第15話 事後振り返りは重要です
「……ロードが長ぇ。フリーズしてるんじゃないのか?これ」
真っ白い風景の中を落下すること、体感5分。
一向に異世界転生する気配がない。
「こんな所でバグるなんて洒落にならねぇ……、が、俺に出来ることは無い」
胡散臭いビジネス用語も、もうやめだ。
あんな言葉遣いで喋ったら、アルフィリアが爆笑しすぎて悶絶死する。
……。
奴の痴態はちょっと見たいが、流石に死なれるのは困る。
「状況の確認をしておくか、確か……」
アルフィリア、イリエス、エルレットと俺の四人は、王国領と魔族領の境界にある、八咫烏の森の調査を行っていた。
強力なモンスターが出没する危険地帯であり、双方の国が不可侵と定めている場所だ。
だが、そこに馬車が出入りしているという目撃情報が多発したのだ。
調査の結果、魔族の拠点が建造されていた。
現時点では森の開墾を行いつつ、建材を運び込んでいる状態。
規模的に、半年もすれば立派な城が完成し、王国領への侵攻が始まるだろう。
俺達は全員がSSSランクの勇者パーティーだが、全員がスキルを覚醒させられないポンコツ。
一人二人の魔族ならどうにかできても、50人からなるむさ苦しい土方魔族を相手にするのはキツイ。
色んな意味で。
そんな理由から撤退したんだが……、戦闘経験豊富な奴が混じっていたっぽいな。
転移阻害の魔法を掛けてくるわ、ヘルハウンドの群れ(5匹)を放ってくるわで追い詰められた結果、俺が囮になって仲間を離脱。
孤軍奮闘するも、追加されたコカトリス(15匹)とユニコーン(8匹)、あと、ワイバーン(無数)に襲われて天に召された。
「今考えても、だいぶ酷い。パーティーで戦ってもワイバーン2匹でギリギリだぞ」
ヘルハウンド……、高機動大型犬
コカトリス……、状態異常石化
ユニコーン……、状態異常回復
ワイバーン……、空飛ぶ軽トラ だからな。
「まぁ、今の俺なら余裕で勝てる。おっと、異世界再購入の条件も満たしておかないと」
***************
【スキル:異世界再購入】
レベル状態*覚醒1
効果
・100円までの異世界の物品を、 金銭ユエドを用いて再購入する。
・1000円までの異世界の物品を、金銭ユエドを用いて再購入する。 *未覚醒
覚醒条件1
・異世界で物品を購入する。
覚醒条件2
・異世界から商品を再購入し、死亡要因を打開せよ。
***************
覚醒条件2を達成できるのは、転移した直後のみ。
ということで、100円以下の商品を再購入した上で、それを使って死亡要因を打破しなければならない。
100円均一で武器になりそうな物は、カッターナイフか、強度重視の角材か。
ぶっちゃけ、フィジカルで圧倒できるので何でもいい気がする。
パワーこそ力だ!!
「あいつらのことだ。俺と再会しても、喜ぶより先に罵倒してくるだろうな」
どうして一人で残ったのよ、ポンコツの癖に!!……とか。
貴方がいなくなったら、誰が料理と掃除と洗濯をするのですか!?……とか。
あーでも、エルレットだけは、心配させやがって。罰として、ウチの肩を揉め、ゴラァ!!……とか、言ってきそう。
「でも、俺は勝利を確信している。なぜなら、奴らのスキルの覚醒方法を見つけているからだ!!」
奴らのスキルも俺同様、一目見た瞬間に「無理ゲー」といえる酷いスキルだった。
だが、問題はない。
日本で知識を手に入れた俺ならば、容易にクリアできる。
アルフィリアのスキルは、文字化けしていて読めない。
通常は、所持者が使用する言語で書かれるのが原則。
だが稀に、他言語になっているケースが存在する。
学期末に配布された成績表が英語で書かれているような感じ。
問題だったのは、その言語がイナノミィケーオスのどの言語とも一致しない点だ。
そして、今の俺はそれが読める。
全言語理解を得たからではない。
その文字が日本語だからだ。
【スキル:置換】
レベル状態*未覚醒
効果
・同じ重量のものを入れ替える ※未覚醒
覚醒条件1
・スキル欄を解読し、文字を置換する
ということで、俺がスキル欄を読み上げ、適当な紙に内容をイナノミィ語で書かせれば達成。
方法さえ知っていれば簡単にクリアできる、それがレベル1。
「にしても、特攻大好き暴走剣士アルフィリアにはお似合いのスキルだ」
ぶん殴って来るわね!
