大きな船に乗ろう
予想通りにそれから2日後、俺たちはレベルが上がって102になった。上がったけど115まではまだまだだ遠い。102になった時にはクルミの身体は光らなかった。100で大きく進化したので当分はないだろうな思っていたのでショックはない。俺も従魔達もレベルアップ分強くなっているのは間違いないからね。
しばらく外で活動する時間が多かったので今日はログインしてものんびりすると決めている。自宅の畑を見て収穫と種まき、そのあとは果樹園で梨を収穫し、最後はビニールハウスのいちごを収穫する。従魔達がしっかりと畑の水やりや面倒を見てくれるので楽だよ。
畑仕事が終わるといつもの通りこの中で従魔達が遊び出した。それまでフードの中にいたクルミもそこから降りると皆と一緒にビニールハウスの中を走り回っている。
しばらくして皆が俺のところに集まってきた。
「沢山遊んだか?」
「はいなのです」
リンネが皆を代表して言ってくれた。ビニールハウスを出るとランとリーファは小さな川に浮かんでいる船に並んで腰を下ろし、タロウは精霊の木の根元で横になり、リンネとクルミは精霊の木の枝に登るとそこで横になった。いつものリラックスタイムだよ。最近は畑の見回りが終わるとすぐに雪原の街に飛んでいたからこうやって自宅でリラックスするのは久しぶりだ。
端末を見るといつもの4人の所在地が雪原のエリアになっていた。レベルは103だ。彼らは今日も外であちこち探索をしているのだろう。
端末の時計を見ると俺はタロウとリンネとクルミを呼んだ。
「主、これからどこに行くのです?」
「水の街に行こうと思ってるんだ。そこから船に乗って森の街に行こう。クルミに大きい船に乗せてあげようと思っているんだよ。クルミも船が大好きだしな」
そう言うとクルミが縁側で何度もジャンプやバク転をする。
「タロウとリンネも大きなお船が大好きなのです。皆で行くのです」
ランとリーファに留守番を頼んで、俺たちは自宅の転送盤を使って水の街に買った別宅に飛んだ。そこから市内に出るとちらほらとプレイヤーの姿が見える。第3陣でPWLにやってきたプレイヤーさんかな?タロウやリンネを見るとスクショを撮るのはどこに行っても同じだよ。最近はそこにクルミも加わっているけどね。
市内を抜けて港に行くと森の街へ行く大きな定期船が桟橋に泊まっていた。毎日12時に出港するのを覚えていたからそれに合わせてこの街に来たんだ。
大きな船を見てクルミが大喜びしているよ。今まで港の街で乗っていた島に渡る船に比べたら段違いに大きいからな。
船に乗り込むとそのまま個室に入った。3体の従魔達のために部屋のバルコニーに続く扉を開けると皆外に出てその場で座り込む。外を見るのはいいけど落ちるなよ。
12時になって船が出港した。ゆっくりと桟橋を離れると向きを変えて湖を進みだした。
「大きなお船に乗ってクルミが大喜びしているのです」
バルコニーで何度もジャンプするクルミ。嬉しいのはわかるけどそこから落ちるんじゃないかと心配になるよ。
「大きな船だろう?港の街から島に渡った時に乗った船よりもずっと大きいぞ」
「ガウ」
タロウも尻尾をブンブン振ってるよ。俺の従魔達は皆船が大好きだよな。
「いつ見ても大きな湖なのです」
「海も広いけど、この湖も大きいよな」
「主の言う通りなのです」
バルコニーに座ってのんびりと外を見ている俺たち。途中で俺は部屋に戻ってきたけど従魔達はずっと外だ。
「日が暮れてきたから部屋に戻っておいで。明日また見られるよ」
そう言ってやっと3体の従魔が部屋に戻ってきたけど今度はクルミとリンネがタロウの背中に乗って窓越しに外を見ている。外が真っ暗になってようやく窓の近くから離れた。
次の朝、バルコニーに出ると陸地が見えてきた。バルコニーにある椅子に座るとクルミが頭の上に乗ってきた。リンネは膝の上に乗ってくる。しばらく見ていると船は川にはいり、窓の先の森の中に煙が立っているのが見えてきた。
「焼き物の街の煙なのです」
「そうだ。土の街から出ている煙だ」
クルミは初めて見る景色で興奮しているのか頭の上で何度もジャンプをする。気持ちはよく分かるけど、落ちないか心配になる。
従魔達は結局森の街の港に着くまでずっとバルコニーから外を見ていた。船は予定通り12時に森の街にある港の桟橋に接岸する。船を降りるとクルミがフードの中に飛び込んだ。
「クルミ、楽しかったかい?」
そう言うとフードから顔を出してくる。
「最初は大きな船でびっくりしたけど楽しかったと言っているのです」
クルミが楽しんでくれたのなら一番だよ。もちろんタロウとリンネも満足しているのは態度を見ると分かる。
「主、これからどこに行くのです?」
頭の上に乗っているリンネが聞いてきた。タロウも顔を上げて俺を見ている。
「せっかく森の街にきたんだから忍具店のシーナさんに挨拶をしてから家に帰ろうと思ってるんだよ」
「挨拶は大事なのです。レッツゴーなのです」
「ガウ」
桟橋から街の中に入って市内を歩くプレイヤーがちらほらといるけど第3陣なのかな?タロウを見るとスクショを撮ってくる女性プレイヤーもいる。
