白の神魂石が出た
胴衣の出来栄えには大満足だ。お願いした時のイメージよりもずっと優れた物に仕上がっている。合成費用は高くても支払うつもりだ。そう思っていたらマルチナが別の提案をしてきた。
「それについてはお願いがあるの」
「お願い?」
「そう。タクが作っている従魔の置物を1つくれない?それで今回の仕事の代金とさせて」
「いやいや、それならマルチナが損してるだろ?」
裏起毛付きの皮の胴衣にソリ、それと焼き物、どう見ても釣り合わないぞ。
「確かに儲けはないけど大赤字でもないの。それよりもバザールで売っている従魔の置物、以前から欲しいと思ってたんだけど買う時間がないのよ」
バザールでの彼女のお店は閉店時間近くまでお客さんが来て、彼女の商品が売り切れる前に俺のテントが売り切れて閉店しているので欲しくても買えないそうだ。
「なるほど。分かった。そういう事なら」
俺は5体の従魔が並んでいる一番新しいデザインの置物と、従魔の絵が描かれているお皿とマグカップ、あとは自宅の畑とビニールハウスで採れた梨といちごを詰め合わせて彼女の前に置いた。
「こんなに?これじゃあ貰いすぎじゃない?」
「大丈夫。これでもまだ俺が貰いすぎていると思う」
俺がそう言うとリンネが言った。お前まだソリに乗ってたのかよ。
「主が大丈夫と言えば大丈夫なのです。気にしなくても良いのです」
「リンネの言う通りだよ」
「じゃあ遠慮なく頂くわ、ありがとう」
「こっちこそありがとう」
「ガウガウ」
「実際に使ってみて、もし不具合があったら言って。手直しするから」
「分かった。ありがとう」
彼女は端末に焼き物や果物を収納すると工房で作業があるからと先に帰って言った。
俺とトミーとクラリアは庭から縁側に移動する。タロウの胴衣は外しておいた。雪原に出たら装備してやるよ。ソリと胴衣を収納に戻す。
縁側に座った2人にお茶を出してから俺も腰を下ろした。タロウは精霊の木の根元で横になり、ランとリーファとクルミは船に乗って川を泳いでいる魚を見ている。リンネだけが俺の膝の上に乗ってきた。背中を撫でてやると9本の尻尾を振って喜んでくれる。
マルチナが来る前にクラリアとトミーに川を泳いでいる魚を見せると驚いていたよ。
「タクが釣った魚か」
「そうそう、水の街で釣ったんだ。川に放流しても敷地から出ていかないからね。ランとリーファとクルミは船に乗って魚が泳いでいるのを見るのが好きみたいだよ」
そんな話をしていたので今も3体が船に乗って川を覗き込んでいるのを見ても本当に魚が好きなんだな。なんて言っている。
「それにしてもさ、よくソリを思いついたわね」
川の方を見ていたクラリアが顔を戻して言った、
「タロウに乗って駆けるという手もあるんだけどさ、せっかく雪原のエリアで雪が積もってるんだし、ソリに乗って移動するのも楽しそうだなと思ってね。タロウにソリを引っ張らせたら移動が早くなるんじゃないかって気がついてさ。ソリは作ったんだけど皮の胴衣を作るスキルがなかったから彼女に頼んだんだよ」
2人によると情報クランのメンバーで雪原のエリアでホワイトウルフをテイムしたプレイヤーがいるそうだ。彼らはどのエリアに言ってもそこで出てくる魔獣をテイムできるかどうかを確かめている。
「タクのこのソリを見たので、ホワイトウルフ1体でソリを引くことができるかどうかを確認しないとね。ひょっとしたらソリを1つ引くのに従魔が2体必要になるかもしれない」
確かにタロウは大きいし強い。普段から俺を背中に乗せて走り回っていることもありフィールドにいる魔獣とは違う。
「ただ従魔を呼び出すと枠を使うからね。パーティでソリを使って移動するのは難しいかもね」
「そうだな。ソリに乗って移動中に魔獣と戦闘になったら大変だ」
トミーが言ったがそれは確かに問題だよな。
2人はソロプレイヤーならソリを使うメリットはあるんじゃないかという。俺の場合はほとんどの活動がソロだから、雪原の移動がソリで楽になるのならどんどん使うつもりだよ。戦闘というよりも半分遊びアイテムとしてソリを使うつもりなんだ。アラスカや北欧で犬ぞりで移動している動画とかを見ると格好いいじゃない。それがゲームでできるとなるとやらない手はない。
ソリの話が終わると今の攻略の状況の雑談だ。彼らは今レベル108になっていて、ターゲットはレベル110のホワイトウルフ。
「2体リンクしてくるエリアがあるんだ。そこで経験値を稼いでいるところさ」
「今のところはいやらしい攻撃もないのでパラディンがしっかりと受け止めて対処してるけどね、この先はわからないよね」
ホワイトウルフのゾーンを抜けたら次はどんな魔獣が出てくるのか。ひょっとしたら遠隔攻撃や魔法を使う獣人かもしれない。それに対処するためにしっかりとレベルを上げるんだと言っている。情報クランも攻略クランもレベル115になるまでは次の街を急いで探す必要もないという考えだ。
