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盲目マジュヌーン  作者: ヘベロッチDTK
三章 尾行と潜入
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恫喝

 最後の一人は茫然自失になっていた。

 俺はそいつの首を一刀で撥ね飛ばし、死体の服で刀身を拭った。安全なところで戦闘を眺めていた隊長が血の池を避けながら近づいてくる。


「諸君、今夜もご苦労。さて、戻ってお待ちかねの報酬の時間といこうじゃないか」

 一人だけ綺麗な恰好のままの隊長を先頭に、俺たちは集合場所の民家に戻った。金を受け取った連中は次々に姿を消していき、最後に俺が残される。


「注文のブツだ」

 隊長は腰に下げた曲刀を抜き、俺に投げ渡した。

「カイロのスルタンに献上される予定だったものだ。前回と今回の分の報酬では割に合わないが、期待の現れだと思って受け取るがいい」


 俺は鞘から曲刀を払った。分厚い刀身だ。刃は丁寧に研がれているが、無駄に鋭くはしていない。実践を分かっている人間の仕業だろう。ダマスクスの刀工と言えば俺の故郷にまで名を響かせていたが、高名に偽りのない出来栄えだ。


「報酬分の働きはする」

 それだけ言って、俺は民家を後にした。少し歩いて来た道を戻る。


 隊長がミスバ片手に民家から出てきた。出発前に赤々と燃えていた焚火は消され、辺りは闇夜に包まれている。

 ジンの眼で見通しても近くに人はいない。俺は足音を殺して隊長の背後に近づき、ミスバを持つその腕を斬りつけた。同時に背中を蹴り飛ばし、落ちていくミスバを受け止め遠くに投げ捨てる。


「騒ぐなよ、偉そうにしやがって!」

 アスワドが意気揚揚と口を挟んできた。斬られた腕を押さえて蹲る隊長の視線に、俺は曲刀の切っ先を差し込んだ。

「騒げば殺す。歩け」


 隊長は弱弱しい唸り声を洩らすだけ動こうとしない。その頬に切っ先を突き刺すと、隊長は飛び上がって従順に歩き出した。

「カ、カラジャ、何が不満なんだ。用意したそれは良く切れるだろう?」


 軽く背中を刺して応えた。それきり隊長は黙り込む。近くの適当な路地に入ると、俺は隊長の顔を何発か殴って地面に座らせた。その首筋に薄皮が切れる程度の力加減で刃を当てる。

「新種のハシシの出所はどこだ」


 知らない、そう言い掛けて動いた喉が切れる。俺は少しだけ曲刀を引いた。

「ハシシ担当の幹部に聞いてくれ、俺は何も知らない」

「そいつはどこにいる」


「知らない。戦闘部隊とハシシ担当は繋がりがないんだ。それと戦闘部隊と同じなら複数人を束ねる幹部がいて、その幹部を束ねる大幹部がいる。おそらくハシシの出所を知ってるのはスルタンとそいつだけだ。少なくとも俺は知らない」


 元々烏合の衆とは言え、ここまでぺらぺら喋られると信憑性に疑問が出てくる。もう数発殴り、再び隊長の首に曲刀を這わせた。アスワドが呆れたような息を洩らす。

「お前さん拷問のやり方も知らねえのか?」


「知るわけがない。お前は知っているのか」

「いや、知らん知らん」

 アスワドとはこういう奴だ。聞いただけ時間の無駄だった。俺がマジュヌーンだった事に驚いているらしい隊長が眼を丸くしている。


「その大幹部の居場所を言え」

「だから担当が違うんだ」

 隊長が唾を飛ばす勢いで捲し立てた。

「俺が会った事があるのは戦闘部隊の大幹部だけだ」


 どちらにせよ組織の頂点に立つスルタンなら全てを知っている。ハシシを捌いている奴らを気にする必要はないか。

「ならそっちでいい。どこにいる」

 隊長の顎から垂れた冷や汗が首から流れる血に混じり、服に染み込んでいく。


「し、知らない。お前たちが俺の居場所を知らないのと同じだ。それも会う場所も毎回違うから普段どこで何をしてるかなんて分からない。本当だ、信じてくれ」

 ここで嘘を吐けば殺されるのは分かっているだろう。命を懸けてまでスルタンを守る忠誠心もあるまい。隊長を囮に使って大幹部を誘き出すのが手っ取り早いか。


「大幹部に連絡を取って呼び出せ、今夜中にだ。そうすればお前を見逃そう」

「無茶言うな。連絡は全て向こうからなんだ。俺の方から連絡を取る手段なんてない。チクったりしないからそれまで待ってくれ」


 参ったな。

 この腑抜けた男が命の危機を前にして嘘を吐いているとは思えないが、俺が昼間動けない以上、その間隊長はずっと野放しになる。受け入れられるわけがない。


「駄目だ。連絡手段がないならどうにかして異常を知らせろ。部下を全員殺すなり集合場所の家を破壊するなりすれば、向こうから連絡が来る筈だ」

「それでも今夜中は無理だ。せめて一日待ってくれ」


 一日たりとも余裕がないのが俺の置かれた状況だ。いや、頼りたくはないがリヤードがいた。一応、あいつを使えば問題は解決するだろう。

「ちょっと混ぜ──」


 ──その声が聞こえた瞬間、俺は隊長の首を撥ねていた。誰かに見られた──頭が理解した時には勝手に躰が動き、手の届く危険を排除していた。声のした方を振り返る。


「あー、殺しちゃったのか」

 戦闘部隊の同僚だった。見られた以上はこいつも殺すしかない。

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