第3話 転生アナウンスに挑発を添えて
「私は死亡し、異世界転生をする事になった。その理由について何かご存知でしょうか?」
初めに、誰もが気になる所を聞いておこう。
俺も、転生する事に心当たりがあるとはいえ、確認はしておくべきだ。
「そうですねぇ。草道さんが素敵な雰囲気の男性だから……、でしょうか?」
「ありがとうございます。それで、お世辞を抜きにした理由はご存じで?」
「えー、それ以外には特にないですよぉ。イケメンでも無いですしぃ」
イケメンじゃなくて悪かったな。
お世辞を言わなくて良いとは言ったが、毒を吐いていいとまでは言ってねぇぞ。
それにしても、俺が異世界転生する理由がないだと?
いや、コイツが下っ端だから知らされてないのか?
「理由がないのですね。ならば、基本的なプロセス、転生をする一連の流れを教えてくださいますか?」
「えっとぉ……。最初はここに来た人に、転生させるよって説明します」
「では、その説明を聞かせてください」
「はい、では行きますよ!」
駄女神は前振りを言った後、こほん!と咳払いまでして注目を集めようとしている。
言っておくけどな、そういう咳払いは不愉快なだけだぞ。
しかも、無意味にキラキラ光り出した。
まぁ、本人だけ見れば神々しくも見えるだろうが、残念な事に、ここは会社の面接室だ。
現代日本において、会社の面接室でキラキラ光る奴はいない。
「さ迷える生者よ、輝きし魂を持つ者よ。汝がここに訪れたのは如何に幸運なk……」
「すみません、一回ストップで」
「えー、なんでですかぁ!?」
な、ん、だ、今、の?
もう色々と酷い。
あまりの酷さに、思わず止めに入ってしまった。
「なんと言うか、ちょっと思う事がありまして」
「思うことぉ?」
「はい、まず、最初の出だしですが、『さ迷える生者よ』。この部分に疑問が生じました。私は死んでるんでしたよね?」
「そりゃあもうバッチリ死んでますよ。吹き飛んでった右手と右足以外はトラックと壁の間で形容しがたいゲロみたいな感じになっちゃってますし」
「……。それは、しっかり死んでますね。だとすると、さ迷える『生者』よと言ってはいけません。あらぬ誤解を生みます」
「誤解ですか?」
「えぇ、人は誰しも死を受け入れがたくあるものです。それなのに生者と呼び、やっぱり死んでいるから異世界転生というのは混乱させてしまいます」
というか、如何にもそれっぽい言葉だったが誰が考えたんだ?
このアホの子駄女神が『さ迷える』とかいう小難しい言い回しを知っているとは思えないし、テンプレでもあるのか?
だとすると、コイツの上に立っている奴までアホの子か。
……天界、大丈夫か?
「それに、2フレーズ目の『汝がここに訪れたのは如何に幸運な』って、そちらが私を呼んだのでしょう?訪れたというのは私が自主的に来た場合に使う言葉で、聞きようによっては反感を買います」
「ふぇぇー。だってこうした方が良いと思うって『ベーたん』がー」
誰だよ、べーたん!!
名前から察するにお前もアホの子だな!?
「それと最初から気になっていたんですが、この部屋は私が勤務している会社の面接室ですよね?どうしてこのような場所で異世界転生の説明が行われているのでしょうか?」
「あ、それは『転生者にとって、最も身近な個室になる』という設定だからですよ! 草道さんの場合は会社の面接室でしたが、普通はもっと違う部屋になると思います」
なるほどな、確かに面接にも使う部屋だが、メインの用途は会議だ。
上司部下取引先、数多の人間を騙……、弁論を交わしてきた部屋だし納得……、いや、そもそも、その設定がダメすぎるだろ。
最も身近に感じる個室って、大体、自宅の自室になるだろうが。
そんな所で女神と面接って、何の面接だよ。
しかも、「草道さんが初めての人なんです!」って誘ってんのか?このアホの子駄女神は。
それにだ。
過敏性胃腸炎の人はどうなる?
過敏性胃腸炎の人にとって、最も身近に感じる個室はトイレだぞ。
……するのか?トイレで面接。
さ迷える生者よ、輝きし魂を持つものよ。汝がここに訪れたのは如何に幸運なーー、って言うんだろ?
馬鹿にしてるよな?
「その設定は変更できませんか?相手によって環境が変わるというのは、運要素が強くなってしまいますので」
「あー出来ないと思いますよー。神っぽい部屋作ろうとしたんですけど、みんなセンスなくてー」
できねえのかよ。
神っぽい部屋を作れないって、お前ら女神だろ。
なんか学校も行ってたらしいし、神って意外と現代日本人と変わらないのか?
夢も希望もありゃしねえ。
「出来ないなら仕方がありませんね。話を先に進めましょう。雰囲気作りはもう良いですので、実務的な説明をしていただけますか?」
「はい、分かりました。……草道さん、あなたはお亡くなりになりました。魔法のない日本では復活することはできません」
魔法のない日本では?
やはり、魔法が存在する世界があり、俺はそこに転生するって事か?
気になるから早く続けろ。
「ただし、生前のあなたは数多くの善行を積んできました。よってそれを賞し、新たなる人生をここに贈りたいと思います。令和7年8月――」
「はい、ストップです。……ナタスさん、営業ナメてますか?」
「えぇー!そんなこと無いですよ!舐めたらばっちいです!!」
完全にナメてるじゃねえか。
何がばっちぃだ。人をバイキン扱いしやがって。
「今の言い回しだと、転生することが喜ばしい様に表現されていましたよね?」
「えっ、嬉しくないんですか?第二の人生ですよ?」
「それはそうですが、死んだから『次、頑張ってね』と言われても受け入れがたいものです。ですので、感情などは見せずに事務的に行うべきでしょう」
「へぇー、勉強になりますねー」
それ以前に、表彰状を送るようなノリで転生させるな。
人の人生をなんだと思ってやがる。