスも、と~~ても経験値が高いんですよ。転生ボーナスにいいかなって思って!」



 ボーナスに殺されたら、たまったもんじゃないだろ。

 それを日本では、『小さな親切、大きなお世話』って言うんだ。覚えておけ。



「それにしても経験値ですか?察するに、それはとても重要そうですね?」

「はい。草道さんには『イナノミィケーオス』という世界に転生して貰うんですけど、そこはステータスがすごく重要なんです。効率よくレベルを上げるのが近道になります!」



 キマイラやケルベロスが出没する道は決して近道ではない。覇道だ。

 つーか、出世街道で轢殺されたら元も子もないだろ。


 だが、俺が欲しかった言葉を吐いたから許してやる。

 これで、無意味な情報収集をしなくて済むからな。



「私が転生する世界は『イナノミィケーオス』というのですね?」

「そうですよ。言ってませんでしたっけ?」



 欠片も触れてねぇよ。この駄女神。

 なんだその、『やべ、失敗した』って顔は?


 どうやら、転生先の情報は最初に言うべき話だったようだな。

 もう一度言おう。この駄女神め。



「イナノミィケーオス。そこではステータス……、身体能力が数字で把握でき、スキルというものが存在する。ついでに、ワイバーンやキマイラといった、現代日本では空想とされている生物もいると」

「はいそうです!……って、草道さん、凄くモノ分かりが良いですねー?」


「営業なんてしていますと、お客様の言葉から状況を察するのは得意になるのですよ」

「へぇー。頭が良いんですねぇ、営業って」



 駄女神から事情聴取をして、この答えに行きつくのは至難の技だと思うぞ。

 なにせ、俺が答えを導き出せた……、いや、既に知っている(・・・・・)のは、俗に言う『知識チート』のおかげだからな。


 俺こと『草道 語』は、ただの日本人だ。

 ……だが、イナノミィケーオスで生きていた冒険者でもある。



「ちなみに、営業になる前は何をしていたんですか?」

「普通の高校生をしておりましたよ」



 絶妙に心の声にマッチした話題を振ってくんな。

 お前、本当に心を読んでるんじゃないだろうな?


