110くらいかも
俺たちは飛ばされた場所からダンジョンのある洞窟に入って島のヌシに会いに行った。ヌシの前でボスである大きなヤシガニと戦闘をして時間切れで負けたと報告する。黙って聞いていたヌシは俺たちの話が終わると顔を向けたまま言った。
「あいつは固く、そして素早い。倒すのは簡単ではないが全く倒せないという事もない。しっかりと鍛錬するんだな」
「戦っていると、突然口から泡を吹いてきました。あの泡の正体は何なんです?」
「それは自分たちで確認する事だ」
予想はしていたけど、やっぱり大事なところは教えてくれないよ。
「ありがとうございました。また挑戦します」
「挑戦します。なのです」
「ガウ」
俺たちはヌシに礼を言うと洞窟を出て転移の腕輪で自宅に戻った。
自宅に戻ると、従魔達が庭で遊んでいるのを横目に端末にいつもの4人に送るメッセージ、報告を打ち込む。
ダンジョンのボス部屋までのルート、ルート上にいる魔獣の種類とレベル。ワープの場所、宝箱の場所、ボス戦でのダンジョンボスの挙動などをメモに書いてから、クルミのレベルが上がったことでダメージバックが15%になったことも書いてグループメッセージを送った。時間が30分制限というのももちろん書いたよ。無制限じゃないというのは言っておかないと。
しばらくすると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
庭で遊んでいたリンネが立ち止まると俺に顔を向けて言った。相変わらず電話の取次は飽きないらしい。
「ありがと」
端末を見ると相手はクラリアだ。今日の活動が終わったのでこれからトミーとここに来るという。スタンリーとマリアも後から来るそうだ。
「お友達が来るのです?」
通話を終えるといつの間にか傍にいたリンネが言った。
「そう。いつもの4人だよ」
いつもの4人、そう言うだけで従魔達にはそれが誰なのか分かる。ランとリーファは浮いたままでサムズアップをしてきた。少し込み入った話になるだろうと洋室にお茶と果物を用意してしばらくすると情報クランの2人がやってきた。彼らを洋室に案内する。従魔達は庭で遊んでいる。
「私たちがオフィスを出る時に攻略クランのメンバーがオフィスに戻ってきたの。なので2人ももうすぐ来ると思うわ」
椅子に座るとクラリアが言った。
「じゃあ揃ってから始めた方がいいよね」
待っている間は3人で雑談だ。俺はずっとダンジョンに篭っていて山辺の街には顔を出していない。聞いたら多くのプレイヤーが山辺の街にやってきてそこで活動をしているそうだ。街の前の森よりも南北の門から続いている洞窟で経験値を稼いでいるパーティの方が多いと言う。森の中は視界が悪いこともあって同じレベルの敵でも討伐の難易度が上がるよな。
情報クランは手分けをして洞窟の調査を行っている。広場の奥からは奥に伸びている通路が3つあり、最深部にいるトカゲのレベルは96だそうだ。つまり坑道にいる敵は93から始まって最高96で終わる。
「そこからさらにレベルを上げるにはもう1つの街を探してそこでやれということね」
そんな話をしていると庭にクラリアとマリアが入ってきた。早速タロウを撫で回しているマリア。
「遅くなってすまなかった」
「大丈夫だよ」
タロウを撫でていたマリアも洋室に上がってきて全員が揃った。従魔達は挨拶が終わると皆精霊の木の周りで遊んでいるよ。全員が揃って打ち合わせが始まった。議題は俺の報告に基づいたダンジョン攻略だよ。
「タクがダンジョンボスまで攻略してくれたおかげでかなり情報が集まったわ」
クラリアが最初に言った。
「いや、ボスは攻略してないよ。時間切れで負けたし」
「ボスの顔を見ている、戦闘をしている。すごいことだよ。それにしてもレベル90でボス戦まで行くとはな。バンダナの効果もあるがタクが強いプレイヤーだってことの証明だ」
そう言っているスタンリー。こっちは強化屋のギルバートさんの言葉を信じて突き進んだだけなんだけどね。あと俺が強いというか従魔達が超優秀なんだよ。これは間違い無いぞ。
「移動時間はどれくらい?」
「第3ワープから第6ワープまでは1時間半、そこからボス部屋までは2時間弱。合計で3時間半くらいかな?こちらのレベルや敵との戦闘時間によって変わるだろうからおおよその時間だよ」
