第10話 言語チートも王道です
「次はスキルの設定ですね。っと、これは?」
「えぇ!?前に練習した時より、欄が増えてます!?」
転生者にはステータス補正が掛かるというのは、オダ・アオイから聞いていた情報だった。
具体的な数字を教えて貰った訳ではないが、同レベル帯と比べると圧倒的な差があると。
だからこそ、このアホの子を騙してステータスを伸ばし、イナノミィケーオスに転生しようと思っていた訳だが、どうやら、スキルまで追加で貰えるらしい。
ここからが俺の腕の見せ所。
ブラック営業マンの本領、見せてやるぜ!!
「おや、そうなんですか?」
「はい、前は2個しかなかったんですけど、なんで5個もあるんですか!?」
「落ち着いてください。2つも5つも大差ありません。同じことを繰り返せばいいのです、まずはじっくり眺めてみましょう」
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転生者名:『草道 語』
転生先名:『イナノミィケーオス』
【言語理解*王都ヘイセイ】
【常識理解*王都ヘイセイ】
【異世界再購入】
【スタートパック】
【取得スキル・ランダム】
『決定』
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「言語と常識理解、異世界再購入。それと、スタートパックとランダム?」
王都・ヘイセイは活動していた国の王都、名物はわいばーんのたまご。
その言語と常識がスキルとして備わっているのは初めて見たが、理解できなくはない。
異世界再購入は俺のスキル。
当然、最初から記入されているとして……。
「このスタートパックとは何でしょう?」
「えっと、これは転生する人用のスキルで、言葉や常識が覚えられる便利パックだって、べーたんが言ってたような……?」
「ふむ、では押してみましょう」
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【スタートパック】
・【言語理解*王都ヘイセイ】 『変更』
・【常識理解*王都ヘイセイ】 『変更』
・【記憶保持*あり】 『変更』
『決定』
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「なるほど!これはありがたいスキルですね」
「そうなんですか?」
「えぇ、意志の違いや文化の違いは致命的ですから」
日本で俺は新生児として生まれ、草道・悟として育てられた。
だからこそ、イナノミィケーオスと日本は、言語や常識が掛け離れていることを理解している。
簡単に言えば、向こうの世界は殺傷に嫌悪感を抱かない。
日本人で、手のひら以上の大きさの動物を殺した人は殆どいないと思うが、イナノミィケーオスでは違う。
釣り堀に魚を釣りに行こう!ぐらいの軽いノリで森やダンジョンに入り、獣を狩るのだ。
そんな知識がある俺ですら、飛び出す血や内臓には嫌悪感がある。
画面の中のモンスターしか狩っていない現代人では、慣れる前に心を病んでも不思議じゃない。
「王都・ヘイセイ、場所を指定して常識やが言語を得るようですね。ナタスさん、こちらの設定ボタンを押してください」
「はい……、そいやっさ!!」
急にテンションを変えるな、アホ。
ビックリするだろうが。
「わわ、地名がいっぱい出ました!!」
「人間の国の他に、エルフ国、獣人国、魔族国、王都ばかりじゃなく、主要な都市も選べ……」
「どうしました?」
駄女神が許可なく勝手に『王都ヘイセイ』から『王都エルフィーナ』変えた瞬間、俺の脳内情報も切り替わった。
現代エルフ語、古代エルフ語、魔法言語論、若者言葉、ことわざ、誹謗・中傷・皮肉、流行の歌や工房で使われている専門知識まで……、思い出そうとすれば、簡単に言葉が浮かんでくる。
逆に、王都ヘイセイ語の会話はできなくなった。
見ればどんな道具かは分かるが、発音が思い出せない。
「新緑の葉裏に卵」
「?」
「肥料の中に種を植える」
「?」
「あのー?」
「どうやら、リアルタイムで言語が反映されているようです。これは凄い」
『新緑の葉裏に卵』
美味な新緑の葉も、裏側に蟲の卵がついていれば食べられない残念さを表す故事成語。
外見ばかりが整っていて、中身が伴っていない様子。
『肥料の中に種を植える』
植物を大きく育てる肥料の中に種を植えても、腐らせてしまうという例え話。
便利な道具も、正しい使い方が出来なければ意味がないという皮肉。
要するに、お前のことだよ、駄女神。
「活動拠点によって知識を変えられるというのは魅力ですが、地理には詳しくないですし、最初の王都・ヘイセイに――、『すべて』だと?」
「一番下にありますね。どうですか?」
「これは良いですね。ビジネスマンとして、外国語を覚える大変さは身に染みて感じていますから」
アホの子が奇跡を起こした。
それも、尋常じゃないヤバい奴を。
【異世界再購入】の効果で過去に戻るのが決定している俺は、王都・ヘイセイから変更する気がなかった。
パーティーメンバーと意思の疎通ができなくなるとか、それこそ論外だ。
だが、『すべて』があるんなら話は別だッ!!
