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マイスターの本気を見たぞ

  タロウの胴衣のデザインは決まったが俺の皮革スキルは低い。完全放置だったからスキルが2だ。1だと思ってたら2だった。何をやってスキルが2になったのかすら覚えていない。


 せっかくタロウに頑張ってもらうのだから頑丈で見栄えの良いものを作りたい。となると加工は皮革のマイスターにお願いするのが一番早い。

 

 バザールで合成用エプロンを買った時の相手が皮革のマイスターだったな。名前は確かマルチナだ。


 端末からマルチナにメッセージを送った。


ー 突然すみません、以前合成の時に使用するエプロンを買った上忍のタクです。特注で作って欲しい皮製品があるんだけどお願いできませんか?忙しいのなら無理せずに言ってください。


 メッセージを送るとなんと数分後に返事が来た。


ー 特注品だそうですけど、作れるか作れないか、とりあえず話を聞かせてもらえますか?


 そりゃそうだな。いきなり特注品と言われても向こうにはイメージがないだろう。俺は端末を手に取ってマルチナに通話を申し込んだ。すぐに相手が出た。


「タクは今どこにいるの?私は開拓者の街の自宅の工房にいるんだけど」


「俺も自宅なんだ。時間があったら会って説明するよ。俺がそっちに行こうか」


「直接聞いた方がよさそうね。じゃあ私がタクの家にお邪魔していい?」


「もちろん。待ってます」


 通話が終わるとやりとりを聞いていたリンネが言った。


「お友達がやってくるのです?」


「そうだ。この家に来るのは初めてのお友達だぞ」


「では、主、お茶と果物を用意して歓迎するのです」


「かしこまりました」


 相変わらず小姑リンネだ。


 数分後、ミントの許可を得たマルチネが庭に入ってきた。作業着の様な格好にエプロンをしている。


「こんにちは、急にすみませんね」


「平気よ、有名なタクの自宅にお邪魔できるなんて滅多にない機会だからね。それにしても噂には聞いていたけど広い敷地ね。川も流れているし」


 庭から畑の方を見ているマルチナ。それよりも俺の家は有名なのか?確かに家は大きいけど、それだけだと思うけど。


 従魔達が彼女に近づいて挨拶をする。リンネが紹介してくれたよ。マルチナは妖精を見るのが初めてだそうでランとリーファに可愛いとわね言ってくれている。カーバンクルのクルミも間近でみるのは初めてだそうだ。


 縁側を勧めてお茶と梨を出した。


「お茶も梨もすごく美味しい」


「妖精が手伝ってくれるからね」


「主が作るお茶も果物も一番美味しいのです」


 リンネがドヤ顔で言ってるぞ。


「私のエプロンをしてくれているのね」


「これ、使いやすくて重宝してる」


 実際使いやすいんだよな。


「ありがとう。それで、何を作ればいいのかしら」


 梨を食べ終えると彼女が早速聞いてきた。


「うん、工房に案内するよ」


 従魔達との挨拶が終わると聞いてきた。俺は彼女を工房に案内する。もちろん従魔達も付いてきた。工房を見てマルチナが驚いた声を出した。


「立派な窯ね。それにバザールで人気の置物が沢山ある」


 その広さにびっくりしているよ。聞くと彼女は皮革製品を作るのがメインなのでここまで工房は大きくないそうだ。


「知り合いのマイスターの工房を何軒かお邪魔したけど、タクのこの工房が一番大きいわね」


「焼き物を作っているからね。それでね、お願いしたいのはこれなんだよ」


 木のソリと皮の胴衣、そしてロープを見せる。


「俺は今、雪原のエリアにいるんだけどさ。雪が積もってるんだよ。それでソリを作って雪の上をタロウに引っ張ってもらって走ろうとしてさ、ソリは出来たんだけどこの胴衣とロープのところがね」


 ソリに乗っていて魔獣を見つけたらソリから降りて戦闘するが、その時にロープが邪魔になるのでタロウが嫌がっているという話をした後で、胴衣のここに穴を開けてフックを引っ掛ける様にしたらいいんじゃないかと思っているんだと説明をする。


「胴衣は外さなくてもいいのよね?」


 流石にマイスターだ。俺の胴衣やソリを見た時から職人の目になってるな。


「タロウ、胴衣は戦闘中はそのまま装備していて大丈夫なんだよな」


「ガウ」


「胴衣は問題ないと言っているのです」


「タロウちゃん、ちょっとこの皮の胴衣をお腹に巻いてもいい?」


 タロウは尻尾を振ってガウと吠えた。問題ないよという仕草だ。マルチナはタロウの胴衣に巻いてからロープを通している。次に端末から巻き尺を取り出すと寸法を測る。完全にプロだ。ロープの長さも測っているよ。


