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第七話:ゴブリン対スライム

 レタンのゴブリン討伐依頼、残念ながらマジだった。

 だから俺たちは町はずれの森の中にいる。

 ルレーフの森と呼ばれるこの場所は比較的暖かく、木々の間から木漏れ日が差し込んでいるため割と明るい。旅人が通れるような道もできているので、散歩するにはもってこいだ。人の管轄下にありそうだから強力な魔物は現れない……といいな。

 自信が無いのに何故来たのかって?タウロスサンドと新しい服に買い与えられたから断る事なんてできませんでした。

 買収された俺をアロンが睨みつける。


「だから早く行こうって言ったのに」

「ゴメンって。てか、アロンも美味しそうにタウロスサンド食べてたじゃないか。かぶりついているの見たんだぞ」

「う、だって美味しそうだったんだもん」


 先頭レタン、最後尾のピノに聞こえないよう、小声でアロンと喧嘩する。エイジン様は街で仕事があるんだと。

 なぜ商人で非戦闘員のピノがいるのだろうか。


「ついでに薬草を採取しようと思いまして。今なら頼もしい護衛もいますし」


 異世界人たくましい、じゃないと生きていけないのか。でも俺は護衛としてカウントしないでね。言葉通り見掛け倒しなので。

森の中を歩いているが魔物が出てくる気配はない。ぜひこのまま草むらの影とかでのんびりしていただきたい。

 ちょっと暇になってきたな。


「ピノさ、薬草ってどんなやつが取れるの?」

「お、ソーサク一緒に集めてくれるの?ピノちゃん嬉しい。えっとね、この辺だと確か……薬草と毒消し草、あと煙り草が採取できるかなっ☆」


 なんかどれもゲームでできそうな名前ばかりだな。特徴は無いのか。


「薬草って言っても色んな種類があるし、この辺は黄色い花と赤い木の実がついているタイプがメジャーだよ。それっぽいのがあったら教えてね。毒消し草は……たしか日陰に自生する紺色の葉っぱだったかな」


 薬草と毒消し草は名前通りのものとして、煙り草ってどんなやつなんだ?


「ソーサクさん、これです。この白い綿みたいな、ふわふわしたものがついているのが煙り草です」

「お、アロンすごいじゃん、もう見つけるなんて。これを細かく刻んでばらまくと、辺り一面に霧が立ち込めたようになるんだ。モンスターの視界を奪えるから、よく冒険者が奇襲するときのお供で売れるんだよね」


 霧が立ち込めるのか、特撮で怪獣が歩いているときに土埃が舞い上がるが、それに使えそうだな。俺も集めておこっと。

 そんな感じで不真面目三人組は道草を食いつつ、さらに奥へと入っていく。すると先行していたレタンが足を止めた。


「静かに……この先にいる」


 茂みの奥を覗くと、四体のゴブリンがスライムを取り囲んでいた。

 レタンこの後、どうするの?


「正々堂々と……」

「スライムとゴブリンを戦わせて漁夫の利を狙うのがいいと思いまーす」


 ピノに賛成しよう。ゴブリン対スライムなんて地球なら絶対に見れない。いい機会だし、しばらく観察しよう。

 ゴブリンは俺とアロンを襲った個体と同族らしく、身体は緑で尖がった鼻と大人の腰くらいの大きさだ。手に武器を持っているが個体ごとに違うのは、どこかで拾ってきた武器なのかな。手入れもされていないし。

 かたやスライムも緑。ゴブリンの汚い緑と違い、スライムは鮮やかな黄緑だ。楕円形の身体をゼリーや寒天のようにぷるぷる振るえさせて、四体相手に威嚇している。


「ちょっと、あれ可愛いんだけど」


 アロンの反応から女子受けは良いようだ。まあ、バスケットボールサイズの生物が威嚇しても怖くはないか。

 両者の紹介が終わったところで戦いに注目しよう。先に仕掛けたのはゴブリンだった。錆びたナイフをスライムに突き立てる。

プリンをフォークで刺したように、ナイフはぬるりとスライムの身体に埋まっていく。このままスライムの身体がぐちゃぐちゃになるかと思いきや。


「ナイフが……溶けている」


 俺の隣、レタンが驚いている。

 スライムの身体は酸でできているらしく、ゴブリンのナイフは跡形もなく溶けてなくなってしまう。そのままゴブリンの腕も取り込んだが、何の変化もない。

 レタンが目を細める。


「どうやらあのスライム、生物を溶かすことは出来ないようだな」

「グリーンスライムですね、あれ。金属とかレンガとか平気で溶かして食べちゃうんですけど、それ以外は無害な魔物です」


 ピノが言うには無機物は溶かせるが、有機物は溶かせないスライムらしい。

 鎧姿のレタンが突っ込んでいったら、今頃装備を食われて大変なことになっていただろう。


「じゃあゴブリンはスライム倒せないってこと?」

「うーん、スライムは火属性の魔法に弱いですが、ゴブリンが魔法を使うなんて無理ですね。ドローでしょ。あ、金属さえなければ、人間にも無害だしー、放っておいてもピノ的には問題ないかなって☆」

 

 ふざけた口調に似合わず博学な商人は、スライム対ゴブリンの戦いに興味を無くしたらしく、辺りを見渡して売れそうな物を探している。

 しかし何も見つからなかったのか。スライム対ゴブリンの観戦に戻ってきた。


「何か見つかった?」

「なーんにも。薬草、スライムに食われたのかな。あれ商人の敵だろ、可愛くねえ」


 薬草は有機物だからスライムの餌食にならないのでは?

 俺とピノが底辺魔物の戦闘に興味を無くし始めたころ、これまで沈黙していたアロンが声を発した。


「皆さん、今じゃないですか?ゴブリンの武器が無くなってますし」

「行くぞっ!ソーサク、アロン」


 レタンが飛び出した。ステゴロのゴブリンに剣をもって突撃するんですか。

 俺とアロンは二人で顔を見わせる。


「追うしか……ないんじゃないかな」

「え、無理ですけど」


 はあ。二人で大きなため息をついてレタンの後を追った。

 急ぐこともなかろうに、やれやれ。

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