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主は有名なのです


 エミリーが自宅にやってきた。お金が貯まって畑を拡張したのだという。農業ギルドでイチゴの高設栽培のセットも買ったので手伝って欲しいと言われて俺は初めて彼女の自宅兼畑を訪ねた。移動の途中でNPCじゃない家がぽつぽつと見えていた。家と畑を持つプレイヤーが少しずつ増えているみたいだ。


「よその家の中でも従魔を呼び出せるんだけどいいかな?」


「もちろん」


 俺が指輪を触ってしばらくするとタロウとリンネがエミリーの家の庭に現れた。タロウはすぐに俺に体を寄せて来、リンネは頭の上に登ると周囲を見渡す。


「ここは主のお友達の家なのです?」


「そうだよ」


「綺麗なお庭なのです」


 リンネが言うとありがとうというエミリー。彼女の家も和風でこじんまりとした平屋の一軒家だ。大きさは俺の家の方が大きいが本当はこれくらいで十分なんだろう。合成もしないのならあえて工房を置くことも必要ないしな。彼女は庭に花壇を作っていて綺麗な花が咲いていた。農業ギルドで花壇を販売しているらしい。そんなのが売っているなんて全然知らなかったよ。



 畑というか果樹園は俺の家の畑の半分ちょっとの広さだった。元々はこの半分だったらしいがお金を貯めてやっと拡張できたと喜びながら教えてくれた。半分はりんごとみかんの木が植えられている。何もない畑の部分が新しく買った部分だろう。


「ここでいいのかな?」


「そう」


 俺は彼女に端末の使い方を教える。まずはビニールハウスの向きを決めて確定ボタンを押すと新しい畑にビニールハウスが現れた。中に入って高設栽培の棚を設置、それからイチゴを入れる鉢を並べていく。高設栽培の高さはエミリーの希望で地上から80センチにする。俺の家は1メートルだが当人が作業がしやすい高さにした。鉢を並べてイチゴの種を蒔いて出来上がり。エミリーには従魔がいないのでビニールハウスの出入り口は扉式でいいだろう。


「立派なイチゴのお家ができたのです」


 俺の頭の上に乗って一緒に歩いていたリンネが言った。隣を歩いているタロウもガウガウと言っている。


「うん。これでいいんじゃないかな。毎日水と肥料をやっていると成長するよ」


「ありがとう。確かに高設栽培にしたら肥料や水やり、そして収穫が楽ね。タクもそうしているの?」


「いや、俺ん家には妖精がいるんだよ。彼らがいるから肥料はいらない。水やりはタロウとリンネがやってくれる」


「妖精?なにそれ」


 庭にある精霊の木が大きく育ってそこに妖精がやってきたんだと話をした。土の妖精と木の妖精の2体の妖精がいて彼らがいると肥料がいらないんだよと説明する。


「タロウとリンネのお友達なのです」


 リンネがそう言うと凄いわねと言ってから今度その妖精に会わせて欲しいという。


「いつでも大丈夫なのです」


 俺の代わりにリンネが答えてくれた。


 エミリーの家にも縁側があった。そこに座って果樹園とビニールハウスを見ながら話をする。


「イチゴは高値で買い取ってくれるから短期間でお金が貯まるんじゃないかな」


「タクは今は何を育てているの?」


 聞かれるままに育てている作物を言ったが梨と言ったところで彼女が梨?と聞き返してきた。梨はここではないからな。俺が梨の苗木をもらった背景を話すると、


「そう言う方法で苗木を手に入れることもできるんだ」


「レストランで梨が出てきたときはびっくりしたんだよ。俺の大好物だからさ。それで聞いたら果樹園の人を教えてくれたんだよね」


 感心して聞いているエミリー。彼女は祖父母の田舎の家がりんご農家だったこともあり、りんごを中心にしてみかんと今回のビニールハウスのイチゴで十分だと言う。


「従魔もいないしね。1人でやるのならこれくらいで十分」


「農業のサポートなら小熊が優秀らしいけど当たり外れがあるって農業ギルドのネリーさんが言っていたな」


「そうなのよね。でも従魔がいると楽しいかも。試練の街だと一緒に歩けるのでしょう?」


 俺が頷くと今度仲間と小熊のテイム狙いで西の方に行ってみようかなと言っていた。従魔は農作業の手伝いはもちろん、普段一緒にいると癒しにもなるしね。俺は頑張れと励ましておいた。


 また妖精を見にいくねというエミリーにいつでもOKだよと返事をした俺たちは同じ開拓者の街にある自宅に戻ってきた。



 自宅から試練の街に飛んだ俺たちはジョンストンさんの経営するレストランに顔を出した。店に行くとジョンストンさんがテラスにまで出てきてくれた。原生林のモンゴメリーさんの家に行って梨を渡して褒められたという話をする。

