雪原の街
「真っ白なのです」
「次は雪のエリアだったのね」
目の前の草原に細かい雪が降っている。洞窟を出たところから正面の丘の上に向かって土の道が伸びているが草原や道にはうっすらと雪が積もっていた。洞窟の出口は山の裾にあった。
見ていると肩の上でクルミが何度もジャンプをした。
「主、ポンチョを着るのです」
そう言うことか。確かに寒さを感じるんだよね。北風の街の風の冷たさと似た様な寒さだ。ゲームとはいえよく出来ているよ。収納からポンチョを取り出して着ると早速クルミがフードの中に入った。敵と遭遇したら困るけど、これだけ人がいれば何とかなるだろう。何より暖かいのがいい。
「準備がいいな」
隣に立っているダイゴが俺のポンチョを見て言った。
「これクルミが気に入っていてさ、戦闘しない時にはこのフードに入りたがるんだよ。でも確かに暖かいよ」
「なるほど。俺も次のバザールで買うか」
そんな話をしているとスタンリーが近づいてきた。
「タク、先頭を頼む」
「了解」
タロウと俺が並んで歩きだす。リンネは頭の上、クルミはフードの中だ。ゲームでもあり雪道といっても歩きにくいことはない。タロウもリンネも今のところ変わった様子はない。敵はいなさそうだ。万が一敵がいてもこの数なら問題ないだろう。道にはうっすらと雪が積もっているけど普通に歩ける。これもゲームならではだよ。
「タロウ、リンネ。敵はいないか?」
「ガウ」
「気配がないのです。主、あとで一緒に雪合戦をするのです」
「おう、いいぞ」
そう返事したけど、何で雪合戦って言葉を知ってるんだ。それよりもリンネ、お前雪を投げられるのか?
丘の上まで行くとそこから先が見えた。丘を降りた先には石垣で囲まれている街があり、道はその街まで続いている。振り返って背後を見ると雪をかぶっている高い山々が東西に長く伸びていた。
「新しい街だな」
丘の上で街を見た俺たちはそのままうっすらと雪が積もっている道を歩いて開いている城門から街の中に入った。風の街と同じで街の中に入ると外ほど寒く無い。街の中は雪が降っていなかった。
門から入ってすぐのところにいたNPCが声をかけてきた。
「プレイヤーさんかい、街の外は寒かっただろう。雪原の街にようこそ」
「雪原の街という名前なのか」
俺たちは雪原の街に入って少し歩いたところにあるプレイヤーギルドの中に入った。雪原の街は今までの街とは様子が違っていた。市内にもうっすらと雪が積もっている。そして建物だけど、今までとは違ってどの建物も壁が石造りやレンガ造りなんだよ。四角い石を積み上げていて、その隙間にしっかりと砂を入れて固めている。木の窓枠がしっかりと石の壁の間にはまっている。屋根は三角屋根になっていた。雪が積もらない様な形になっているんだろう。
写真で見たイギリスのスコットランドの郊外にある古い家に似ているよ。
ギルドに入るとまずは転送盤の登録だ。皆が転送盤を登録したところでホールに集まった。
「無事に新しいエリアに来る事ができた。受付で聞いたらここで別宅を買う事ができるそうだ」
皆受付でマップ作成クエストを受けると全員がその足で不動産屋さんに向かった。不動産屋さんはギルドの並びにある。そこから一緒に通りをしばらく歩いたところに同じ様な家が立っているエリアというか通りがあった。ここがプレイヤー用の住居が並んでいる場所らしい。
大通りに一番近い場所、通りを挟んで向かい合う様に情報クランと攻略クランが買い、俺は攻略クランの隣に買った。すぐに庭で行き来できる様にする。
別宅は2,000万、転送盤は1個100万だった。幸いに金はあるので即買った。この別宅も石作りになっていて、庭にはうっすら雪が積もっている。
「これでまた密談ができるぞ」
密談は俺の家、これは決まっているそうだ。
情報クランも攻略クランはとりあえず別宅に転送盤を設置してオフィスがある開拓者の街にも戻るそうだ。情報クランはオフィスでエリアボス戦の情報をまとめる作業をやるんだと言っている。攻略クランは他のメンバーをこのエリアに呼ぶ準備をするんだろう。
彼らと別れて、自分の別宅と自宅との転送盤を開通させると、早速従魔達が家の庭で遊び出した。草の上に積もっている雪を足で引っ掻いて飛ばしたり、雪草の上にダイブしたりしている。家を買ったからマップクエストで街の中を歩こうかと思ってたけど楽しそうに遊んでいる従魔達を見たら好きにさせることにする。慌ててクエストをこなすこともないよな。
「主もやるのです」
後ろ足で雪を蹴っ飛ばしているリンネが言った。
