日常が戻った
PWLに日常が戻ってきた。日常ってのも変な言い方だけど、イベントが終わると今まで通りにプレイヤーは自分がやりたい事をしてゲームの中で日々を過ごす。
俺はいつものルーティーンに戻して午前中は自宅、午後から外という活動を再開する。外での活動は大森林の小屋をベースにして周辺の敵を倒して経験値を稼ぐ日々だよ。島のダンジョンは攻略クランがしていて、情報クランは新しい街を探して大森林の小屋から西方面を探索している。
外でレベル89や90の敵を相手に経験値を稼いでいるとレベルが85になった。その時にクルミの全身が光った。
(クルミはどういう変化があったの?)
(はい。魔法壁の有効時間が30分になりました)
AIのミントが教えてくれた。効果時間延長は嬉しいぞ。
「クルミがまた強くなったのです」
ジャンプしているクルミを見ていたリンネとタロウ。
「そうだ、お前たちもまたレベルが上がって強くなったんだぞ」
「主のために沢山強くなるのです」
「ガウガウ」
俺はありがとうと言って3体の従魔をしっかり撫でてやる。85になると90の敵もそれほど脅威ではなくなった。防具、腕輪、そしてバンダナ。HQ装備万歳だよ。防具はAGI系のHQを着ているけど85に上がるとさらに避けれる様になった。
夕刻までそこで経験値を稼いだ俺は転移の腕輪で開拓者の街の自宅に戻ってきた。ランやリーファがタロウ、リンネ、クルミと庭で遊んでいるのを見ているといつもの4人が庭に入ってきた。彼らと会うのも数日ぶりだよ。彼らも今日のクランとしての活動が終わったところだそうだ。フレンドリストを見ると全員89になっている。
「89になってるんだ」
「ついさっき上がったんだ。タクだって85だろう?」
お茶と梨を置くとタロウを撫でていたマリアが縁側に座った。ダンジョンについて聞くと4つあったワープが2つ、第2と第3に絞られたそうだ。彼らはダンジョンを攻略しながら外でレベルを上げている。
「第1、第4はその先で行き止まりになっているのを確認した。だが行き止まりの近くの魔獣のレベルが86なんだよ。レベルは下だが常時2から3体が固まっている上に、あまり休める場所がなくて連戦になる。カニもトカゲもレベルは86だけど体力は多い上にさらに硬くなっている。結構きついよ」
敵は相変わらずヤシガニとトカゲらしい。それにしても攻略クランがキツいと言うくらいだから相当なのだろう。
「最初のワープのところが79とかじゃなかったっけ。そんなに強くなるの?」
「そこから結構奥に進むのよ。分岐の数は減るんだけどね」
マリアが補足して説明をしてくれた。彼らによるとワープがある4つの分岐点からそれぞれ2本の洞窟が奥にまっすぐに伸びていて敵の数が増えて、レベルが上がる。それらを倒しながら奥に進むとまた2つの分岐があり、その先に進むとそこで行き止まりになっているそうだ。
「今のところ敵はレベルが高いカニとトカゲだけだ。トラップもない。でもこのまま強い敵を倒して奥に進んでいくだけとは思えない。敵の種類が増えるのか、あるいは洞窟の先の景色は違っているのか」
彼らによるとレベル80台で攻略するのであれば全員がHQ装備で身を固めるのが最低条件になる。それが無理ながらレベルを上げてから挑戦しないと奥に進めないとい言っている。
「それほどの難易度なんだ」
俺の呟きに頷くスタンリーとマリア。彼らは引き続きダンジョンを探索し、2つに絞ったルートをさらに絞り込むと言っている。島のヌシが正解は1つしかないと言っているのは全員が知っているのでまずはルートの絞り込みを最優先にしている。
「キツいけど経験値は入る、たまに印章も出る。モチベは保てるよ」
「確かに」
一方で情報クランは西方面の探索を続けて西の端の山裾まで到達したそうだ。この港の街の西側に広がっている盆地は東西よりも南北の方がずっと長い。南北には相当の距離がある。俺たちが海沿いに北上してもなかなか山が近づいてこないんだよ。
