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作者: 渚のいん

2011年にオカルト・超常現象をテーマとした創作同人誌『PLAN9 FROM OUTER SpFILE』に掲載した短編です。


先に投稿した『のぞく』がベースとなっています。

発表当時「この話は卑怯だ!」という褒め言葉をいただきました。

光栄です。


※pixivに掲載済みのものを加筆修正して投稿しています。

 裕くんはUFOが大好きな小学4年生です。

 小さい頃に、テレビでミステリーサークルを作るUFOの衝撃映像を偶然見てしまって以来のUFO好きです。

 どの位好きかと言うと、お小遣いを貯めてコンビニで大人が買うようなオカルトの本を買ったり、新聞のTV欄を毎朝チェックして、そこにUFOの文字があればその日は一日興奮しっぱなしになる程です。

 だから裕くんが毎日こっそり、ランドセルの中にお気に入りの宇宙人目撃情報満載の本を入れて学校に通っているのも、当然と言えば当然でした。

 勿論校則違反です。

 担任の先生は学年でも優しい方ですが、それでも見付かったら没収でしょう。

 裕くんも宝物をそんな形で失いたくはないので、周りに人がいる時は絶対に本を出しません。

 それでも、どうしても読みたくなる時があります。

 そんな時は、放課後教室に誰もいなくなってからこっそり、本を取り出してページをめくるのでした。

 家に帰ってから心置きなく読めばいいものですが、タブーに挑んでいるという行為そのものにも裕くんは魅せられているようでした。

 今日も人気の無い教室で、裕くんは本を広げます。

 夕暮れが淡く赤く机を照らしています。

 何度読み返したか分かりません。

 それでもその度に裕くんの胸は高鳴るのです。

 ところが、その時です。

 鼓動が止まるかのような驚きが襲いかかりました。


「裕くん」


 誰かが後ろから呼びかけたのです。

 反射的に本を閉じ、椅子ごと回る勢いで裕くんは振り向きました。

 そこには佳奈ちゃんが立っていました。

 同じクラスの女の子ですが、隣の席どころか同じ班になった事もありません。

 だから話した事もほとんどありません。

 それに、長い髪と猫背のせいかあまり目立つ子でもありませんでした。


「宇宙人、好き?」


 突然聞かれました。

 本の内容が見えたのでしょう。

 何とか平静を装って、裕くんは本をランドセルにしまい込もうとします。

 恥ずかしさが先に立っていました。

 秘密の趣味が露見した時はそういう物でしょう。

 ところが、その手を止めさせる追い打ちが裕くんに投げかけられました。

 佳奈ちゃんが裕くんの手にしたそれを指差して言います。


「宇宙人大図鑑、だよね」


 それは裕くんの宝物、去年本屋さんで見付けてから、お母さんに頼み込んでお年玉の貯金を下ろしてもらって買った、その本の名前だったのです。

 裕くんは驚きを通り越して呆然としてしまいました。

 佳奈ちゃんは中身を少し見ただけでした。

 なのにこの本が何なのか分かったのです。

 俯き気味の佳奈ちゃんの表情は、垂れ下がった前髪のせいもあって良く分かりません。

 でも、何となく微笑んでいるように、裕くんには見えました。


「うちにもあるよ」


 一歩、裕くんに近付きながら、佳奈ちゃんが言います。


「もっと色々あるよ。宇宙人とかUFOとかの本」


 又、一歩。

 裕くんより背が低い上猫背な佳奈ちゃんのつむじを見下ろすくらい、近い距離です。


「見たい?」


 ちら、と佳奈ちゃんが見上げます。

 初めてその顔を裕くんは見ました。

 佳奈ちゃんって、垂れ目だな。

 そんな事をぼんやり考えながら、裕くんは力強く頷くのでした。


 その次の日からです。

 一度家に帰ってから、本を持ち出した佳奈ちゃんが裕くんの家にやってくるようになりました。

 てっきり佳奈ちゃんの家に行くのだと思って緊張していた裕くんでしたが、佳奈ちゃんのお父さんが家で仕事をしているので、友達を上げられないのだそうです。

 でも、女の子が家に来るというのも、それはそれで緊張するものでした。

 二人とも珍しく塾には行っていないので、時間はたっぷりあります。

 毎日学校が終わるとすぐ佳奈ちゃんはやってきます。

 大事そうに両手で本を抱えてやってきます。

 いつも息を切らせて玄関に現れるので、走って来るのでしょう。

 そして、裕くんの部屋で、近くの児童公園から夕方五時を知らせる音楽が流れるまで、二人で読書に励むのです。

 息子にガールフレンドが出来た、とお母さんは思っていますが、それを直接本人に言う事はありません。

 そろそろデリケートな対応が求められるお年頃です。

 その辺りの機微を読むのは得意なお母さんなのでした。

 ただ、毎日のおやつをちょっとグレードアップさせてあげるさりげない優しさは発揮して見せましたが。

 佳奈ちゃんが持ってきてくれる本、その中には裕くんが一度は読んでみたいと思っていた本もありましたが、大半はその存在を見た事も聞いた事も無い物でした。

 しかも、裕くんや佳奈ちゃんが生まれるよりもずっと前、ひょっとしたらお父さんやお母さんが生まれる前に書かれたような古い本までありました。

 しかも全部の本に、マーカーで線が引かれたり、ボールペンで書き込みがされていたのです。

 どうしてこんなに佳奈ちゃんは凄い本を持っているんだろう。

 ある日思い切って裕くんは佳奈ちゃんに聞いてみました。


「パパがね、UFOの研究してるの」


 そんな仕事があるんだ!