が口癖のアルフィリアは、敵に囲まれるのが大好きな暴力系女子だ。
そんな奴が転移系スキルを持ってるとか、そりゃ、文字化けさせたくもなる。
「イリエスのは惜しい所までは行ってたんだな。んー、俺の判断ミスだな。これ」
【スキル:性職者】
レベル状態*未覚醒
効果
・範囲内の生命活動を促進させる ※未覚醒
覚醒条件1
・他者の胎内に生命を誕生させる
このスキルはいたってシンプル。
誰かを孕ませればいいという、トンデモネェ地雷スキルだ。
女の時点でまず論外。竿がねぇ。
男であっても「僕の子供を孕んでください!スキルを覚醒させたいんで!!」なんて言った日にゃ、色んなものが終わる。
イリエスは聖教会のお偉いさんの孫という超絶箱入り娘だった。
そして、思春期ド真ん中でスキルが覚醒し、周囲の子供たちに散々に馬鹿にされ、ふてくされ、家出し、路傍でボロキレの如く草臥れていた所を、駄犬アルフィリアが拾ってきやがった。
『仲間にするわよ!ヒーラーは冒険に必須だもの!!』
犬のように目を輝かせているコイツは、回復魔法を使えるか確認すらしていない。
結果的に、俺がヒーラーの真似事をすることになった。ポーションで。
「トカゲを捕まえて、スポイトを使って、人工授精。これでいけるはず」
この発想自体は、もう既に試している。
嫌がるオストカゲの尻尾の付け根をゴシゴシした後、メスの付け根にゴシゴシ。
そして、しばらくゴシゴシすると、二匹ともクタァとなる。
そうして作った番を暫く飼育した結果、無事に卵を産んだ。
だが、イリエスのスキルは覚醒しなかった。
レベルアップ屋に相談した所、意志を持つ者同士を強制的に番わせても、『イリエスが』孕ませたことにならないらしい。
そこで俺はこの発想を諦め、イリエスにチ●コを生やさせる方法を探し始めた。
毎日20回ほど「馬鹿なの?」と罵倒され続ける日々は流石に堪えたが、俺が馬鹿だったんだからしょうがない。
「エルレットのは、イナノミィケーオスの技術レベルじゃどうしようもない。が、日本製品を手に入れた俺なら大丈夫」
【スキル:プール・ループ】
レベル状態*未覚醒
効果
・自分で起こした現象を保存し、任意で再生する
覚醒条件1
・一致率90%以上の加工品を30回、自分で作成する
加工品の複製自体は簡単にできるが、一致率90%が無理ゲー過ぎる。
なにせ、イナノミィケーオスで流通している材料の品質には、かなり強いムラがある。
料理は、野菜の糖度や栄養素が違うのでNG。
工芸品は、使う素材にムラがある為NG。
じゃあ、材料そのものを作り出すのは?と思って、俺自身が試している。
製鉄や錬金術なんて、素人には無理。
あくまでも俺達は冒険者であり、製鉄所で条件を達成できるほど熟練した場合、SSSランクの鍛冶師が爆誕する。
つーか、そもそも脳筋娘のエルレットに物作りは無理だ。
奴が作るスープには塩が入っているんだぞ。
具材として。塊で。
「パソコンとプリンターと発電機を買えば即完了。簡単で良いぜ!」
日本に転生した俺は、奴らのスキルを上げる方法を考えて来た。
知っている情報はレベル1だけだが、条件の方向性は変わらないので想定は出来る。
アルフィリア → 置換の回数・難易度上昇
イリエス → 生殖の回数・難易度上昇
エルレット → 複製の回数・難易度上昇
だからこそ、俺は語学・生物学・工学の参考書と機材を買い込んでいる。
レベル2の効果「1000円までの異世界の物品を、金銭ユエドを用いて再購入する」で手に入るように、血が滲む努力を行ってだ。
激安販売店で中古パソコンを799円で買った時には、涙が零れるほど嬉しかったぜ!!