 イナノミィケーオスの世界観は、中世ヨーロッパのイメージに近い。

 あえて『イメージに近い』というフレーズを付けたのは、地球の中世ヨーロッパとは異なる点も多いからだ。

 要するに、王がいて、城があって、貴族がいて、騎士がいて、平民がいる王侯貴族主義、そして……『スキル』と『魔法』と『モンスター』が存在する。

 当たり前にモンスターが出没し、魔族との戦いが起こっているイナノミィケーオスでは、スキルと魔法が主な対抗手段だ。


 10歳を超えたあたりで発現するスキルは『魔法に近い個人特殊技能』と呼ばれており、魔法とは明確に区別されている。

 例えば、炎を出す魔法は《ファイライ》。

 そして、適正があり呪文を唱えることが出来れば、《ファイライ》は誰でも発動できる。


 だが、【スキル:炎弾】は違う。

【スキル:炎弾】を持つ人間は詠唱をしなくても炎の弾が出せる上に、炎弾そのものを強化できる。

 自分専用の進化してゆく技、それがスキルだ。


 そして、俺が持っていたスキルこそ、激レア中の激レアスキル、『異世界購入』。

 激レア過ぎてスキル図鑑に載っておらず、詳細も不明。

 ただ、俺の中の魂エネルギーは異常に多く、スキルランクは『最高値(SSS)』だ。

 そのせいで強制的に勇者候補にされて旅だった訳だが……、まぁ、普通に死んだ。



「話を戻しましょう。私はイナノミィケーオスで新たな生を受けて転生する。0歳児からのスタートでよろしいですか?」

「えっとぉ……。今、調べますね!」



 異世界転生担当女神として、そこは重要な所だろ。

 そんくらい事前に調べとけ。

 俺がお前の上司なら、絶対に始末書を書かせるぞ。


 さて、俺の予測が正しければ、0歳児からの転生にはならないはずだ。

 なにせ、此処までの流れは、俺のスキルの効果欄に書いてある。



 ***************


【スキル:異世界購入】

 レベル状態*未覚醒


 効果

 ・異世界の物品を再購入する。


 覚醒条件1

 ・異世界で物品を購入する。


 ***************



 これが、イナノミィケーオスにいた俺が所持していたスキル。

 まったく使い方が分からず、散々パーティーメンバーに馬鹿にされまくったスキルだったが、死んだ瞬間に強制発動し、俺は現代日本人に転生した。



「えっとぉ、……あ!草道さんは16歳の状態で異世界転生しますね!」

「だとすると、転生した後の行動にも方向性が見えますね」



 よし、予定通りだ。


 現代日本人なら漫画とかで馴染みがある『スキル』だが、イナノミィケーオスでは見慣れないシステムが備わっている。

 それは、スキルを覚醒させるには条件を達成しなければならない事だ。

 例えば、【スキル:炎弾】の初期状態は、


 ***************


【スキル:炎弾】

 レベル状態*未覚醒


 効果

 ・てのひらから炎を出す。


 覚醒条件1

 ・てのひらの上で物質を完全燃焼させる。



 ***************


 となる場合が多く、最初の覚醒条件はシンプルなものが多い。

 だが、達成できなければ、スキルは永遠に使用できない。


 ただし、覚醒条件に書いていない事は何をしても良い。

 そんな訳で、炎弾スキルは1cm角に切った紙を掌の上に置き、マッチで火をつけて燃やせば条件を達成できる。

 必要な準備時間5分。 実行時間30秒の簡単なお仕事だ。


 なお、『自分の』という指定がないので、他人の掌の上でも問題ない。

 なので、スキルをレベルアップさせる店に相談すると、火傷を負わずに覚醒できる。



「あれー。でも、異世界転生って普通は0歳児になるって、教本に書いてあったと思うんですけど?」

「……教本に?ナタスさん、よろしければ見せて頂けませんか?」


「教本は……、あったかなー?」



 そして、俺の『スキル:異世界購入』の覚醒条件は意味不明だった。

 商談相手の目の前で机を物色するコイツと同じくらいに。


 ***************


【スキル:異世界購入】

 レベル状態*未覚醒


 効果

 ・異世界の物品を再購入する。


 覚醒条件Ⅰ

 ・異世界で物品を購入する。


 ***************


 まず異世界ってどこだよ!?って話だし、そこに行く方法も示されていない。

 俺と同じパーティーメンバーにも凄く笑われたっけ。

 そして、パーティー目標の一つが、『みんなで異世界に辿りつき、俺のスキルを覚醒させる』になったのだ。


 まさか、死んだら自動で異世界転生するとは思わなかったけどな。

 だが、現代日本で25年も生きた俺は覚醒条件1を達し、次の覚醒条件2が示されている。


 ***************


【スキル:異世界購入】

 レベル状態*覚醒1


 効果

 ・100円までの異世界の物品を、 金銭ユエドを用いて再購入する。

 ・1000円までの異世界の物品を、金銭ユエドを用いて再購入する。 *未覚醒


 覚醒条件1 

 ・異世界で物品を購入する。 

 覚醒条件2

 ・異世界から商品を再購入し、死亡要因を打開せよ。


 ***************


 見るべきは、覚醒条件2だ。

 つまり、これから俺は死ぬ直前に戻る事になる。


 なぁ、アルフィリア、イリエス、エルレット。

 お前らは俺を再三に渡って笑い、罵倒し、野次りまくってくれたよな。


 それでさ……、一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に助け合って旅をしてきたんだったよな。

 ギリギリのタイミングでの転移だったけど、無事に王都へ逃げられただろ?

 スキルこそ使いもんにならんかった俺だが、サポート魔法は自信があるんだぜ。



「あー。教本は無くしちゃいました。てへ!」

「……。それは仕方がないですね。では、私が質問をしますので、確認しながら異世界転生を進めていきましょう」



 お前らは優しいからさ、俺だけが転移失敗をしたって悲しんだだろ?

 でも、あの時は妨害魔法が張って有ったから、始点座標位置として俺が残る必要があったんだよ。気が付かなかっただろ?


 俺は確かに死んだ。

 だが、もしかしたらもう一度、お前らに会えるかもしれない。

 そしてもう一度、一緒に旅ができるかもしれない。


 その為なら……。

 教本を紛失しやがった、こんの馬鹿女神を騙しまくり、最強になって戻ってやるッッ!!

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