「よし、やろう」
ゲームなので温度の感覚は押さえているがそれでも手のひらに冷たさを感じる。雪を集めて丸いボールにして投げるとタロウが喜んでそれを口で掴むが、掴んだ瞬間に砕けてなくなってしまった。
「ガウ?」
「タロウ、雪は溶けるんだよ」
「ガウガウ」
それでも楽しいのか投げろと言ってくる。どう見ても犬だよ。霊狼フェンリルの威厳はどこにいった? クルミもフードの中よりも雪の中を走り回る方が楽しいみたいだ。子供は風の子、外で遊ぶんだよ。
結局この日は従魔達と雪で遊んで時間が過ぎてしまったけど、皆喜んでくれたからそれで良し。
次の日に市内を歩いていると、大通りに武器屋、防具屋の看板を見つけた。そのまま通りを先に進んだ先にあったテイマーギルドに顔を出した。ここの受付のNPCの名前はアバさんとアイラさん。もちろん2人とも猫族だ。タロウもリンネもクルミもしっかりと挨拶をしたよ。
「皆タクさんに懐いていますね。この関係を続けてくださいね」
「もちろんです」
「主は良い人なのです。皆主が大好きなのです」
リンネが言うとアイラさんが本当だねと言ってくれたよ。従魔達の挨拶が終わったところで彼女達に聞いてみる。
「武器屋、防具屋はこの街にあるのを見たのですが、忍具店もありますか?」
「ありますよ」
そう言って場所を教えてくれた。忍具店は大通りではなくてそこから路地というか細い道に入った中にあるらしい。
「ここは雪原の街という名前なんですけど、街の周囲はずっと雪原になっているんです?」
「そうですね。ここらは大きな雪原地帯なんです。タクさんが来られたのは南の山からですよね。それ以外の北、東、西は雪原ですが、ずっと先には森もあります。街の外には強い魔獣がいるので気をつけてください」
俺たちが入ってきたのが南門でテイマーギルドから先にあるのが東門だそうだ。どの門から出ても外は広い雪原になっていると教えてもらった。敵のレベルまでは流石に教えてくれなかったけど、これは自分たちで確認すればいいだろう。
お礼を言ってテイマーギルドを出た俺たちはマップを作成しながら教えてもらった忍具店を見つけた。
「こんにちは」
挨拶をしながらドアを開けるとドアについている鈴の音がした。
「いらっしゃい」
奥から年配の人族の男性が出てきた。普通のシャツとズボンの上にエプロンを身につけている。合成職人みたいな格好だよ。
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
「上忍のプレイヤーさんかい、雪原の街にようこそ」
そう言って俺たちに近づいてきた。男性だけどモトナリ刀匠と違って愛想がいいな。
「港の街のサツキのところで買った装備を強化しているんだな。それにバンダナも12段階の強化か。あんた、強い上忍だね」
やっぱり横の繋がりはあるんだ。ここの店の主人、この人の名前はカゲトラさんと言うらしい。
「ありがとうございます。俺は上忍のタク、従魔はタロウ、リンネ、クルミです」
そう言うと従魔達がきちんと挨拶をした。店の中を見ると刀と防具、そして忍具や巻物が並べられている。
「格好いいのです」
俺の頭の上からリンネが言った。タロウもガウと吠えている。クルミもフードから出て俺の肩に乗って見ているよ。確かに今までにない黒に近い深紫色の落ち着いた色合いの装束だ。
「これらはレベル115からでないと装備できないよ」
「レベル115。この刀もですか」
「そう」
「でもカゲトラさん、ここには1種類しかありません。AGI系、STR系のどちらに特化している武器、防具なんですか?」
数種類あると思ったら防具も刀も1種類なんだよな。
俺が聞くとカゲトラさんが教えてくれた。
「このエリアからまたこの装備を強化するんだよ」
「今までと同じ強化のやり方ですか?」
「それは自分で確認するんだな」
やっぱりそこは教えてくれないのか。あとで聞いたらこの雪原の街では強化はできないと言われたよ。つまり、この街で115までレベルを上げて装備を更新し、このエリアのどこかにある次の街に行かないと強化ができない。
「ありがとうございました。まずはレベルを115にあげる為に頑張ります」
「頑張ります。なのです」
「無理するなよ。115になったら来るといい」
お礼を言って店を出ると頭の上に乗っているリンネが言った。
「主、早速お外に出て敵をぶっ倒してレベルを上げるのです」
「うん、でもその前に街の中をしっかりと歩いて地図を作成しよう」