 

「そうか、あいつは元気だったか。いや1ヶ月に1度街に帰ってくるというか自分の畑で収穫した梨を売りにくるんだが、あの野郎は俺の店に顔を出さずにすぐに戻ってしまうんだよ。ここ3ヶ月程会ってないんだよ。まぁ元気だったのなら一安心だな」


 そのあとこのレストランで食事をする。タロウは例によってテラスの床に腰を下ろしてリラックスしていて、リンネは俺の食事中はタロウの背中に乗っていた。


「主、お食事が済んだら外に出るのです」


「そうだな。経験値を稼ごうか」


「稼ぐのです」


「ガウガウ」


 食事をすませるとまた来ますと店を出て、その足で街の外の森の中で経験値を稼ぐ。タロウもリンネも戦闘となると俄然やる気を出すんだよな。3時間程外で敵を倒しているとレベルが75になった。


「これでまた強くなったのです」


 タロウもリンネも75になった。リンネの言うとおりこれでまた少し強くなっただろう。夕方に市内に戻ってくると同じ様に外から戻ってきたのか多くのプレイヤーが通りを歩いていた。リンネは俺の頭の上に乗っているし、タロウはもう大きさだけは立派なフェンリルだ。目立つこと目立つこと。


 リンネもタロウも見られても平気なのかいつも通り平然としているが俺は浴びせられる視線が気になって仕方がない。


「皆が主を見ているのです。有名なのです」


「やめてくれよ、前にも言っただろう?有名になんてなりたくないって。それに有名なのは俺じゃなくてタロウとリンネの方だぞ」


 実際その通りだ。通りを歩いていて聞こえてくる声は


「頭の上に乗っているリンネちゃん可愛い」とか「タロウは大きいけど可愛いわね」とかばっかりだ。中には、


「初めて見たわ、フェンリルのタロウと九尾狐のリンネ。なに、すごく可愛いじゃない」

 

 そう言ってスクショを撮ってくる女性プレイヤーもいる。

 どの場合でも俺の名前は全くでない。それが普通なんだと分かっているんだけどさ。


「主が有名なのです。タロウとリンネの主は一番なのです」


「分かった分かった。だからもう少し小さな声で話しような、リンネ」


「主は恥ずかしいのです?」


「その通りだよ」


「ガウガウ」


「タロウが気にするなと言っているのです。リンネも気にするなと言うのです」


 気にするっちゅうねん。


 俺はタロウとリンネを宥めながらなんとか別宅に戻ってきた。すぐに裏庭からマリアがやってきた。今日の活動が終わって俺たちが来るのを待ち構えていた様だ。しばらくしてスタンリーも裏庭から俺の庭にやってきた。マリアはタロウを撫でていてご満悦の表情だ。タロウもマリアの好きにさせている。リンネは俺の頭の上に座っていてスタンリーを見ると挨拶をする。


「いらっしゃいませなのです」


「こんにちは」


 先にリンネと挨拶を交わしてから俺に顔を向けると軽く手を上げた。俺も同じ様に手を上げて応える。


「レベルはどうなってる?」


 俺との挨拶を交わすと聞いてきた。


「やっと75だよ。道のりは遠いね」


 スタンリーもマリアもレベルが79になったところだという。相変わらず早いというか効率的にレベルを上げているな。印章も順調に貯まっているので近々攻略クランとして印章30枚のNM戦の連戦をする予定らしい。


「気分転換になるしな。アイテムも出るしベニーも出る。メンバーからもレベル上げ以外のイベントもやろうという声が大きくてね」


 俺は持っている印章は90枚を超えているがまだやったことがない。そのうちにやろう。スタンリーによると今の最高レベルは彼らの79で、クラリアらの情報クランのメンバーも79らしい。情報クランも頑張ってるな。あとは78まで上げているプレイヤーがいると言っている。全員がレベル70からスタートしたから似たようなレベル帯が多くなるのかな。


「レベルが85になるまではこの街から動けないだろう。だから多くのプレイヤーが今試練の街に来ているんだ。しばらくここは賑やかだぞ」


 そうなるとこれからも通りを歩くと大勢に見られるってことか。


「主も頑張ってレベルを上げるのです。リンネとタロウが協力するのです」


「そうだな。お前たちが頼りだよ」


「任せるのです」


 リンネが言うとマリアに撫でられているタロウもガウガウと声を出していた。周りから見られるのは仕方がないと諦めるしかなさそうだ。



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