「装備の更新をしないと先に進んでも苦労するだけだって分かっているし」
「こっちはタクと違って装備の強化分、せいぜいレベルで1から2程しか上がってないからな。無理はできないというのもある」
「主は特別なのです。なので落ち込む必要はないのです」
リンネは2人が落ち込んでいると思ったみたいだ。俺は彼らは落ち込んでないぞと言おうとしたが、その前にトミーが笑いながら、リンネの主は特別だからな。なんて言うものだからリンネが当然なのですとドヤ顔になっちまったよ。
「リンネ、クラリアもトミーも強いのは知っているだろう? それに2人は落ち込んでないぞ」
「分かったのです。でも主が一番強いのは間違いないのです」
「ありがとな」
「それにしてもエリアの景色がほとんど変わらないというのは初めてじゃないかな。雪原と街の南にある山しか見えてない」
他のプレイヤーからもこのエリアは結構きついという声が多く出ているらしい。常に雪が降っているのと、今俺が言った様に景色に変化が乏しい上に視界がよくない雪の中から魔獣が襲ってくるので雪原に出ると気が抜けない。なので多くのプレイヤーがまずは東西の洞窟を目指して南の山沿いを移動しながら経験値を稼いでいるそうだ。
翌日、新しいソリを使うべく雪原の街の北門から外に出た俺たちは北を目指す。街の周囲の積雪が少ないエリアを抜けてしっかり積もっているエリアに来ると周囲を警戒しながらソリと胴衣を取り出すとまずはタロウのお腹にしっかりと胴衣を巻いて、お腹の下でベルトで止める。ソリから伸びているロープを胴衣の左右のフックに引っ掛けると出来上がりだ。
準備ができるとリンネとクルミがソリに乗り、俺はソリの後ろに立った。
「ガウ」
「タロウがやる気満々なのです」
「よし、行こう」
「ガウ」
タロウが一吠えして走り出した。ソリが雪原を滑る様に走る。タロウが体毛を後ろに靡かせながら気持ち良さそうだ。
「主、爽快なのです」
リンネも楽そうだ。風を受けて目を細めてソリの前の板を前足でしっかり掴んでいる。しばらく走るとホワイトウルフを見つけた。ソリを止めてフックを外すとタロウが敵に向かって攻撃する。その姿を見ていても、胴衣が邪魔になっている様には見えない。
クルミの魔法壁とスロウの魔法、リンネの魔法、タロウのキックと俺の刀で危なげなく敵を倒すとまたフックをかけてソリに乗って北に進んでいくと、トミーが言っていた様にレベル110のホワイトウルフが2体固まっているゾーンにはいった。2体を見つけると一旦敵から離れてからソリを降りて準備をする。それから2体を迎え撃つ。これでばっちりだよ。
こんな調子で敵を倒してはソリで北に進んでいると、目の前に雪を被っている森が見えてきた。あれが言っていた森だな。やっと見えてきたけど街からはかなり遠い。
「タロウ、あの森に行くぞ」
「ガウ!」
近づくと木と木の隙間があるのでソリに乗ったまま行けそうだと思って入ってみると、いきなり森の中から矢が飛んできた。慌ててソリから降りるとフックを外す。その間にもクルミは魔法壁をかけてくれる。できた子だよ。
森の中にいるのは真っ白な獣人だ。レベルは112。雪男みたいだな。今まで見た獣人よりも大きい気がする。それにしても獣人まで保護色なのか、いやらしいな。
タロウが駆けていき、獣人を蹴飛ばした。そのタイミングでクルミのスロウの魔法がかかり、直後にリンネの撃った火の精霊魔法が顔に当たる。俺が両手に持っている刀を振ると狩人の雪男が倒れた。
「おっ!」
「主、どうしたのです?」
「うん、倒したら白色の神魂石が出たぞ」
「やったー!なのです」
強化石がこのエリアでドロップするのが確認できた。どう考えても115装備の強化に使える石だろう。
「よし、もう少し奥に進もう。ここからは歩くぞ」
「ガウ」
「はいなのです」
タロウの背中にリンネとクルミが乗った。森の中は木の幹はところどころに雪がついているが今まで白色しかなかった世界に幹の茶色が出てきたので新鮮に感じてしまうよ。ただ獣人は木の陰に隠れていて、そこから弓や魔法を撃ってくる。ときにはそのまま襲いかかってくることもある。
それらを倒しながら奥に進んでいると途中でレベルが上がり、106になった。さらに北に進むと森の中に柵に囲まれたエリアが見えてきた。セーフゾーンだ。柵の中には小屋がある。
「あの柵の中に入るぞ」
「元気になる場所を見つけたのです」
森に入って1時間ほどの場所にセーフゾーンがあった。最後に倒した敵、雪男のレベルは113だった。柵の中に入ってそのまま小屋に入ると中には何もなくガランとしている。
「ビューンと飛んでいくのがないのです」
「そうだな。ここはセーフゾーンだから身体を休めるだけの場所だ。みんな、俺たちが一番乗りだぞ」
「ガウ!」
「一番は気分が良いのです」
その通りだ。クルミもジャンプをして喜んでいたよ。