 思いがけない答えに、裕くんは驚きと興奮に包み込まれます。

 佳奈ちゃんのお父さんは、宇宙人が地球にやって来る目的を調べているのだそうです。

 この本はその為の資料で、佳奈ちゃんがお父さんの本棚から貸してもらっているのでした。


「宇宙人はね、地球が危ない時助けてくれるんだって」


 パパが教えてくれたの、と佳奈ちゃんは天井を見つめながら言いました。


「だから色々地球の人とか物とか調べてるの。でもね」


 すっ、と佳奈ちゃんの視線が裕くんに移ります。


「急がなきゃいけないから、時々少し怖い事も、するんだって」


 怖い事?それって何、と聞こうとした時、窓の外から七つの子のメロディが聞こえてきたのでした。


 初めて佳奈ちゃんが家に来てから、三ヶ月が経ちました。

 季節はすっかり夏です。

 夏休みの間も二人の読書会は続いていました。

 流石に宿題や自由研究がありますし、お父さんの実家の秋田に行かなきゃいけなかったりもしたので、毎日会う事は出来ませんでしたが、会える時は欠かさず、お昼ご飯を食べてから夕方の五時まで二人は裕くんの部屋に籠もっていたのでした。

 その日、8月31日も、佳奈ちゃんは本を抱えてやってきました。

 エアコンの効いた裕くんの部屋で、お母さんが持ってきてくれたシュークリームとカルピスを嗜みつつ、裕くんと佳奈ちゃんは本を読み進めます。

 でも、今日佳奈ちゃんが持ってきてくれた本はいつもと少し違っていました。

 今までなら、宇宙人が古くから地球にやってきている証拠や地球人と接触して色々な事を教えてくれる話が載っている本ばかりを持ってくるのですが、この時佳奈ちゃんが用意したのは、宇宙人が地球人を誘拐して人体実験をしている、という衝撃の事実が記された本だったのです。

 そういう事件がある、というのは裕くんも知っていましたが、こんなに沢山の人が実際にさらわれているのか、と裕くんは戦慄します。


「前に、宇宙人は時々怖い事もするって、教えたでしょ」


 佳奈ちゃんが説明します。


「アブダクションって言うんだって」


 パパが言ってた、と佳奈ちゃんが続けます。


「乱暴だけど、地球人を調べるには必要なの」


 そっと、佳奈ちゃんが読んでいた本を閉じました。


「インプラントって、知ってる?」


 聞いた事のない単語でした。裕くんは首を振ります。


「アブダクションされた人の中にはね、宇宙人に機械を体に埋め込まれちゃう人がいるんだよ」


 そんな事までするんだ……

 佳奈ちゃんの本の影響で、宇宙人が優しい存在だと思いかけていた裕くんはショックを受けます。

 まるで実験で使うネズミみたいじゃないか。

 そうも思いました。


「でも、怖い事じゃないよ。パパ言ってたよ、これも全部地球の人の為なんだよって。だって」


 佳奈ちゃんが立ち上がりました。

 着ていた白いワンピースの裾がひらり、舞います。


「あたしも、されたもん」

 

 その時、裕くんは佳奈ちゃんが言った事をすぐには理解出来ませんでした。


 された?

 何を?

 え、え、えぇ!?

