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第10話 言語チートも王道です

 

「次はスキルの設定ですね。っと、これは?」

「えぇ!?前に練習した時より、欄が増えてます!?」



 転生者にはステータス補正が掛かるというのは、オダ・アオイから聞いていた情報だった。

 具体的な数字を教えて貰った訳ではないが、同レベル帯と比べると圧倒的な差があると。


 だからこそ、このアホの子を騙してステータスを伸ばし、イナノミィケーオスに転生しようと思っていた訳だが、どうやら、スキルまで追加で貰えるらしい。

 ここからが俺の腕の見せ所。

 ブラック営業マンの本領、見せてやるぜ!!



「おや、そうなんですか?」

「はい、前は2個しかなかったんですけど、なんで5個もあるんですか!?」


「落ち着いてください。2つも5つも大差ありません。同じことを繰り返せばいいのです、まずはじっくり眺めてみましょう」



 **********


 転生者名:『草道 語』

 転生先名:『イナノミィケーオス』



【言語理解*王都ヘイセイ】

【常識理解*王都ヘイセイ】

【異世界再購入】

【スタートパック】

【取得スキル・ランダム】


 『決定』 


 ←前ページ


 **********



「言語と常識理解、異世界再購入。それと、スタートパックとランダム?」



 王都・ヘイセイは活動していた国の王都、名物はわいばーんのたまご。

 その言語と常識がスキルとして備わっているのは初めて見たが、理解できなくはない。


 異世界再購入は俺のスキル。

 当然、最初から記入されているとして……。



「このスタートパックとは何でしょう?」

「えっと、これは転生する人用のスキルで、言葉や常識が覚えられる便利パックだって、べーたんが言ってたような……?」


「ふむ、では押してみましょう」



 **********


【スタートパック】


 ・【言語理解*王都ヘイセイ】 『変更』

 ・【常識理解*王都ヘイセイ】 『変更』

 ・【記憶保持*あり】     『変更』


 『決定』 


 **********



「なるほど!これはありがたいスキルですね」

「そうなんですか?」


「えぇ、意志の違いや文化の違いは致命的ですから」



 日本で俺は新生児として生まれ、草道・悟として育てられた。

 だからこそ、イナノミィケーオスと日本は、言語や常識が掛け離れていることを理解している。


 簡単に言えば、向こうの世界は殺傷に嫌悪感を抱かない。

 日本人で、手のひら以上の大きさの動物を殺した人は殆どいないと思うが、イナノミィケーオスでは違う。

 釣り堀に魚を釣りに行こう!ぐらいの軽いノリで森やダンジョンに入り、獣を狩るのだ。


 そんな知識がある俺ですら、飛び出す血や内臓には嫌悪感がある。

 画面の中のモンスターしか狩っていない現代人では、慣れる前に心を病んでも不思議じゃない。



「王都・ヘイセイ、場所を指定して常識やが言語を得るようですね。ナタスさん、こちらの設定ボタンを押してください」

「はい……、そいやっさ!!」



 急にテンションを変えるな、アホ。

 ビックリするだろうが。



「わわ、地名がいっぱい出ました!!」

「人間の国の他に、エルフ国、獣人国、魔族国、王都ばかりじゃなく、主要な都市も選べ……」


「どうしました?」



 駄女神が許可なく勝手に『王都ヘイセイ』から『王都エルフィーナ』変えた瞬間、俺の脳内情報も切り替わった。

 現代エルフ語、古代エルフ語、魔法言語論、若者言葉、ことわざ、誹謗・中傷・皮肉、流行の歌や工房で使われている専門知識まで……、思い出そうとすれば、簡単に言葉が浮かんでくる。