人語、エルフ語、獣人語、魔族語を完全網羅!
それどころか、ケルベロス語、ズギャーン語、ドラゴン語……、進化した魔物の意思疎通は言語化されているのか!!
SSSランクのビーストテイマーでも持っていないであろうレアスキル、それが『すべて』!!
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【スタートパック】
・【言語理解*すべて】 『変更』
・【常識理解*すべて】 『変更』
・【記憶保持*あり 】 『変更』
『決定』
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「言語理解とー、常識理解ー、これを『すべて』にー。できました!!」
「非常に利便性が高いですから、基本的に『すべて』で良いと思います。転生者から要望があった時だけ変更しましょう」
常識理解も『すべて』を選んでみたが……、こっちはもっと凄い。
人間の国は何でも食べるが、エルフ国は肉を殆ど食べない。
これは、地学的な理由で植物の栄養価が高く、わざわざ狩猟をしてまで肉を食う必要がないから。
結果、安全な生活を送ることになり、病気もしにくいため、長寿となっている。
逆に、獣人国は肉ばかりを食べている。
これは土地的に野菜が育ちにくく、生命維持に必要な野菜を獣人と野生動物で奪い合っているため。
慢性的な栄養不足により、獣人の平均寿命は40年ほどしかない。
獣人国にとって、野菜は生命維持に必要不可欠な高級品であり、それを知っているエルフ国が法外な値段で売りつけているため、両国の関係性は非常に険悪。
近年では、血気盛んな獣人王がエルフ国への侵略を計画している。
日本の常識は海外の非常識、なんて話があるが、それはイナノミィケーオスでも一緒だ。
それが理解できるというのは、異世界再購入と物凄く相性がいい。
どんな国と比べても、日本の科学・文化・趣向は圧倒的に優れている。
これぞまさしく、知識チートだ。
「それでは次の――」
「こっちの『記憶保持』はなんでしょう?あ、押したら『なし』になりました」
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!
日本の記憶が消えたッ!!
何てことしやがるッ!!
えーと、えーと……、こんの、肥料の中に落ちた葉裏のたまご女神がぁッ!!
「記憶保持は『あり』にしましょう。せっかくの日本の記憶が消えてしまいますので」
「そうなんですね。じゃ、『あり』に戻してー」
マジで焦ったぞ、この駄女神め。
そして理解した。
お前に端末を触らせておくと碌なことにならない。
「スタートパックの設定はこれで良いでしょう」
「んー、あれ?上の二つがダブってませんか?」
駄女神の癖によく気が付いたな。
ご褒美として、ここから先の端末操作は俺が代行してやろう。
「そういえば少し変ですね……?もしかしたら、前に操作した時のデータが残っていたのかもしれません」
「前の?そういえば、べーたんが弄り回していましたけど」
「ノートを見れば分かります。ご友人はとても几帳面で、色々な試しをしていたんでしょう。矛盾がある設定になっていたのも、そういう操作ができるか実験したのかもしれません」
「へー、暇人ですねー。もっと仕事があると思うんですけどー」
……べーたん。
俺が転生した後、コイツ殴って良いぞ。