 俺みたいに勘と経験で焼き物を焼いているのとは全く違う。マイスターの本気を見たよ。


 寸法を測り終えたマルチナ。


「分かった。胴衣を作ってそれにロープの着脱を簡単にする。うん、問題ないわね」


「おおっ、やってくれるか」


「新しい製品を作るとスキルが上がるのよ。それに有名なタロウちゃんの胴衣を作れるのなら自慢できるわ。中に乗るのはリンネちゃんとクルミちゃんよね」


「その通り」


 俺は後ろで立つからな。やってもらえると言ってくれて一安心だ。


「完成までどうだろう。数日でできると思う」


「そんなに早く?」


 彼女によると今度のバザールに出品する製品はもう製作済みだそうだ。彼女はソリと皮とロープを借りたいというのでそれらを渡した。


「出来上がったら連絡するわ」


「お願いします」


「お願いしますなのです」



 皮革マイスターに後は任せた。


 俺たちはその後はいつも通り雪原にある東西の洞窟から先に進んで魔獣を倒して経験値を稼ぐ。レベルが上がって105になった。



 マルチナから連絡が来たのはうちの家に来てから4日後だった。彼女から連絡があった時、ちょうど情報クランのトミーとクラリアも来ていた。彼らがいても問題ない。


 マルチナは合成をやっているプレイヤーの中では有名らしく、トミーもクラリアも面識があるのだという。情報クランとして合成関係の情報を得るために何度か会ったことがあるそうだ。戦闘以外でも情報を集めて公開する。だから情報クランはプレイヤーの中で認知度が高く、信用があるんだろう。


「皮革のマイスターとして彼女は有名よ」


「なるほど」


「それで彼女に何をお願いしたんだい?」


「それは見てのお楽しみだよ」


 しばらくしてマルチナが庭に入ってきた。クラリアとトミーを見てあら、久しぶり。なんて言いながら挨拶を交わしている。


「タク、出来たわよ」


「おお、早速見てみようか」


「楽しみなのです」


「ガウガウ」


 庭で彼女が収納からロープが付いているソリと胴衣とを取り出した。


「ソリじゃないか」


「そう。雪原での移動用にソリを作ったんだよ」


「「なるほど」」


 2人が感心した声を出した。


 そう言ったけどソリも変わってるぞ。俺は木で作った箱だったんだが、マルチナが収納から出したソリにはその木枠の箱の中に皮を張ってその周囲に紐を這わし縛って強化してある。しかも皮を張っているその内側、従魔が乗る部分は裏起毛されている。これは暖かそうだ。胴衣も裏起毛になっている。


「それでこのソリをタロウに引っ張ってもらおうと思ってね、彼女にはタロウの胴衣を皮で作って貰おうと依頼したんだよ。でもソリの中までしてくれたんだ」


「そう。ソリ自体にも手を加えたの。木箱の中も暖かい方がいいでしょ?これでいつも足元は暖かいわよ。もちろんロープの先のフックも強いのに変更したわ」


 見るとフックをかける穴も周囲を金属で囲って強化されてる。


 焦げ茶色の皮の裏地にふかふかの白の起毛を縫い付けてある。ロープを引っ掛ける左右の穴はしっかりと金属で補強されていた。なによりも胴衣が長い。俺はもちろん、トミーもクラリアもマルチナが手に持っている胴衣をじっと見ている。ソリも中は暖かそうだよ。


 従魔達も真剣な表情をして見ているよ。


「まず胴衣を長くしたのはロープがソリに伸びた時にタロウちゃんの後ろ足の外側にロープが擦れると痛いかもしれないと思ったの。なので後ろ足が隠れる様に長くして裏起毛にしたの。もちろん、ロープを通していない時の動きに支障が出ない様に調整したわ」


 すごいな。説明を聞いているタロウも尻尾をブンブン振ってるよ。マルチナは情報クランの2人に顔を向けた。


「クラリアやトミーなら知っているけど合成をやっていると複合スキルが要求されることがあるの。今回の場合なら裏起毛を縫う裁縫スキルと皮に金属を打ち付ける鍛治スキルね。メイン以外のスキルをサブスキルと言うの。私はサブスキルを上げていたから1人で出来たわ。木工はスキルを使うほどじゃなかったし」


 なるほど。皮革だけじゃ製品化できないから加工する時の為に他のスキルを会得するのか。窯業は土を捏ねて、焼いて、塗って、また焼いて終わりだからサブスキルはいらないな。木工スキルも俺みたいな船やソリを作るのならいらない。


 早速装備しようとタロウの胴に裏起毛つきの胴衣を巻いた。確かに後ろ足のロープが擦れるところがしっかりと保護されている。ロープも先端にフックをつけ、それを金属でロープと一緒に固定してあるのでズレたり外れたりしない。


 タロウの後ろにソリを置いてフックをかけた。


「これは完璧に仕上がってる」


「うん、サイズ通りね。よかったわ」


 俺がソリの後ろに立って握り棒を掴むと従魔達もソリに乗ってきたよ。乗ってくるのはいいが、動かないよ?


「タロウ、どうだい?大丈夫か?」


 そう言ってロープを強めに引っ張ってみる。


「ガウガウ」


「全く問題ないと言っているのです。タロウはこの胴衣が気に入ったのです」


「流石にマルチナだな」


 黙って見ていたトミーが言った。いや本当に見事だ。プロの職人技を見せてもらったよ。


「タロウも問題ないと言ってる。もちろん俺も問題ない。これで雪原の移動が楽になるのは間違いない。素晴らしいのを作ってくれてありがとう。それでいくら払えばいい?」



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