「ボスの部屋までのルート、それと変わるかもしれないどけど宝箱の場所と中身。これらの情報が欲しいという要望はきているの。それでボスの強さ、レベルは?タクの印象でいいんだけど」
「どうだろう。俺たちが90、実質100近いとして、ボスは110近いじゃないかな。時間切れで放り出されたけど、もし時間制限がなかったら、ジリ貧でやられていた気がする。とにかく硬いんだよ。そして見た目以上に素早い。物理だけじゃ無理だろうな。精霊魔法がダメージソースになる気がする」
「途中で泡を吹いてまた一段と早くなったって、それって狂騒状態になったんじゃないの?」
それまで黙って俺とクラリアとのやりとりを聞いていたマリアが言った。俺もそうかもしれないと思っている。戦闘をしているとある時点でボスの挙動が変わった。俺がそう言うと4人はそれがボスが狂騒状態になった可能性が高いという。
「その泡だけどさ、実際それを見てタクの思い当たるところはある?」
クラリアが聞いてきた。
「俺の予想だけどいいかな?」
そう言うと4人が構わない、というか是非聞きたいと言った。
「ボスが吹く泡、それ自体は2メートルほどの距離しか飛ばない。つまりボスに近づいて近接攻撃、あるいはヘイトを持っているプレイヤーをターゲットにして吹いてくる。逆に言うとボスから離れて攻撃やフォローをしている神官や魔法使い、ハンターじゃないと思うんだ。となると近接攻撃をしているプレイヤーの挙動に影響を与える何かなんじゃないかなと考えたんだよ」
俺が言うと皆なるほどと言っている。
「毒とか麻痺とか」
「ありえるな」
「スリップダメージってこのゲームじゃまだ無いわね」
マリアが言ったがその通りだ。じわじわと体力を削る様な魔法はPWLでは登場していない。その可能性もあるな。何にせよ、あの泡はやばい気がするんだよ。
「いずれにしても俺たちも実際に挑戦して検証するしかないな。レベル94だけど、攻略中に95には上がるだろう。ボス部屋の手前にいる最後のカニが98なら歯が立たない相手じゃないだろうし」
攻略クランが挑戦してくれるのならそれが一番だよ。ついでに勝ってくれ。俺がそう言うと勝つのは簡単じゃないだろうと4人全員が言った。どうして?
「5人で30分間、ボスの推定レベルは110前後。こっちは95で装備を強化しているのでどうだろう、97くらい?甘く見て98弱くらいか。それじゃあ厳しいな」
「マスターの言う通り。でも挑戦してボスの挙動を確認しておくのは大事よね。いずれまた挑戦するんだし。弱点とかも見つけられればいいけど」
攻略クランのトップ2人がそう言っている。ダンジョンボス戦やNM戦は負けても経験値が減る事はない。これは印章戦も同じだよ。
「情報クランももちろん挑戦するわよ」
こっちのクランも強いぞ。
「今回のこのダンジョンの調査。タクに丸投げというか、お任せしちゃったけどほぼ完璧な仕上がりになってる。ありがとう」
「いえいえ、こっちもレベルが上がったし、宝箱からキャッシュが手に入ったし。お互い様だよ」
それに情報料も入るだろうし。口にはしなかったけど。
俺の情報と目の前にいる4人が属している2つのクランがダンジョンボスに挑戦したらかなりの情報が取れるだろう。
情報クランでは自分たちも挑戦した後で、この島のダンジョンの情報を公開するつもりだそうだ。
「もちろん、情報を見ずに挑戦するプレイヤーもいる。でも情報を欲しているプレイヤーもいる。そんな欲している人のために情報を公開するの。もちろんクランとしての金策の意味合いもあるけどね」
攻略する前にある程度情報を持ちたいと考えているプレイヤーは多いだろう。言い方は悪いが楽して強くなれるのならそっちを選ぶ人が多いのは理解できるんだよ。以前の自分がそうだったから。
でも俺はこのゲームでは回り道万歳でやってきている。これはこれからも変わらない。人それぞれ楽しみ方があるよ。
攻略クランは明日から早速ダンジョン攻略をするそうだ。情報クランもダンジョンに挑戦するという。俺はとりあえずレベルを上げないといけないのと、しばらくダンジョンばかりだったので明日からは山辺の街から北方面を進もうと思っている。今後も定期的に連絡を取り合うことにしてこの日の活動を終えた。




