バンダナを強化しました
今はまだプレイヤーが誰もいない通りを歩いているのはNPCと俺たちだけだ。俺は他のプレイヤーの視線がないのは嬉しいが、従魔達はどうなんだろう?歩きながら聞いてみるとタロウは「ガウ」と吠え、クルミはタロウの背中に移動すると俺の目の前でジャンプした。
「タロウは主とこうやって歩くのが大好きなのです。人が少ないので歩きやすいと言っているのです。クルミも人が少なくて良いと言っているのです」
「なるほど。それでリンネは?」
「人が少ないと主を自慢できないのです。でも問題ないのです。主が嬉しいのが一番なのです」
皆殊勝なことを言ってくれるな。俺は人が少ない通りの真ん中で立ち止まると3体の従魔達をしっかりと撫でてやる。皆尻尾を振って大喜びしてくれた。
たっぷりと撫でてから再び左右を見ながら街の中を歩いていると強化屋の看板が目に入ってきた。広い通りに面した良い場所にある。ギルドもそうだったがこの店も丸太を組んだログハウス風の造りの大きな店だ。この街の建物はログハウス風で統一されているよ。
「ここに入るぞ」
「ガウ」
「入るぞ。なのです。このお店で主がもっと強くなるのです」
「俺だけじゃない、タロウもリンネもだぞ」
扉を開けて中に入ると、他の街の強化屋と同じく正面にカウンターがあり、その向こう側にオーバーオールを着ている5名のドワーフが立っていた。
「プレイヤーさんかい。いらっしゃい」
中央にいたドワーフが俺たちを見て声をかけてきた。
「いくつか強化をお願いします」
「沢山あるのかい?」
俺がハイと言うと、じゃあこっちにしようとカウンターではなくその隣の応接セットがある部屋に案内された。この人はここの強化屋の責任者で職人のギルバートさん。
「山の街の強化屋にいるジグは俺の友達なんだ」
「なるほど」
忍具店もそうだったけど、街が違っても横のつながりがあるという設定になっているんだな。
部屋に入るとテーブルの上にタロウとリンネのスカーフ、片手刀を2本、端末からNQの装備、そして最後にバンダナを置いた。次に強化石をそれぞれの装備の上に置いた。
バンダナの上に黒色の神魂石を置くと、それを持ってるのかと黒色の石を見ながらギルバートさんが言った
「宝箱から出てきたんですよ」
「なるほど。2つ目の黒色の神魂石もタクが手に入れたんだな。ツイているじゃないか」
最初の石を手に入れたのを知っているんだ、いや、バンダナを見たら強化済みだからわかるか。
「この街では強化は3段階、3回までですよね?」
これは確認しないと。
「その通り、このバンダナ以外は石3つ、3段階までだ。強化料は1個につき50万、他の街と変わらないぞ」
「じゃあお願いします」
任せておけとギルバートさんが部屋から出てしばらくすると装備だけ持って戻ってきた。
「スカーフは赤が3段階、紫も3段階強化した」
まずは強化したスカーフをタロウとリンネの首に巻いた。2体とも大喜びだ。クルミは自分は関係ないと分かっているのか俺の肩の上で尻尾を振っている。タロウとリンネが強くなったのが嬉しいのかな。
「タクのSTR系の片手刀は2段階強化し、AIG系の片手刀を3段階、AGI系のNQ装備を1段階強化したぞ」
NM戦でHQが出たのは防具だけで武器はサツキさんがやっている『島の街忍具店』で買ったものを使っていたからこれで少し強くなっただろう。
「ありがとうございます」
最後にバンダナを手に取ったギルバートさん。
「バンダナは6段階強化した。ただここで強化したからこのバンダナはもうこのエリアではこれ以上強化できない」
「はい。知っています」
新しいバンダナを頭に巻くとそれを見ていたギルバートさん。
「タクは今レベルいくつなんだい?」
「85です」
「12段階の強化をしたそのバンダナだけでレベルで10ほど上がっているぞ」
「えっ?本当ですか?」
そう言うと頷くギルバートさん。バンダナなしの状態と比べて10レベルとなると、1段階でレベルで0.8ちょっとの上昇。こう言う理解になるのかな?