 逆に、王都ヘイセイ語の会話はできなくなった。

 見ればどんな道具かは分かるが、発音が思い出せない。



「新緑の葉裏に卵」

「?」


「肥料の中に種を植える」

「?」


「あのー?」

「どうやら、リアルタイムで言語が反映されているようです。これは凄い」


『新緑の葉裏に卵』

 美味な新緑の葉も、裏側に蟲の卵がついていれば食べられない残念さを表す故事成語。

 外見ばかりが整っていて、中身が伴っていない様子。


『肥料の中に種を植える』

 植物を大きく育てる肥料の中に種を植えても、腐らせてしまうという例え話。

 便利な道具も、正しい使い方が出来なければ意味がないという皮肉。


 要するに、お前のことだよ、駄女神。



「活動拠点によって知識を変えられるというのは魅力ですが、地理には詳しくないですし、最初の王都・ヘイセイに――、『すべて』だと?」

「一番下にありますね。どうですか?」


「これは良いですね。ビジネスマンとして、外国語を覚える大変さは身に染みて感じていますから」



 アホの子が奇跡を起こした。

 それも、尋常じゃないヤバい奴を。


【異世界再購入】の効果で過去に戻るのが決定している俺は、王都・ヘイセイから変更する気がなかった。

 パーティーメンバーと意思の疎通ができなくなるとか、それこそ論外だ。


 だが、『すべて』があるんなら話は別だッ!!

 人語、エルフ語、獣人語、魔族語を完全網羅!

 それどころか、ケルベロス語、ズギャーン語、ドラゴン語……、進化した魔物の意思疎通は言語化されているのか!!

 SSSランクのビーストテイマーでも持っていないであろうレアスキル、それが『すべて』!!



 **********

【スタートパック】


 ・【言語理解*すべて】 『変更』

 ・【常識理解*すべて】 『変更』

 ・【記憶保持*あり 】 『変更』


 『決定』 

 ********** 



「言語理解とー、常識理解ー、これを『すべて』にー。できました!!」

「非常に利便性が高いですから、基本的に『すべて』で良いと思います。転生者から要望があった時だけ変更しましょう」



 常識理解も『すべて』を選んでみたが……、こっちはもっと凄い。


 人間の国は何でも食べるが、エルフ国は肉を殆ど食べない。

 これは、地学的な理由で植物の栄養価が高く、わざわざ狩猟をしてまで肉を食う必要がないから。

 結果、安全な生活を送ることになり、病気もしにくいため、長寿となっている。


 逆に、獣人国は肉ばかりを食べている。

 これは土地的に野菜が育ちにくく、生命維持に必要な野菜を獣人と野生動物で奪い合っているため。

 慢性的な栄養不足により、獣人の平均寿命は40年ほどしかない。


 獣人国にとって、野菜は生命維持に必要不可欠な高級品であり、それを知っているエルフ国が法外な値段で売りつけているため、両国の関係性は非常に険悪。

 近年では、血気盛んな獣人王がエルフ国への侵略を計画している。


 日本の常識は海外の非常識、なんて話があるが、それはイナノミィケーオスでも一緒だ。

 それが理解できるというのは、異世界再購入と物凄く相性がいい。

 どんな国と比べても、日本の科学・文化・趣向は圧倒的に優れている。

 これぞまさしく、知識チートだ。



「それでは次の――」

「こっちの『記憶保持』はなんでしょう?あ、押したら『なし』になりました」



 あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!

 日本の記憶が消えたッ!!

 何てことしやがるッ!!

 えーと、えーと……、こんの、肥料の中に落ちた葉裏のたまご女神がぁッ!!



「記憶保持は『あり』にしましょう。せっかくの日本の記憶が消えてしまいますので」

「そうなんですね。じゃ、『あり』に戻してー」



 マジで焦ったぞ、この駄女神め。

 そして理解した。

 お前に端末を触らせておくと碌なことにならない。



「スタートパックの設定はこれで良いでしょう」

「んー、あれ?上の二つがダブってませんか?」



 駄女神の癖によく気が付いたな。

 ご褒美として、ここから先の端末操作は俺が代行してやろう。



「そういえば少し変ですね……?もしかしたら、前に操作した時のデータが残っていたのかもしれません」

「前の?そういえば、べーたんが弄り回していましたけど」


「ノートを見れば分かります。ご友人はとても几帳面で、色々な試しをしていたんでしょう。矛盾がある設定になっていたのも、そういう操作ができるか実験したのかもしれません」

「へー、暇人ですねー。もっと仕事があると思うんですけどー」



 ……べーたん。

 俺が転生した後、コイツ殴って良いぞ。

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