 何も言えないまま、裕くんは佳奈ちゃんを見上げます。

 佳奈ちゃんと裕くんの視線がまっすぐぶつかります。

 慌てて裕くんは目を逸らしました。


「ちっちゃい頃パパとお風呂入ってる時分かったの。あたしにね、インプラントあるんだって。だからあたしアブダクションされた事があるんだって」


 佳奈ちゃんはずっと裕くんを見ています。

 気まずそうにそっぽを向いた横顔をずっと見ています。

 佳奈ちゃんは下唇を軽く噛みしめていました。

 水色の靴下の中で足の指がきゅっと握られていました。

 ワンピースに汗ばんだ掌を擦りつけ、言いました。


「見たい?」


 それは、裕くんの視線を自分に戻す、とっておきの一言でした。


 立って、と佳奈ちゃんが促します。

 裕くんは素直に従います。

 その時裕くんは軽い違和感を感じました。

 佳奈ちゃんの背が急に伸びたように見えたからです。

 理由はすぐに分かりました。

 佳奈ちゃんはいつもの猫背を止め、精一杯胸を張って立っていたのです。


「見たい?」


 もう一度佳奈ちゃんが聞きます。

 裕くんは、大きく喉を鳴らして唾を飲み込み、頷きます。


「いいよ」


 言いつつ、佳奈ちゃんの手が自分のワンピースに伸びました。

 膝丈のスカートを掴んだ手は、ゆっくりと上に引き上げられていきます。

 臑から段々、佳奈ちゃんの足が剥き出しになっていきます。

 ちょっとO脚気味の細い足で膝がぽこん、と浮いていました。

 佳奈ちゃんの足は腿まで細くて、その間から後ろの壁が覗いて見えます。

 そして、その付け根に、ワンピースと同じ色の下着がありました。

 裕くんは、こんなにまじまじと女の子の下着を見た事はありません。

 恐らく佳奈ちゃんも、こんな風に同学年の男子に見せた経験など無いはずです。

 でもそんな事はお構いなしに、佳奈ちゃんの手は更に上へと移動していきます。

 お腹が露わになっていきます。

 腹筋が呼吸に合わせて膨らんだりしぼんだりしていました。

 やっぱり細いお腹でした。

 微かに肋骨の形が浮いています。

 一瞬、佳奈ちゃんの手が止まりました。

 その気配に、佳奈ちゃんの股間から動かせなくなっていた裕くんの目がようやく離れます。

 それと同時に、佳奈ちゃんは一気に胸の上、肩胛骨の辺りまでワンピースをたくしあげました。

 二つの膨らみが見えました。

 ささやかですが、確実にその持ち主が女性である事を主張する膨らみが見えました。

 膨らみの先端は薄桃色に色づいていて、堅く尖っているようでした。

 はぁ。

 小さく佳奈ちゃんが息を吐きます。


「お、おっぱい、の少し下」


 掠れた声で佳奈ちゃんが告げます。

 丁度鳩尾の辺りに細く赤い痣のような物があるのに、裕くんは気付きました。

 大きさは小指の第一関節ぐらいで、太さは芯が丸くなった鉛筆で引かれた線ぐらいです。


「さわっても、いいよ」


 思わぬ提案に、裕くんは弾かれたような勢いで佳奈ちゃんの顔を見ました。

 佳奈ちゃんの垂れた目の中で、大きくて黒い瞳が潤んでいます。

 その台詞に導かれ、裕くんの指先が佳奈ちゃんの胸元に向かいます。

 ぎゅっと佳奈ちゃんが目を閉じました。

 裕くんの指が、そこに触れました。

 滑らかで、温かな、肌が、そこにありました。


 その日の夜、裕くんは明け方近くまで眠れませんでした。

 佳奈ちゃんの裸が、まるで目に焼き付いてしまったようで、目を閉じる度に浮かんでくるのです。

 しかも同時に、右手の人差し指がその手触りを思い出してしまいます。

 寝不足と戸惑いを抱えて、次の日裕くんは学校に向かいました。

 どんな顔で佳奈ちゃんに会ったらいいのかちっとも分からず、学校に近づくにつれて、裕くんの足は重くなる一方でした。

 何とか遅刻寸前で教室に入った裕くんは真っ先に佳奈ちゃんの席を見ました。

 佳奈ちゃんはいつもと変わらず、背中を丸めて座っています。

 目を閉じてもいないのに、あの時の佳奈ちゃんが目の前に現れた気がして、裕くんは椅子に座るや机に顔を伏せてしまいました。

 日直が先生の到着を告げ、朝の挨拶を始めても、裕くんは顔を上げられませんでした。

 その時、先生が佳奈ちゃんを呼ぶ声がしました。

 椅子を引く音と教壇に向かう足音が聞こえます。

 何だろう。

 興味に負け、裕くんが前を見ます。

 そこで裕くんが見たのは、佳奈ちゃんの転校の挨拶だったのでした。


 佳奈ちゃんは引っ越していきました。

 別れの言葉も無く、いなくなってしまいました。

 地球が滅亡する前にUFOが選ばれた人間を救いに来る。

 その約束の場所に行くのだ。

 そう言って佳奈ちゃんのお父さんが佳奈ちゃんを連れていなくなった、という噂を後で裕くんは聞きました。

 向かった先が北海道だ、とかフランスの村だ、とかそれからも色々と耳にはしたのですが、どれが本当なのか、そもそも本当の事なのかも、裕くんに知る術はありません。

 ただ、これ以降裕くんは、UFOや宇宙人の本を開くと、どうしても佳奈ちゃんの、ワンピースをまくり上げて白く細い体を晒した佳奈ちゃんの記憶が蘇ってしまうようになりました。

 UFOは今でも好きです。

 大好きです。

 でも、どうしても集中出来ないのです。

 どうしても佳奈ちゃんの姿が消えないのです。

 何故でしょうね?

2024年12月1日に東京ビックサイトで開催される文学フリマ東京39で、UFOや超常現象など、我々の世界をささやかに彩る事象を、肯定/否定などの立場を越えて慈しむサークル「Spファイル友の会」(G-59)から『UFO手帖9.0』が頒布されます。

小説ではありませんが私も「UFOと漫画」というエッセイで参加していますので、ご来場の際はぜひお立ち寄りを。

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