俺がそう聞くと、いやそうじゃないとギルバートさんが言った。
「バンダナは全ステータスの上昇だ。強化をしていないバンダナを装備した時点で、すでに強くなっていて、レベルが少し上がっているのと同じだ。それに12段階の強化をして結果的にレベルに換算すると10レベルほど上がっているということだ」
なるほど。となると石1個で約レベル0.8強じゃなくてそれよりも下なんだ。
「それとだ、今の話はバンダナだけの話であって、他の装備、例えばたった今STRとAGIを強化した片手刀はそうはならない。ステータスの中の1つだけを強化しているだけだからな。全体のレベルアップとはならないんだ。もちろん強化した分、強くはなっているぞ」
「なるほど。理解しました。防具も同じですね?」
「その通り。AGIのステータスだけ上昇しているが他のステータスは変わらないからな。プレイヤーのレベルに換算すると、強化をしたことで少しだけ上昇はするするが、その値は低い」
よく考えると今までの6段階の強化をしているバンダナでレベルが5ほど上がっていたんだ。どおりで4つ5つ格上の敵でもやばい場面がなかったんだな。俺はそれは従魔の能力だと思っていたけど、従魔以外に自分自身も強かったんだ。
また神魂石を持ってきたら強化してやるよ。と言ってくれたギルバートさんにお礼を言って俺たちは強化屋を出た。
「主が強くなったので従魔は皆鼻高々なのです」
「ありがとう。タロウとリンネも強くなってるぞ。そしてクルミは前から強いぞ」
そう言うと皆大喜びだ。
通りを歩いて街の端の方に行くとそこにテイマーギルドがあった。相変わらずどこの街でもテイマーギルドは中心部から離れた場所にある。そして受付嬢が猫族のNPCであるのもどこの街でも同じだ。これはブレない。
「こんにちはなのです」
「タクさんと従魔さん、いらっしゃい」
この山辺の街のテイマーギルドの受付嬢はリコさんとキキさん。2人ともカウンターから回ってきてタロウとリンネとクルミに話しかけてから顔を上げた。
「皆タクさんが大好きみたいですね。親密度はタロウちゃんとリンネちゃんがマックス、クルミちゃんもほぼマックスです」
「ありがとう」
クルミが最後に従魔になったから親密度はどうかなと心配してたんだよ。ほぼマックスなら何も問題ない。
挨拶が終わった後で彼女たちにこの街について聞いた。もちろん詳しい事は教えてくれないが、それでもいくつか情報がとれた。
この山辺の街には街の外に出る門が東西南北に4つあり、俺たちが入ってきた東門がメインの城門で、正門と呼ばれている。
西門はそのまま山の中の坑道になっていてドワーフが採掘しているらしくてプレイヤーは入れないそうだ。ただ北門と南門は今は採掘していなくてプレイヤーが入っても良いらしい。
「ただどちらも坑道の中には強い魔獣がいるので注意してくださいね」
「わかりました」
プレイヤーの狩場として2箇所の坑道、そして街の前の草原から森を用意しているんだな。街の前にいた魔獣のレベルが93。坑道にいるのも最低でも93かな?奥に行けばそのレベルが上がるんだろう。
いずれにしても情報クランか攻略クランが探索をするだろう。再びマップを作成しながら街の中を歩いてみるが、強化屋はあったが武器、防具屋はなさそうだ。忍具店も今のところ見つからない。
歩いていると南門の前に来た。門はしっかりと閉じられている。坑道にいる魔獣が街の中に入ってこない設定なのだろう。
「主、この門を開けて、洞窟の中に突撃するのです」
「そうだな。一度中を見てみようか」
「突撃なのです」
この中に魔獣がいるのを知っているリンネが俄然やる気になっている。隣を見るとタロウもだ。クルミは見えないがおそらく同じだろう。
俺たちはそのまま南門に近づくと目の前にウインドウが現れた
『門の外に出ますか?』
『はい』
を押すと一瞬空気が揺れ、次の瞬間に坑道から少し入った場所に立っていた。背後を見ると門はしっかりと閉まっている。
中に入ると何も言わなくてもリンネが強化魔法をかけ、クルミが反射壁を出してくれた。俺は空蝉の術を唱えると準備完了だ。奥に歩き出してすぐに前方に体長1メートルほどの焦茶色のトカゲが通路にいるのが目に入ってきた。
(ミント、あれはトカゲだよね)
(はい。ケイブリザード。レベル93です)
やっぱり93か。こっちは85だけど強化屋のギルバートさんの話だと今の俺は実質レベル95くらいだと言ってたな。それに刀の強化もしている。それにしてもこのPWLに出てくるリザードはトカゲと呼ばれているが、恐竜のティラノサウルスの小型版と言った方がいいくらいだよ。
「あいつを倒すぞ」
「ガウ」
「ぶっ倒してやるのです」
近づくとトカゲがこちらに突進してくる。ギリギリまで引きつけて左に躱しながら片手刀を腹に振った。しっかりとダメージを与えた感触がある。
「いけるか?」
「大丈夫なのです」
そう言ったリンネが精霊魔法を撃つ。タロウは横から強烈な蹴りを入れる。93のトカゲだったが危なげなく倒すことができた。強化したせいか動きが軽いし刀のダメージのしっかりと出ていた。
トカゲを倒すと俺たちはレベルが上がって86になった。レベルが上がる寸前だったんだ。クルミの身体は光らない。
「主がまた強くなっているのです」
リザードが消えるとリンネが言った。タロウもクルミも尻尾を振っている。
「お前達もだぞ」
先に強化をしてよかった。結局その後2体のリザードを危なげなく倒したところでこの日の活動を終えた。6段、いやトータル12段階強化したバンダナ。これは神装備だよ。




