新しい乗り物だ
新しいエリア、雪原の街があるエリアだけど、まずこの雪原の街が雪原のどのあたりにあるのかが分からない。南に位置しているというのは背後に山があるので分かるが、東西がとてつもなく広く、東西にある洞窟から先に進んでも魔獣のレベルが上がるだけで、森や川と言った違う景色が見えてこない。
じゃあ北方面はどうなっているのかと言うと、雪の草原が続いているが北に進んでいくと降雪量が増えていくそうだ。
「足首まで雪に埋もれる中を進むんだ。もちろん、リアルの雪の中を歩いているのとは全然違うよ。ゲームだから普通に歩ける。でも心理的に歩きにくそうだという圧がかかってくる」
「そうそう。しかも雪は降ってるし、視界は悪い。足跡はしばらくしたら消えるということで自分達がどっちに向かっているのかが時々わからなくなる事があるのよ」
彼らは転移の腕輪を持っているので最後はそれで帰れるという安心感があるが、腕輪を持っていない人に取ったらきついだろうという2人。当然魔獣も四方八方から襲いかかってくるそうだ。
「厄介だな。それでまだ森すら見つかっていないってことだろう?」
自宅の縁側に座っているトミーとクラリア。今日は活動がオフの日だそうで、久しぶりに俺に会いに行こうと2人で来てくれた。攻略クランは活動中らしい。
彼らはレベル107まで上がっていた。こっちはちまちまとやってようやく104に上がったところだよ。
「雪原の街から5、6時間の距離のところを探索しているの。セーフゾーンがあるとしたらそのあたりだから。それでもしセーフゾーンが見つからないとしたら、山裾にある東西の洞窟がセーフゾーンの代わりをしているという事になるというのが私たちの見方なの」
俺はレベルが104なので基本東か西の洞窟を起点にして周辺の108とか109のホワイトウルフを相手に経験値を稼いでいる。
「タクならもっと先にまで進めるだろう?」
レベルは104だがバンダナと加護で実質レベルはそれに12を足したレベルだというのが彼らや攻略クランのスタンリー、マリアの認識だそうだ。
「そうかも知れないけど、こっちはのんびりやってるからね」
マイペースが一番ストレスが無いんだよな。
彼らが帰っていってしばらくして、俺は従魔達と雪原の街の別宅に飛ぶとそのまま北門に向かって通りを歩く。
「主、今日はお外に出るのです?」
「うん、今日は北の門からずっと真っ直ぐに進んでみようと思ってるんだ」
「分かったのです。敵をぶったおしながら進むのです」
北門を出たあたりにはプレイヤーが多くいる。彼らは一角ユキウサギを相手に経験値稼ぎをしている様で、雪原のあちこちで固まって活動をしている。そのおかげで雪の中から襲ってくるウサギの数が少ない。
散歩気分で北に歩いていくとライバルの数が減り、ウサギに混じってホワイトウルフの姿が見え始めた。このあたりの敵のレベルは104から105だ。ライバルが減ったことで接敵することも多くなってきたが、タロウやリンネがガンガン敵を倒してくれるので俺は肩にクルミを乗せて雪原を歩いているだけでいい。楽できる時は楽をさせてもらおう。細かい雪がずっと降り続いているけどタロウやリンネにとっては関係ないな。
さらに北に進んでいくと徐々に積もっている雪が厚みを増してきた。出会うホワイトウルフのレベルが108になっていた。クラリアが言っていたのはこれだな。山裾の東西の洞窟から山裾に沿って移動する時はずっと積雪量に変化はなかったけど、北に向かうと積もっている雪が増える設定になっているのか。
確かに歩くのに困る程じゃないけどなんとなく足に力が入ってしまう。
「主、ガンガンやるのです」
俺が足元を見ている間にタロウとリンネが108のウルフを倒していたよ。
「おう、やってやるぜ」
それから108や109のホワイトウルフを倒しながら北に進んでいった。積雪量は増えたがそれ以上は増えない。これももっと敵のレベルが上がる北に進むと増えるのかもしれない。それにしても足元が気になるな。セーフゾーンがあればいいんだけど視界が良くない中、周囲を見てもそれらしいのはない。一面が雪原だよ。たまに背の低い低木が生えているが葉をつけていなくて枝だけだ。
