第12話 通貨偽造は違法です
「それでは次のスキルも選択しましょう。スキル欄の四番目を押してください」
「これも汎用スキルにするんですか?」
「えぇ、汎用と言っても好みがあります。何種類か提示できるようにした方が良いでしょう」
ちょっと賢い奴なら、異次元保管の地雷臭に気が付くかもしれない。
転生した直後、ようするに赤ん坊の状態では、『調理後、30日以上経過したスープを完食し、健康を維持する』は、どうしょうもないという事に。
「イナノミィケーオスも金銭経済が発達しているようですね。ならば、お金に関係するスキルは汎用性が高いと言っていいでしょう」
「お金はあるだけ良いですもんね!できるだけ効率よく量産できるスキルは、えーと……」
金があるのに越したことはないのは同意だが、おい、後半。
明らかに通貨偽造する前提で話を進めるんじゃない。
「ナタスさん、お金の偽造は経済破綻を招く恐れがあり、非常に危険です。素人が手を出すと痛い目を見ます」
「そうなんですか?じゃあ、ダイアモンドとか生み出します?」
「いえ、希少性が高いものを生み出しても価値が下がって意味が無くなりますので。そうですね、こちらの『信用銀行』がいいでしょう」
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【スキル:信用銀行】
レベル状態*覚醒1
効果
・自分の所有物を預けることで、価値に見合った数字を表示する。
・預けた所有物を手数料を支払い取り出す。*未覚醒
覚醒条件1
・自分が所有している資産を残高10000ユエドを超えるように預ける。
覚醒条件2
・自分が所有している資産を残高100000ユエドを超えるように預ける。
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「預けるだけ……?それに、取り出す時に手数料が掛かるって。これだと損しますよ!?」
金が絡んだ時だけヤケに頭の回転が良いな、おい。
魂の利ザヤの件といい、お前が強欲を司る駄女神だというのは良く分かった。
「いえいえ、損だなんてとんでもない。こちらは将来的に巨額の金銭を稼げる汎用性の高いスキルですよ」
「そーなんですか?」
「はい、銀行業とサラリーマンは切っても切れない関係、その利便性も熟知しております」
イナノミィケーオスでは、スキルや魔法で物質を生み出すこと自体は合法とされている。
だが、生み出した物質を使用する場合には、それがスキルや魔法で生成したものであると証言し、相手の同意を得なければならない。
つまり、スキルで金を生み出そうとも、それを黙って流通させた場合は犯罪だ。
偽造チェッカーなんて、そこら辺に有り触れているし、迂闊に通貨偽造なんてやらかした日には再転生コースまっしぐら。
「このスキルは価値を表示させる、つまり、価値が分からないもの指標になります」
「価値が分からないもの……?じゃあ、草道さんを入れたら値段が表示されるって事ですか!?」
されるかもしれないが、絶対に碌なことにならない。
50ユエドとか表示されたら悲しいし、逆に50億ユエドとか表示されても手数料が払えなくて困る。
つーか、スキルに人間を飲み込ませようとすんな。
イナノミィケーオスだとかなり業の深い禁忌指定されてるぞ。
お前もスタートパックで常識を手に入れてこい。
「そんなことより、利便性の話をしましょう。このスキルがあればナタスさんの好きな利ザヤを効率よく手に入れることが出来ます」
「利ザヤを!?どうしてですか!?教えてください!!」
このスキルの素晴らしい所は、預ける資産が金銭に限定されていない点だ。
つまり、現金を預けるという日本の銀行と同じ使い方の他に、鑑定スキルとしても役に立つ。
「物の価値は常に変動しています。ですが、このスキルがあれば、それが高いか安いかが判断できます」
「なるほど……、目の前にある商品を一つだけ購入し、スキルに預けて価値を調べる、で、安かったら爆買いですね!!」
ほんとすげぇ理解が早いな?
現代日本では商品を調べると市場平均価格が表示されるアプリがあったりもしたが、それを知っているっぽい?
まさかコイツ、女神の顔して転売ヤーか?
「汎用性が高い理由はもう一つあります」
「えぇ!?」
「スキルの進化条件が容易だという事です」
現在、覚醒条件は二つ公開されている。
覚醒条件1
・自分が所有している資産を残高10000ユエドを超えるように預ける。
覚醒条件2
・自分が所有している資産を残高100000ユエドを超えるように預ける。
つまり、初期覚醒をするのに1万ユエド、第二覚醒をするのに10万ユエドが必要。
だとすると、第三覚醒には100万、第四覚醒には1000万、第五覚醒には一億ユエドと、桁が増えていく可能性が高い。
なお、イナノミィケーオスの金銭価値はほぼ日本と一緒。
パン一個150ユエド、最低賃金・時給1000ユエドって所だ。
そして、レベル5覚醒まで達成できる者は極少数だ。
それがたったの1億で手に入るのならば安いもの。
スキルの覚醒レベル=魔法レベル=真理の結びつき であると知った以上、レベルの上げやすさの価値は計り知れない。
「スキルレベルの上昇はそれだけで戦闘力向上になります。手数料が掛かりますが異次元収納と同じような使い方もできますし、便利で間違いないでしょう」
「はえー、すごいんですねー!」
よしよし、悪徳訪問販売に騙されている主婦みたいに納得してるな。
馬鹿を騙すコツは『はっきり断言すること』。
どっかのアホみたいに、たぶん~~みたいだったと思いますぅ~~なんて言ってはいけないのだ。
なお、コイツに言っていない真の目的がある。
それは、俺のスキル異世界再購入と相性が良いことだ。
異世界再購入で仕入れた商品は、当然、イナノミィケーオスでは存在しない新商品。
それがどの程度の価値を持つのかの判断は、非常に難しい。
判断材料になるのは優良だし、なにより、上手くいけば無限の物資が手に入る。
このスキル名は『信用銀行』。
だからこそ、レベルを上げれば、物を担保に現金を借りられるようになる可能性がある。
ただし、スキルで借りた金を流通させれば国から突き上げを食らうことになる。
鋼鉄の槍で。
だが、異世界再購入で商品を入手し、信用銀行に預けて現金化。
その現金を使い、異世界再購入。
以下ループ。
これならノーリスクだ!!