「山裾の魔獣、熊と獣人のレベルは89。ただ山裾まで森が続いているので視界が良く無いの。こっちもレベル差は1だけど簡単じゃないわね」
「ただ89の敵が出てきた。街は近いというのが俺たちの認識でね、明日からは西じゃなくて北西方面を探索するつもりだ。レベル90が見つかれば街は近くにあるんじゃないかと見ている」
こちらも攻略の先頭を走っていることもあってモチベが保たれているそうだ。しかも経験値以外に神魂石や印章もドロップしている。
「おそらく情報クランが次の街を見つける方が先だろう。そこでもし武器や防具を強化できるのであればそれをすることでダンジョンの攻略が楽になると考えているんだ」
なるほど。装備の質とレベルが上がれば攻略は楽になる。
「そのためにダンジョンの攻略ルートの絞り込みが私たちのクランの仕事ね」
スタンリーに続いてマリアが言った。普段から情報を交換しながら攻略をしている2つのクラン。それぞれの役割をしっかりと理解しているんだな。
「タクも大森林の小屋から探索をしているんだろう?」
そう聞いてきたトミーに顔を向ける。
「まだ小屋の周辺だけだけどね。での今の話を聞いたら俺は小屋から北側に進んだほうが良さそうだね」
そう言うとクラリアとトミーからそうしてくれと頼まれた。
「主に任せると安心なのです。タロウとリンネのクルミがしっかりと主のお手伝いをするのです、大船に乗った気持ちで良いのです」
「ガウ」
それまで俺の膝の上で大人しくしていたリンネが言った。タロウも吠えている。それにしてもそんな言葉、どこで覚えたんだよ。
「リンネちゃんも言ってるし、北方面の探索はお任せするわね」
クラリアがそう言うと問題ないのですと答えるリンネ。大丈夫かいな。と、こっちが心配になるよ。
「リンネ、タロウ、お手伝いはいいがまずはレベルを上げないと厳しいぞ」
「はいなのです。明日から外で敵を沢山ぶっ倒してレベルを上げて強くなるのです」
「ガウガウ」
リンネもタロウもやる気満々だよ。肩に乗っているクルミも肩からタロウの背中に移動すると俺を見ながら何度もジャンプする。うん、クルミもやる気だよ。ここにいる4人も俺の従魔達に任せたら安心だな、なんて言ってるよ。レベルを上げながら少しずつ探索の範囲を広げていくしかないだろうな。なんと言ってもまだレベル85だし。
情報クランはキャンペーンで出たHQの装備についてこれが次の街で強化できるかどうかを確認したいそうだ。
「HQ装備は強化できないかもしれないわね。と言うのはさ、港の街で買った装備がすごく高いでしょう?買った装備がすぐに無駄になる設定にはしていないと思うのよ」
「言われてみたらそうだよね」
彼らの着眼点に感心したよ。店で買った装備を3段階強化したらHQとほぼ同等というイメージだ。キャンペーンで装備が手に入らなかったプレイヤー、そして第2陣、第3陣のプレイヤーとの不公平感をなくす意味でもHQはタダで手に入るが強化はできないという可能性があるんだな。
「まだ分からないわよ。新しい街を見つけて、そこに強化屋があって初めて分かるんだから」
「タクの黒魂石の強化も楽しみだよな」
スタンリーがそう言うとトミーが俺に顔を向けた。
「タク、その2つ目の黒魂石を持って山の街の強化屋に行ってみたらどうだい?強化できなくても何か情報が取れるかもしれないぞ」
彼がそう言うと俺を含めて全員がなるほど!と声を出して、それは試してみる価値があるぞと言った。俺もそこには気が付かなかったよ。山の街の強化屋さんにいた責任者のドワーフのジグさんに話をしてみよう。
「そうだな。ダメ元で一度行ってみるよ」
「主、ダメ元で行ってみるよ、なのです」
リンネはダメ元って意味わかってるのかな?