リンネとクルミが低木を見つけるとその木を駆け上って上から周囲を見るが何も見えないと言っては降りてくる。
もっと楽に移動できたら北の探索も楽になるのにな。タロウに乗って移動するのは有りなんだろうけど、毎回それじゃワンパターンだ。そう思っていると一つ思いついた。
「そうだ!」
「どうしたのです』
俺の声を聞いてリンネが聞いてきた。
「一旦自宅に戻るぞ」
「はいなのです。休憩タイムなのです」
「ガウ」
転移の腕輪で自宅に戻ると木工ギルドから材料を買ってくる。それを工房に持ち込んで作業開始だ。いつもの様にタロウや従魔が中に入ってきた。ランとリーファもその中にいるよ。
収納から木の材料を取り出したのを見ている従魔たち。
「今日は焼き物を作るのじゃないのです?」
「うん、今日は違うのを作るよ」
木工の加工は船を作って以来だけど、船ができたから多分できるだろう。板を切り、反らせ、合わせていく。2時間程で完成した。
「できた!」
「主、それは何なのです?」
従魔達も初めて見るだろうな。
「これはだな、ソリと言って雪の上を滑る様に走る乗り物だぞ」
そう、ソリを作ってみたんだよ。スキー板の様に前が反り上がっている2本の板の上に箱を乗せて固定した。箱の前方にはロープが付いている。
「ちょっと待ってろ」
俺はダッシュで自宅を出ると今度は皮革ギルドで皮を買ってきた。
「タロウ、来てくれるか」
「ガウ!」
そばに来たタロウの背中からお腹に皮を垂らせて長さを計り、それを切るとそこに紐とロープをつけて簡単な胴衣を作った。胴衣の左右の後ろに穴を開けてそこをロープで通してソリまで伸ばしたら完成だ。
「いいか、雪の上でクルミとリンネはソリに乗る。俺はこの後ろに立つ。タロウがソリを引っ張るんだ」
「ガウ!ガウ!」
尻尾をブンブンと振りながら吠えているタロウ。これは大喜びしている仕草だ。
「タロウが任せろと言っているのです」
「よし、じゃあ早速行ってみようか」
「みようか。なのです。レッツゴーなのです」
俺たちは再び雪原の街に飛ぶと、北門から外に出る。出たところはまだ雪の量が少ない。門から少し離れた人に少ない場所でタロウに跨ると北を目指して駆け出した。
北に向かって進んでいると積もっている雪が厚くなってきた。周囲にいるホワイトウルフのレベルは108だ。タロウから降りると収納からソリを取り出し、タロウの背中から胴に皮を巻いてロープをソリまで伸ばした。
「クルミ、リンネ、落ちるんじゃないぞ」
「はいなのです」
ソリの前部分の板をしっかりと前足で掴むクルミとリンネ。
「タロウ、レッツゴーだ」
「ガウ!」
タロウが駆け出すとソリが雪の上を滑る様に走る。これは爽快だよ。タロウも尻尾を振りながら走ってるから気持ちがいいんだろう。
「タロウ、大丈夫か?痛くないか?」
「ガウ!」
「問題ないと言っているのです。主、ソリは気持ちいいのです」
「だろう?タロウの背中に乗って走るのも楽しいけど、ソリも楽しいだろう?」
「はいなのです」
ソリで走っていると雪原にホワイトウルフの姿が見えた。俺たちはソリを止めて戦闘に入るが胴に巻いている皮とロープが邪魔になってタロウの動きが悪い。これは予想していなかったぞ。修正が必要だ。
レベル109のホワイトウルフを倒したところでタロウを呼んで聞いてみるとお腹の皮の胴衣は気にならないがロープが気になるそうだ。
「分かった。家に戻ったら改良する。その前にここらにいる敵を蹴散らして帰ろう」
「やってやるのです」
それから小一時間ほどホワイトウルフを倒した俺たちはその場から自宅に戻った。自宅に戻ると修正だ。どう修正したらいいか。リンネの通訳でタロウに使い勝手を聞く。
リンネの通訳を聞いて、ロープの先に小さなフックをつけて胴衣の穴にひっかける様にに変更した。これならソリから降りてロープの先のフックを外すだけですぐに戦闘態勢にできる。
「ガウ」
「これなら問題ないと言っているのです」