森の忍具店の扉を開けて挨拶をすると奥からエルフのシーナさんが出てきた。
「おや、タクじゃない。久しぶりだね」
「ご無沙汰しています」
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
「背中のフードの中にいるのはカーバンクルだね、珍しい。タクの新しい従魔かい?」
言われてクルミがフードから出ると左の肩の上に乗った。
「そうなんですよ。港の街の奥にある島のダンジョンにいるヌシから頂いた卵を育てたらこの子が生まれてきたんです」
俺の話を聞いていたシーナさん。
「エルフは長寿なのは知ってるよね。カーバンクルは昔、そうずっと昔から幸運を運んでくる神獣と言われているんだよ。見る限りすっかりタクに懐いているね。うん、それでいいんだよ。大事にしてあげるんだよ」
「分かりました」
「クルミもタロウもリンネも皆主が大好きなのです」
頭の上からリンネが言った。タロウもクルミも尻尾を振っている。それを聞いたシーナさんがそうかいとニコニコしながら言ってるよ。
「ところで今はどこにいるんだい?」
「雪原の街があるエリアです」
そう言うとカゲトラの店がある街だねと言う。しっかり横のつながりはある設定になっているんだな。
「彼の作る装備はレベル115以上だったか。タクはいくつなんだい?」
「102です」
「まだまだだね。ただレベル上げは競争じゃないからね。それよりも上忍として強くなる方がずっと大事だよ」
上忍として経験を積めということかな。俺が頷いているとシーナさんが続けて言う。
「刀、術、道具。全てを使いこなすのが上忍だ。実力をつけて良い装備をつけるとさらに強くなる。カゲトラの装備はなかなかのものだよ」
それは楽しみだ。
「分かりました。ありがとうございます」
「ありがとうなのです」
俺たちはお礼を言って店を出た。
店を出るとタロウが身体を寄せてきた。しっかり撫でてやると頭の上から声がした。
「主、これからどこに行くのです?」
「今日はこのまま家に戻って工房で焼き物作りをするつもりだ。明日はまた雪原の街に行って敵を倒すぞ」
「今日はリラックスする日なのです。クルミも大きなお船に乗って大喜びなのです」
肩に乗っていたクルミがタロウの背中にジャンプするとその場でバク転をした。数度してからまた俺の肩に飛び乗ってきた。
「うん。大きな船は気持ちいいだろう?また乗ろうな」
「はいなのです」
リンネが言ってクルミは俺の肩の上でジャンプした。
数日後、この日は午後から雪原の東の洞窟を起点にホワイトウルフを倒して経験値を稼いで、そこから雪原の街にある別宅に戻ってクールダウンしていると隣からスタンリーとマリアが来て、その後でクラリアとトミーもやってきた。
クールダウンといっても庭に座ってのんびりしているのは俺だけで従魔達は庭で雪遊びをしてたんだけどね。雪遊びをしていたタロウは尻尾を振ってマリアに撫でられている。リンネとクルミは俺の頭の上とフードの中に飛び込んできた。
「端末を見たらタクが雪原の街に戻ってきていたからね」
「そういえば会うのも久しぶりだよね」
庭のテーブルに座るとスタンリーが言った。俺は寒いから家の中にする?と言ったんだけどマリアが強く庭を主張した。タロウの近くが良いらしい。
ここ数日は別行動をしていたので4日ぶりくらいになるのかな?俺はまだレベル102だけど彼らは今日104になったそうだ。相変わらず効率的に活動をしているよ。
攻略クラン、情報クランともに今は東西にある洞窟の小屋を起点にさらに遠くまで進んでいるが狼レベルが上がるだけで次の街の姿どころか、聞いている森すら見えないらしい。
「レベル115、あるいはその近くまで上げないと次の街が見えてこない。つまりかなり強い敵がいるエリアに行かないといけないと言うことだ。ただ次の街を探してばかりだと他の何かを見落とすことがあるかもしれない。だから活動範囲は急に広げずに徐々に開拓している、そんな感じだよ」
攻略クランと情報クランは足並みを揃えているそうで、今のスタンリーの話もクラリアらと話し合って当面の方針を決めたそうだ。装備を更新してから次の街、そんな流れになるでしょうねとクラリアが言った。
「新しいエリアに来たばかりだからね。急ぐこともないかなと思ってるんだ」
トミーが言った。彼らは新しいエリアの活動の合間に木のダンジョンにも挑戦中らしい。
「今12層を攻略中でね。エリアのレベル制限があるから楽勝って感じじゃないけど、ルートや敵の情報があるので攻略自体はそれほど難しくはない」
「確かに」
その様子ならもう直ぐバンダナをゲットできそうだな。
「ところでタクはどうしてたの?」
クラリアが聞いてきた。
「もちろん雪原エリアでレベル上げもしたけど、クルミを大きな船に乗せてあげようと水の街から森の街まで船に乗って移動したりしてた。いつも通りマイペースですよ」
「大きな湖と川を見てクルミが大喜びだったのです」
いや、お前もだろう。