「レベル1にしかなれなくても、攻撃魔法やサポート魔法の幅が一気に広がる。それこそ、残弾無限のSSS魔導師×4になる訳で。一人で一騎当千とか言われるSSS勇者が固まって行動する。ふは!夢が広がるぜ!!」
同じSSS勇者のオダ・アオイは華奢な少女、いや、ぶっちゃけて言おう。
黒髪清楚な女子高生だ。
そして、レベル4までスキルを覚醒させた彼女は、まさに、一人戦団と呼ぶにふさわしい戦闘力を有していた。
黄色い電気ネズミが大規模殲滅雷撃魔法で、敵兵団を壊滅させ。
黒い二足歩行ネズミが、もだえ苦しむ残党を蹂躙し。
青いタヌキ型ネコが、死屍累々から奪った戦利品をポケットにしまい込む。
なお、一番強いのはオダ・アオイ本人。
彼女が竹刀を抜いた時、それすなわち、死だ。
「漫画読ませたら、もっとヤバいことになりそうだな?あんまり知らないって言ってたし」
今だからこそ分かる。
オダ・アオイは文武両道な真面目系令嬢。
たぶん、剣道一筋で生きていて、漫画とかアニメに触れて来なかったのだと思われる。
そんな彼女が唯一知っているのが、ネズミ2匹とタヌキ1匹だった訳だ。
『幻想人形師』で召喚できるのは、正確なイメージが出来る創作物だけで、実物のドラゴンを見聞きしても呼び出せないって本人が言っていた。
つまり、ド●ゴンボールのシェ●ロンは行けるはず。
……。
やっぱ漫画読ませるの止めようかな。
戦闘力53万のフ●ーザ様に勝てる気がしない。
「まぁ、パーティーの強化は後だな。まずは不機嫌になったアイツらを菓子で懐柔して……んっ!!」」
気が付いた時には、真っ白だった足元に色が見え始めた。
深い緑……、森か?あの赤い点はなんだ?
ってそれを上から見てるって事は?
待て待て待て!?
こんな高さから落とされたら、流石にッッ!!
こんの、駄女神がぁあああああああああああああッッ!!!!
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「ぷみゅ!」
「……ぷみゅ?」
ぷみゅっ。とした何かを踏んだ。
周囲を見渡すと、全体的にピンクな部屋。
大人的な意味ではない。
寧ろ100%子供。
ぬいぐるみたっぷりの少女の部屋にしか見えない。
「んっー!んーゅ!!」
……で、足の下で何かが悶えている。
俺はどうやら、使い慣れた冒険者ブーツ(泥付き)で女の子のベッド(中身入り)を踏みつけているらしい。
あ、流石は女の子の部屋。
計らずとも、大きな鏡に俺の現状が映し出されている。
「……ぁ」
鏡を見た感じ、俺の姿は転生前のまま。
16歳、冒険者・後衛職、童貞。
服の汚れから察するに、ヘルハウンドから逃げた辺り――、怪我を負う前の状態っぽい。
うん、それは良いんだけどさ。
俺に踏みつけられている女児が、涙目で嗚咽を上げ始めているのは、なんでなんだろう?
目の前に居たのはヘルハウンドだっただろ?
何で女児?なんで??
「ふゅ……」
「ふゅ……?」
「ふぎゃあぁああああああああああ!!」
「ごごご、ごめんなさーーーーーい!!」
あんの駄目神ぃいいいいい!!
なんつう事しでかしてくれてんだ、ボケェエエエエええええええええええ!!